教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

きょうは何の日 9月22日

国際ビーチクリーンアップデー

 

「国際ビーチクリーンアップデー」は、1985(昭和60)年9月22日、アメリカ・サンフランシスコに本部を構える海洋自然保護センターによって制定されました。

 

海岸ごみと言えば、……。

「名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実一つ…」

柳田国男伊良湖岬の海岸で見つけた椰子の実の話を、島崎藤村が詩にしました。

私は、北海道・猿払村のオホーツク海岸でロシア語ラベルの空き瓶に出会いました。

「ごみ」にだってときにはロマンがありますが、現実はそんな悠長な話ではありません。

 

以下、「Wikipedia」より紹介します。

国際海岸クリーンアップキャンペーンは、米国のNGO団体である「オーシャン・コンサーバンシー(Ocean Conservancy)」の主宰で1986年より始まったごみ拾いキャンペーン活動。世界中で同じ時期に実施され、拾った海岸ゴミについて共通の方法でデータ収集を実施している。現在、一日で行われる世界最大規模の海岸クリーンアップキャンペーンで、2003年には91ヶ国が参加している。

オーシャン・コンサーバンシーは、米国では毎年約5%の割合で海岸ゴミが増加しており、国家規模の問題であることなどを指摘している。

琉球列島を除く日本では「クリーンアップ全国事務局(Japan Environmental Action Network, JEAN)」が主宰し、1990年から毎年春・秋の2回、「海岸クリーンアップキャンペーン」を実施している。

琉球列島ではNPO法人沖縄O.C.E.A.N.が「国際海岸クリーンアップキャンペーン」の窓口となっている。

ゴミを出さない社会の仕組みを提案するために収集データを活用する、としている。

最も多い海岸ゴミは製品タバコ関係(フィルター・パッケージなど)で、2004年には、世界中で拾われた海岸ゴミの21.2%を占めていた。

 

「クリーンアップ全国事務局(Japan Environmental Action Network, JEAN)」の活動については、 JEANのHPより紹介します。

クリーンアップキャンペーン


クリーンアップキャンペーンとは
 JEANが主催している「クリーンアップキャンペーン」は、「春のクリーンアップ」と秋の「国際海岸クリーンアップ」の二種類。
 そのうち、秋の「国際海岸クリーンアップ(International Coastal Cleanup : ICC)」は、アメリカの環境NGO「オーシャン・コンサーバンシー(Ocean Conservancy : OC)」の呼びかけに応えて、

★1990年に日本でもスタートした国際的な海洋環境保護活動です。

★世界と一つにつながっている海のごみ問題を解決するために、身近なところでだれもが簡単に参加できる「はじめの一歩」として、

★毎年100ヶ国前後の国と地域で行われています。

★一般社団法人JEANは、日本でのクリーンアップキャンペーンの企画運営とICCのコーディネートを行うだけでなく、クリーンアップキャンペーンで得られた結果から、海ごみ問題解決に向けた様々な活動を行っています。

クリーンアップキャンペーンの目的
春のクリーンアップ
★実施期間:4〜6月
 一度野外に出てしまったごみは、どこかで回収しないかぎり、風、雨、波などの影響で、別の場所に移動し続けます。また、はじめは一個であったごみも、長期間移動を繰り返すたびに劣化して破片化し、大量の小さなごみに変わっていきます。こうなると回収すら困難な状況になってしまいます。  春のキャンペーンは、海ごみの問題や実態を多くの人に知ってもらうために、アースデイ(4月22日)や世界環境デー(6月5日)に合わせて、身近な場所に散乱しているごみを拾う活動です。多くの場所で多くの人に少しでも多くごみを拾っていただくことが目的です。
秋の国際海岸クリーンアップ(ICC
★実施期間:9〜10月
 海のごみ問題は、拾うだけでは決して解決しません。それはいくらごみを回収しても、新たなごみが繰り返し発生し、漂着するためです。秋のキャンペーンでは、海ごみ問題の根本的な解決方法を探るため、アメリカの環境NGOオーシャン・コンサーバンシーが提案する世界共通の手法(ICC)を取り入れ、ごみの内容を調査し、ごみの問題点を参加者一人ひとりに気づいてもらいながら、改善するための方策を探っています。これから先もずっとごみを拾い続けるのではなく、私たち自身がごみを減らさなければ海ごみ問題は解決しないことを、参加者一人ひとりに理解してもらうことが目的です。
ここが特徴! ただごみを拾うだけじゃない、国際海岸クリーンアップ(ICC
1.世界共通の方法でごみのデータをとりながら拾う
 ICCの一番の特徴は、散乱するごみのデータを世界共通の方法でとることです。ごみを拾ってその時・その場をきれいにすることはあたりまえ。この問題を解決するためにはもう一歩進んで、ごみを種類ごとに数えて、その正体を知ることが必要です。蓄積されたデータは、広く公開し、ごみ問題解決のために利用されています。

2.世界中で一斉に、同じ時期に実施
 ごみは、風や海の流れに乗って広い海を遠くまで旅します。そのため、日本の海岸にはロシア・中国・韓国から流出したごみがたどり着きます。一方で日本から流れ出したごみは、太平洋を東に流れ、北西ハワイ諸島アメリカ西海岸へと向かいます。人間の世界には国境がありますが、海は世界と一つにつながっています。よって世界中で同じ時期に一斉に、同じ方法でデータを集め、比較する必要があります。

3.ごみを元から出さない仕組みをつくるためにデータを活用する
 拾うだけでは、またいつかごみはやって来ます。拾っても拾ってもきりがないごみ拾いに終止符を打ち、拾わなくてもいい世の中にするためには、ごみを生まない(出さない、作らない)ことが肝心です。JEANでは、「ごみを拾って調べて結果を知らせ、拾うより生まない暮らしを」と呼びかけ、ICCデータを政策提言等に生かしてきました。特に長年蓄積されたICCのデータは、貴重な日本における漂着散乱ごみのデータとして、2009年7月、超党派議員立法による「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全 に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律(略称:海岸漂着物処理推進法)」制定の際に大きな力となりました。

4.調べることを通じて、ごみ問題への気付きを促す
「拾うことに専念する方が沢山のごみが拾える」という意見もあります。でも本当にそれでいいのでしょうか。「回収の促進」以上に難しいのが,ごみを生まないようにすること、すなわち「発生抑制」です。そのためには、より多くの人がこの問題の加害者であることに気付き、私たち一人ひとりが普段の行動を変えて行かねばなりません。ICCという世界共通のツールを使うことにより、過去や他の地域と比較しながら、参加者一人ひとりに海のごみ問題への気づきを促すことができます。またカードへの記入を通じて、初対面の方とも会話が弾み、仲間を広げ、活動継続のエネルギーをお互いに与えあうこともできます。一人では続けられない活動も,共通のツールを用いることで、世界と時間軸でつながりあうことができるのです。

 

 

 

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」④

「日本の初回報告に関する所見のまとめ」

 

2022年8月22、23日、スイス・ジュネーブにおいて国連の障害者権利委員会による締約国審査(「建設的対話」)が行われました。

日本からも多くの人が現地に行かれ、ネットではいくつもの報告を目にすることができます。

公的な記録はまだ出ていませんが、両者のやりとりは容易に想像できます。

 

9月9日、障害者権利委員会から「建設的対話」を経てなお残った「懸念」と改善のための「要請」が示されます。

「Concluding observations on the initial report of Japan」(私的仮訳「日本の初回報告に関する所見のまとめ」)がそれです。

 

「『障害者権利条約』と『インクルーシブ教育』①」でも触れたように、政府による公的な日本語訳はまだ出ていません。ここではMicrosoftの翻訳機能による日本語訳を掲載し、「私的仮訳」とします。

日本の初回報告に関する所見のまとめ

教育(第24条)
51.委員会は、次の事項について懸念する。     
(a)医学的評価を通じて、障害児の分離された特殊教育を永続させ、障害児、特に知的障害または心理社会的障害のある子どもおよびより集中的な支援を必要とする子どもにとって、通常の環境での教育を利用できないようにすること、ならびに通常の学校における特別支援教育クラスの存在。    

(b)障害児を正規の学校に入学させる準備ができていないと認識され、事実に即したため、障害児を通常の学校に入学させることを否定し、2022年に発行された閣僚通知により、特別クラスの生徒は学校時間の半分以上を通常の授業に費やすべきではない。    
(c)障害のある学生に対する合理的配慮の不十分な提供。    

(d)正規の教育教師のインクルーシブ教育に対するスキルの欠如と否定的な態度。

(e)ろう児のための手話教育、盲ろう児のためのインクルーシブ教育を含む、通常の学校における代替的かつ拡張的なコミュニケーションおよび情報方法の欠如。    

(f)大学入試や学習プロセスを含む高等教育における障害のある学生のための障壁に対処する、国家の包括的な政策の欠如。    

52.    委員会は、インクルーシブ教育の権利及び持続可能な開発目標4、目標4.5及び指標4(a)に関する一般コメント第4号(2016年)を想起し、締約国に対し、次のことを要請する。
(a)分離された特殊教育の停止を目的として、教育、法律及び行政上の取極めに関する国の政策の範囲内で、障害児のインクルーシブ教育を受ける権利を認識し、かつ、障害のあるすべての生徒が、あらゆる教育レベルにおいて必要な合理的配慮及び個別化された支援を提供されることを確保するため、特定の目標、時間枠及び十分な予算を伴って、質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択すること。    

(b)すべての障害児が正規の学校にアクセスできることを確保し正規の学校が障害のある生徒の正規の学校を拒否することを許可されないことを確保するための「拒絶されない」条項および方針を制定し、特別クラスに関する閣僚通知を撤回すること。    

(c)すべての障害児が、個々の教育要件を満たし、かつ、インクルーシブ教育を確保するための合理的配慮を保障すること。    

(d)インクルーシブ教育に関する正規の教育教員及び非教育職員の訓練を確保し、障害の人権モデルに関する意識を高めること。

(e)点字、イージーリード、ろう児のための手話教育、インクルーシブ教育環境におけるろう文化の促進、盲ろう児のためのインクルーシブ教育へのアクセスを含む、通常の教育環境における拡張的および代替的なコミュニケーションモードおよびコミュニケーション方法の使用を保証すること。    

(f)大学入試や学習プロセスを含む高等教育における障害のある学生のための障壁に対処する国家包括的な政策を策定する。

 

「懸念」および「要請」の(a)(b)に絞って稿を進めます。

 

(a)において、障害者権利委員会は「(日本の取り組みは)障害児の分離された特殊教育を永続させ通常の環境での教育を利用できないようにする」と懸念を示します。さらに、特別支援学級の存在も問題にしています。

日本のやっていることは、「分ける教育」を永続させ、普通学校・学級での教育を利用できないようにするものじゃないかと言っているのです。「アンチ・インクルーシブ教育」の烙印です。ーー日本政府の言葉を尽くした説明の後の評価がこれです。外からの目は冷静にことの本質を見抜いています。

 

その上で、こう「要請」しています。

分離された特殊教育の停止を目的として特定の目標、時間枠及び十分な予算を伴って、質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択すること

つまり、「分けない教育」の実現というゴールを示した上で、「分ける教育」をやめていく工程表を示すように求めているわけです。

「日本政府さん、そろそろインクルーシブ教育のスタートラインに着きなさいよ」と言われているのが2022年時点の現状です。

 

(b)については、次回に触れます。

 

                            (つづく)

 

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」③

「事前質問」と「事前質問への回答」

 

2016年5月の日本政府の「政府報告」を受けて、国連の障害者権利委員会による締約国審査(「建設的対話」)が行われます。そのための準備として、「事前質問」と「質問への回答」があります。

2019年10月29日、国連から「第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問」が示されます。

コロナ禍により審査が先延ばしされ、2022年8月22、23日に行われることになりました。それに合わせて、5月31日に「第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問への回答」が提出されています。

 

2019.10.29 第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問
教育(第24条)
24. 以下についての情報を提供願いたい。
(a) ろう児童及び盲ろう児並びに知的又は精神障害のある児童を含め,障害のある全ての者のために,分離された学校における教育から障害者を包容する(インクルーシブ)教育に向け移行するための,立法及び政策上の措置並びに人的,技術的及び財政的リソース配分
(b) 個別化された支援を提供するためにとられた措置。全てのレベルにおける一般の(mainstream)教育において障害者に対する合理的配慮の拒否を防ぐためにとられた措置。また,質の高い障害者を包容する(インクルーシブ)教育についての教職員に対する制度的な研修を確保するための措置。
(c) 全てのレベルの教育(第三次教育及び高等教育を含む)における,性別,年齢,障害で他の生徒と比較し分類した障害のある生徒の退学率。

 

2022.5.31 第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問への回答
教育(第24条)
質問事項24 (a) に対する回答
109. 我が国では、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応えられるよう、通常の学級、通級による指導(多くは週1~2時間)、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の整備を行っている。同時に、学習指導要領の改訂等を通して障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が共に学ぶ機会である「交流及び共同学習」を拡充している。また、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する支援や通常の学級に在籍するための権利保障を進める観点から、立法上、政策上、財政上の措置を講じた(詳細は以下の回答を参照)。
110. 立法措置としては、以下の措置を講じた。
1) 障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという就学先決定の仕組みから、本人及び保護者の意向を可能な限り尊重する仕組みへの改正
2) 学習指導要領の改訂による特別支援学校とその他の学校の教育課程の連続性の強化
3) 通常の学級において学習活動上のサポート等を行う特別支援教育支援員や医療的ケア看護職員の省令への位置付けによる配置促進
4) 高等学校における通級による指導の制度化
5) 公立小中学校等施設に対するバリアフリーの義務化
6) 国及び地方公共団体への医療的ケア児が在籍する学校への支援等を義務付け等
111. 政策上の措置としては、以下の措置を講じた。
1) 交流及び共同学習に関する各自治体の好事例を取りまとめた「交流及び共同学習ガイド」の改訂
2) 授業で活用可能な「心のバリアフリーノート」の作成
3) 通常の学校の教師に対し、特別支援教育科目の履修を必修化するといった、全ての教員を目指す学生が特別支援教育を学ぶ機会の確保
4) 教員への様々な研修の機会の提供等
112. 財政措置としては、教員配置や外部人材の配置を拡充するため、以下の措置を講じた。
1) 特別支援教育支援員や医療的ケア看護職員の配置に係る財政支援の充実
2) 小中学校の通級による指導の教員定数の基礎定数化
3) 高校の通級による指導に関する加配措置の充実

質問事項 24 (b) に対する回答
113. 個別化された支援を提供するため、以下の措置を講じた。
1) 2017年以降の小学校学習指導要領等の改訂において、通級による指導を受ける児童生徒について個別の指導計画と個別の教育支援計画の作成を義務づけ
2) 特別支援教育支援員の配置促進
3) 一人一人に応じた入出力支援装置の整備支援やICT活用にかかる調査研究等、個々の障害の状態等に応じた学びの充実に資する予算の確保
4) 2021年に「障害のある子供の教育支援の手引」を改訂し、学校や教育委員会に各障害種別に教育的対応を明示
114. 合理的配慮については、以下の措置を講じた。
1) 2021年の障害者差別解消法の一部改正により、合理的配慮提供義務を私立学校にも拡大
2) 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における合理的配慮提供事例の提供
3) 学校関係者を対象とした合理的配慮推進セミナーの開催等を実施
115. 教職員に対する研修については、以下の措置を講じた。
1) 通常の学級の教員も含めた全ての教職員の特別支援教育に関する理解促進のため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所や独立行政法人日本学生支援機構都道府県等において研修を実施
2) また、通常の学校の教師に対し、特別支援教育科目の履修を必修化する等、教員が特別支援教育を学ぶ機会の確保を制度化

 

日本政府が提出した「政府報告」に対して、「障害者権利委員会」からはインクルーシブ教育という大前提部分のズレについての「事前質問」が寄せられました。

 

分離された学校における教育から障害者を包容する(インクルーシブ)教育に向け移行するための,立法及び政策上の措置並びに人的,技術的及び財政的リソース配分」、つまり、分ける教育をやめて分けない教育に移行するための法的、政策的、人的、財政的リソース(資源)についての情報を求めています。

 

それに対する日本政府の「回答」はこうです。

我が国では、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応えられるよう、通常の学級、通級による指導(多くは週1~2時間)、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の整備を行っている。同時に、…「交流及び共同学習」を拡充している。

 

質問と回答が全く噛み合っていません。国会答弁と同じ構造です。

日本政府の主張は、つまるところ、今もこれからも分ける教育を続けるということです。少なくとも、質問した側にはそう読み取られるでしょう。

 

分ける教育を通して分けない教育を実現する。ーー論理破綻したあり得ない主張ですが、それをもって審査(建設的対話)に臨むことになります。

 

                              (つづく)

きょうは何の日 9月19日

苗字の日

 

9月19日は「苗字の日」です。

 

国立公文書館のHPに掲載されている「国立公文書館ニュース」より引用紹介します。

苗字を名乗らなかった時代の話

 

 明治維新後、新政府は四民平等の社会を実現するため、平民に苗字を公称することを許可しました。1870(明治3)年9月19日に公布された太政官布告第608号「平民苗字許可令」です。現在、9月19日が「苗字の日」とされているのは、この日に由来します。 

太政類典に収められた「平民苗字許可令」

 

しかし、苗字の届出は、円滑には進みませんでした。その理由については定かではありませんが、一説には「税金を多く取られるようになるのではないかという警戒感があったため」とされています。

太政類典に収められた「苗字必称義務令」

 

 届出を促進したい明治政府は、1875(明治8)年2月13日、あらためて苗字の使用を義務づける「苗字必称義務令」という太政官布告を出し、すべての国民に苗字を名乗ることを義務づけました。
この布告令には、「自今必ず苗字を相唱うべく、もっとも祖先以来の苗字不分明の向は新たに苗字を設くべし」と記されています。つまり、「これからは必ず苗字を名乗りなさい。祖先以来の苗字が分からない者は、新たに苗字をつけなさい」というのです。
政府による苗字公称の強制は、各方面に混乱をもたらしました。寺に頼み込んで苗字をつけてもらったり、役場総がかりで全世帯の苗字をつくったという例も記録されています。

 

ちなみに、よく「江戸時代に苗字があったのは武士だけ」と誤解されますが、武士以外も苗字を持っていました。古くは室町時代に武士以外の人たちが苗字を名乗っていた資料もあります。しかし、江戸時代には武士以外は公的に苗字を名乗ることができなかったのです。

【参考文献】『苗字の歴史』(豊田武:著 吉川弘文館) 『ルーツがわかる名字の事典』(森岡浩:著 大月書店)

 

1870(明治3)年9月19日、太政官布告第608号「平民苗字許可令」

「自今平民苗氏被差許候事」

読みは「じこん平民、苗字差し許され候こと」となります。「自今(じこん)」は「これより」という意味です。

平民が苗字を公称することを許可するという太政官布告です。つまり、それ以前は平民が苗字を公称することを禁じていました。その公文書が、享和元(1801)年7月に江戸幕府が発した百姓・町人の苗字帯刀禁止の御触書です。平民が公的に苗字を名乗れなかったのは実質69年間です。

 

1875(明治8)年2月13日、太政官布告「苗字必称義務令」

「平民苗字被差許候旨明治三年九月布告候処自今必苗字相唱可申尤祖先以来苗字不分明ノ向ハ新タニ苗字ヲ設ケ候様可致此旨布告候事」
「これからは必ず苗字を名乗りなさい。祖先以来の苗字が分からない者は、新たに苗字をつけなさい」という、苗字公称の義務化です。

問題は、苗字公称を義務化した目的です。

1875(明治8)年1月14日、陸軍省が「平民苗字必可相用旨公布伺」を出しています。

「苗字を名乗らないものがあって兵籍調査(兵籍の作成)に支障が出ている」と訴えています。

1873(明治6)年に徴兵令が施行ました。その円滑な実施のためにすべての国民に苗字を名乗らせてほしいというのです。

苗字を名乗ることまでが「富国強兵」政策の手段だったとは……。

 

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」②

「障害者の権利に関する条約 第1回日本政府報告」

 

条約締約国は、批准した条約の内容と齟齬ないように国内法や制度の見直しを行う必要があります。その工程や進捗状況をまとめたものが、「政府報告」です。

 

日本が「障害者権利条約」を批准したのは2014年1月です。批准から2年以内に国連の障害者権利委員会に政府報告を提出しなければなりません。実際には、2016年5月になって「第1回政府報告」を提出しました。

教育部分を抽出して紹介します。

第24条  教育
154.憲法第26条は、すべての国民に対して、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を保障している。また、国民に対して、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を課しており、義務教育は無償と規定されている。


155.教育基本法第4条第2項において、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならないことが規定されている。また、障害者基本法第16条は、国及び地方公共団体に対して、障害者が、その年齢、能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童生徒が障害者でない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じること、また、国に対して障害者の教育に関する調査研究を推進すること等を義務付けている。


156.学校においては、学校教育法体系に基づき、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う特別支援教育が実施されており、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」が整備されており、引き続きこれらの場の充実に取り組んでいく。2014年5月現在、小・中学校において通級による指導を受けている児童生徒数は83,750人(2009年5月:54,021人)、小・中学校の特別支援学級に在籍する児童生徒数は187,100人(2009年5月:135,166人)、特別支援学校(幼稚部から高等部まで)に在籍する幼児児童生徒数は135,617人(2009年5月:117,035人)である。なお、特別支援学校に在籍する児童生徒等について、障害者基本法第16条の「障害者である児童及び生徒と障害者でない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって、その相互理解を促進しなければならない。」との規定等を踏まえ、小・中学校等に在籍する障害のない児童生徒との交流及び共同学習が行われている。また、我が国では、義務教育段階において、病弱・発育不全を理由として保護者の申し出により就学猶予・免除を受けている児童生徒は、2014年度は48人(0.0005%)である。


157. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校においては、日常生活上、学習生活上のサポート等を行う特別支援教育支援員の配置等による支援が行われている。特別支援教育支援員は年々拡充されており、2014年度については、前年度から3,400人増の49,700人分の地方財政措置を行っている。また、日常的に医療的ケアが必要な幼児児童生徒は公立特別支援学校において7,774人(2013年度:7,842人)、公立小・中学校において976人(2013年度:813人)である。なお、公立小・中学校において、日常的に校舎内において障害のある児童生徒に付き添っている保護者等の人数は1,897人である。


158.就学先決定の在り方については、2013年8月に学校教育法施行令を改正し、就学基準に該当する障害のある子供は特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとするとともに、保護者及び専門家からの意見聴取の機会を拡大した。その際、本人、保護者の意向を可能な限り尊重し、教育委員会が決定することとした。2014年度の小学校・特別支援学校就学予定者(新第1学年)として、市区町村教育支援委員会等の調査・審議対象となった人数は、42,352人(2013年度:39,208人)、うち、学校教育法施行令第22条の3(特別支援学校に就学することが可能な障害の程度)に該当する人数は8,651人(2013年度:8,453人)である。そのうち、公立特別支援学校に就学した人数は6,341人(2013年度:6,190人)である。


159.また、障害のある児童生徒等の保護者等の経済的負担を軽減するために、特別支援教育就学奨励費の支給等の支援が行われている。


160. 小・中学校等の学習指導要領において、障害のある児童生徒については、個別の教育支援計画等を作成することなどにより、個々の児童生徒の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的に行うこと、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習の機会を設けることのほか、誰に対しても公正、公平にし、差別や偏見のない社会の実現に努めること、障害のある人々などとの触れ合いを充実するよう工夫すること等を指導することが規定されている。なお、幼稚園、小・中学校、高等学校における個別の教育支援計画の作成率は年々向上しており、2014年度の作成率は81.5%である。


161.特別支援学校学習指導要領においては、障害種ごとの配慮事項が規定されている。視覚障害者である児童生徒を教育する特別支援学校の配慮事項として、小中学部においては「児童の視覚障害の状態等に応じて、点字又は普通の文字の読み書きを系統的に指導し、習熟させること。なお、点字を常用して学習する児童に対しても、漢字・漢語の理解を促すため、児童の発達の段階等に応じて適切な指導が行われるようにすること」等が規定されており、これらを踏まえた指導が行われている。また、聴覚障害者である児童生徒を教育する特別支援学校の配慮事項として、例えば小中学部においては「児童の聴覚障害の状態等に応じ、音声、文字、手話等のコミュニケーション手段を適切に活用して、意思の相互伝達が活発に行われるように指導方法を工夫すること」等が規定されており、手話をはじめとする多様なコミュニケーション手段を選択・活用した指導が行われている。また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における都道府県の指導者を対象とした研修の中で、手話又は点字に関する内容を扱っている。なお、小・中学校の通級による指導や特別支援学級で特別の教育課程を編成する場合は、特別支援学校の学習指導要領を参考とし、実情に合った教育課程を柔軟に編成することとしている。


162.「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」においては、障害のある児童生徒のための文字や図形等を拡大した教科書や点字教科書の発行の促進を図るとともに、その使用の支援について必要な措置を講ずること等により、教科用特定図書等の普及の促進等を図ることとされている。2014年度に小・中学校等の義務教育諸学校で使用される教科書に対応した拡大教科書は全点発行された。高等学校段階については、視覚障害特別支援学校高等部で使用されている主たる教科に関する拡大教科書は全点発行されたが、高等学校で使用される教科書については、教科書の種類が非常に多く、十分に普及していないため、普及促進を図るための調査研究を行っている。


163.教育職員免許法等において、幼稚園、小・中学校、高等学校の教諭の普通免許状を取得するためには、特別支援教育に関する事項を含んだ科目の単位を修得しなければならない。また、特別支援学校の教員は、原則として特別支援学校の教員の免許状を有していることが必要である。


164.教育基本法の趣旨も踏まえ、政府の障害者基本計画において、障害のある児童生徒の後期中等教育への就学を促進するための配慮及び福祉、労働等との連携の下での、就労支援の充実を図ることとしている。また、高等教育における支援の推進として、障害のある学生への個々の障害特性に応じた情報保障やコミュニケーション上の配慮、施設のバリアフリー化、入試等における適切な配慮、大学等における情報公開を推進することとしている。


165.教育基本法第3条において、障害者を含む国民一人一人の共通理解の下、国及び地方公共団体をはじめ、学校、家庭、さらに各種団体や企業等も含め地域を通じた社会全体で、生涯学習社会の実現が図られるべきという「生涯学習の理念」を規定している。また、同法第4条に教育の機会均等を規定し、その第2項として、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じる義務を国及び地方公共団体に課している。さらに、同法第12条に社会教育を規定し、個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならないとしている。


166.職業能力開発促進法第15条の6、第16条において、障害者職業能力開発校(全国に19校)の設置等を定めている。また、同法第3条の2第4項では、身体又は精神に障害がある者等に対する職業訓練は、特にこれらの者の身体的又は精神的な事情等に配慮して行わなければならないと規定されており、他の職業訓練施設においても障害者に対する配慮がなされている。なお、一般の公共職業能力開発校における障害者の受講状況は、2012年度は608人、2013年度は663人となっている。


167.なお、本条に関しては、政策委員会より、インクルーシブ教育を推進していくために、我が国が目指すべき到達点に関する議論、また、進捗状況を監視するための指標の開発とデータ収集が必要であるとの指摘があった。また、具体的な課題として、個別の教育支援計画、個別の指導計画の実効性の担保、合理的配慮の充実、本人及び保護者の意思の尊重、特別支援教育支援員の配置や教育的ニーズに応じた教材の提供といった環境の整備などについて問題提起があった。(より詳しくは、付属文書を参照のこと)

 

障害者権利条約」の教育条項と「政府報告」を対照します。

障害者権利条約

第二十四条 教育
1 締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は、次のことを目的とする。
(a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
(b) 障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(c) 障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。

2 締約国は、1の権利の実現に当たり、次のことを確保する。
(a) 障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと
(b) 障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること
(c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。
(d) 障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること
(e) 学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること

 

「政府報告」

第24条  教育
154.憲法第26条は、すべての国民に対して、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を保障している。また、国民に対して、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を課しており、義務教育は無償と規定されている。

155.教育基本法第4条第2項において、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならないことが規定されている。また、障害者基本法第16条は、国及び地方公共団体に対して、障害者が、その年齢、能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童生徒が障害者でない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じること、また、国に対して障害者の教育に関する調査研究を推進すること等を義務付けている。

156.学校においては、学校教育法体系に基づき、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う特別支援教育が実施されており、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」が整備されており、引き続きこれらの場の充実に取り組んでいく。

 

障害者権利条約」が求めているのはインクルーシブな社会でありインクルーシブ教育、障害のある者とない者を分けない教育です。

障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと

自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること

障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること

完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること

これに対する「政府報告」の記載はこうです。

障害者基本法第16条は、「可能な限り障害者である児童生徒が障害者でない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮」すること等を義務付けている。

特別支援教育が実施されており、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」が整備されており、引き続きこれらの場の充実に取り組んでいく。

両者は大前提の部分で明らかにズレています。

それでも日本政府はズレをただすということはしません。特別支援教育=インクルーシブ教育だと胸を張って報告書にしています。

 

                               (つづく)

 

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」①

「障害者権利条約」について国連が勧告

 

「障害者権利条約」について、国連の委員会が日本の取り組み状況を初めて審査し、勧告を公表しました。(2022年9月9日)

強制入院や分離教育など禁止勧告 国連が日本の障害者差別巡り初審査
 障害に基づくあらゆる差別の禁止などを定めた「障害者権利条約」について、国連の委員会が日本の取り組み状況を初めて審査し、9日に勧告を公表した。障害者の強制入院や、分離された特別な教育をやめるよう要請する内容などが盛り込まれた。審査の過程では、政府の対策が不十分とされる様々な課題が明らかとなり、障害者らから改善を急ぐよう求める声が相次いでいる。

 勧告では、精神科病院での無期限の入院の禁止や、施設から地域生活への移行を目指す法的な枠組みづくり、障害のある子とない子がともに学ぶ「インクルーシブ教育」の確立のためにすべての障害のある生徒が個別支援を受けられるよう計画を立てるといった対応の必要性が指摘された。

 また、障害者の強制入院を「差別」とし、自由の剝奪(はくだつ)を認めるすべての法的規定を廃止するよう要請。旧優生保護法下で不妊手術を強いられた被害者への謝罪や、申請期間を限らない救済なども盛り込まれた。

 障害者権利条約は2006年に国連で採択。08年に発効し、日本は14年に批准した。今年8月下旬にはスイス・ジュネーブで初の対面での審査を実施。18人からなる国連の障害者権利委員会の委員が日本政府の代表団に質問し、そのやりとりを踏まえた上で9月に入って勧告が提示された。勧告に法的な拘束力はないが、政府は対策を講じるよう求められている。

                    「朝日新聞デジタル」2022.9.13

 

本稿では、教育に関する部分を取り上げます。

 

まず、「障害者権利条約」の教育に関する条文です。

第二十四条 教育
1 締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は、次のことを目的とする。
(a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
(b) 障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(c) 障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。
2 締約国は、1の権利の実現に当たり、次のことを確保する。
(a) 障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと。
(b) 障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること。
(c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。
(d) 障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること。
(e) 学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること。
3 締約国は、障害者が教育に完全かつ平等に参加し、及び地域社会の構成員として完全かつ平等に参加することを容易にするため、障害者が生活する上での技能及び社会的な発達のための技能を習得することを可能とする。このため、締約国は、次のことを含む適当な措置をとる。
(a) 点字、代替的な文字、意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式並びに定位及び移動のための技能の習得並びに障害者相互による支援及び助言を容易にすること。
(b) 手話の習得及び聾社会の言語的な同一性の促進を容易にすること。
(c) 盲人、聾者又は盲聾者(特に盲人、聾者又は盲聾者である児童)の教育が、その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること。
4 締約国は、1の権利の実現の確保を助長することを目的として、手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し、並びに教育に従事する専門家及び職員(教育のいずれの段階において従事するかを問わない。)に対する研修を行うための適当な措置をとる。この研修には、障害についての意識の向上を組み入れ、また、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れるものとする。
5 締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。

条約が求めているのはインクルーシブな社会の実現であり、インクルーシブ教育の実現です。

 

障害者権利条約は2006年に国連で採択され、08年に発効しました。日本は2014年1月に批准しました。

批准から2年以内に国連の障害者権利委員会に政府報告を提出しなければなりません。日本は、2016年5月になって「第1回政府報告」を提出しました。

 

政府報告を受けて、国連の障害者権利委員会による締約国審査(「建設的対話」といいます)が行われます。そのための準備として、「事前質問」と「質問への回答」があります。

2019年10月29日、国連から「第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問」が示されます。

コロナ禍により審査が先延ばしされ、2022年8月22、23日に行われることになりました。それに合わせて、5月31日に「第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問への回答」が提出されています。

 

審査はこの「質問」と「回答」をもとに行われ、「建設的対話」を経てなお残った問題点をまとめたものが、9月9日の「勧告」です。

 

「第1回政府報告」「第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問」「第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問への回答」については、次回に触れます。

今回は、「勧告」の内容を紹介します。

なお、原文は英文で、政府による日本語訳がまだ確定していません。Microsoftの翻訳機能による日本語訳とともに、原文をあわせて掲載します。

 

日本の初回報告に関する所見のまとめ

教育(第24条)
51.委員会は、次の事項について懸念する。     
(a)医学的評価を通じて、障害児の分離された特殊教育を永続させ、障害児、特に知的障害または心理社会的障害のある子どもおよびより集中的な支援を必要とする子どもにとって、通常の環境での教育を利用できないようにすること、ならびに通常の学校における特別支援教育クラスの存在。    
(b)障害児を正規の学校に入学させる準備ができていないと認識され、事実に即したため、障害児を通常の学校に入学させることを否定し、2022年に発行された閣僚通知により、特別クラスの生徒は学校時間の半分以上を通常の授業に費やすべきではない。    
(c)障害のある学生に対する合理的配慮の不十分な提供。    
(d)正規の教育教師のインクルーシブ教育に対するスキルの欠如と否定的な態度。
(e)ろう児のための手話教育、盲ろう児のためのインクルーシブ教育を含む、通常の学校における代替的かつ拡張的なコミュニケーションおよび情報方法の欠如。    
(f)大学入試や学習プロセスを含む高等教育における障害のある学生のための障壁に対処する、国家の包括的な政策の欠如。    
52.    委員会は、インクルーシブ教育の権利及び持続可能な開発目標4、目標4.5及び指標4(a)に関する一般コメント第4号(2016年)を想起し、締約国に対し、次のことを要請する。
(a)分離された特殊教育の停止を目的として、教育、法律及び行政上の取極めに関する国の政策の範囲内で、障害児のインクルーシブ教育を受ける権利を認識し、かつ、障害のあるすべての生徒が、あらゆる教育レベルにおいて必要な合理的配慮及び個別化された支援を提供されることを確保するため、特定の目標、時間枠及び十分な予算を伴って、質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択すること。    
(b)すべての障害児が正規の学校にアクセスできることを確保し、正規の学校が障害のある生徒の正規の学校を拒否することを許可されないことを確保するための「拒絶されない」条項および方針を制定し、特別クラスに関する閣僚通知を撤回すること。    
(c)すべての障害児が、個々の教育要件を満たし、かつ、インクルーシブ教育を確保するための合理的配慮を保障すること。    
(d)インクルーシブ教育に関する正規の教育教員及び非教育職員の訓練を確保し、障害の人権モデルに関する意識を高めること。
(e)点字、イージーリード、ろう児のための手話教育、インクルーシブ教育環境におけるろう文化の促進、盲ろう児のためのインクルーシブ教育へのアクセスを含む、通常の教育環境における拡張的および代替的なコミュニケーションモードおよびコミュニケーション方法の使用を保証すること。    
(f)大学入試や学習プロセスを含む高等教育における障害のある学生のための障壁に対処する国家包括的な政策を策定する。

 

Concluding observations on the initial report of Japan

Education (art. 24)
51.    The Committee is concerned about the: 
(a)    Perpetuation of segregated special education of children with disabilities, through medical-based assessments, making education in regular environments inaccessible for children with disabilities, especially for children with intellectual or psychosocial disabilities and those who require more intensive support, as well as the existence of special needs education classes in regular schools; 
(b)    Denials to admit children with disabilities to regular schools due to its perceived and factual unpreparedness to admit them, and the ministerial notification issued in 2022 by which students in special classes should not spend their time in regular classes for more than half of their school time; 
(c)    Insufficient provision of reasonable accommodation for students with disabilities; 
(d)    Lack of skills of and negative attitudes on inclusive education of regular education teachers;
(e)    Lack of alternative and augmentative modes and methods of communication and information in regular schools, including sign language education for deaf children, and inclusive education for deafblind children;
(f)    Lack of national comprehensive policy, addressing barriers for students with disabilities at higher education, including university entrance exams and the study process.
52.    Recalling its general comment No. 4 (2016) on the right to inclusive education and the Sustainable Development Goal 4, target 4.5 and indicator 4 (a), the Committee urges that the State party: 
(a)    Recognize the right of children with disabilities to inclusive education within its national policy on education, legislation and administrative arrangement with the aim to cease segregated special education, and adopt a national action plan on quality inclusive education, with specific targets, time frames and sufficient budget, to ensure that all students with disabilities are provided with reasonable accommodation and the individualized support they need at all levels of education;
(b)    Ensure accessibility to regular schools for all children with disabilities, and put in place a "non-rejection" clause and policy to ensure that regular schools are not allowed to deny regular school for students with disabilities, and withdraw the ministerial notification related to special classes;
(c)    Guarantee reasonable accommodations for all children with disabilities for meeting their individual educational requirements and ensuring inclusive education;
(d)    Ensure training of regular education teachers and non-teaching education personnel on inclusive education and raise their awareness on the human right model of disability;
(e)    Guarantee the use of augmentative and alternative modes and methods of communication in regular settings of education, including Braille, Easy Read, sign language education for deaf children, promote the deaf culture in inclusive educational environments, and access to inclusive education for deafblind children;
(f)    Develop a national comprehensive policy, addressing barriers for students with disabilities at higher education, including university entrance exams and the study process.

 

                                (つづく)

    

きょうは何の日 9月16日

国際オゾン層保護デー

 

オゾン層保護のための国際デー(「国際オゾン層保護デー」とも呼ばれる、International Day for the Preservation of the Ozone Layer)は、1987年にモントリオール議定書が採択されたことを記念して、1994年の国際連合総会で定められた国際記念日です。

日本ではオゾン層保護のための国際デーがある9月をオゾン層保護対策推進月間と定め、諸々の啓蒙活動を行っています。

 

外務省HPに、モントリオール議定書の概要が紹介されています。

               オゾン層保護
ウィーン条約:Vienna Convention for the Protection of the Ozone Layer
モントリオール議定書:Montreal Protocol on Substances that Deplete the Ozone Layer)
                                                                       平成30年12月19日

1 背景等
(1)地球を取り巻くオゾン層は,生物に有害な影響を与える紫外線の大部分を吸収しているが,他方で,冷蔵庫の冷媒,電子部品の洗浄剤等として使用されていたCFC(クロロフルオロカーボン),消火剤のハロン等は,大気中に放出され成層圏に達すると紫外線による光分解によって塩素原子等を放出し,これが分解触媒となってオゾン層を破壊している。
 オゾン層の破壊に伴い,地上に達する有害な紫外線の量が増加し,人体への被害(視覚障害・皮膚癌の発生率の増加等)及び自然生態系に対する悪影響(穀物の収穫の減少,プランクトンの減少による魚介類の減少等)がもたらされている。

(2)このようなオゾン層破壊のメカニズム及びその悪影響は,1970年代中頃から指摘され始め,その後,国際的な議論が行われ,

ア 1985年3月22日に,オゾン層の保護を目的とする国際協力のための基本的枠組を設定するオゾン層の保護のためのウィーン条約が,
イ 1987年9月16日に,同条約の下で,オゾン層を破壊するおそれのある物質を特定し,当該物質の生産,消費及び貿易を規制して人の健康及び環境を保護するためのオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書が,
 それぞれ採択されるに至った。
 なお,条約及び議定書の事務局は,両者ともナイロビの国連環境計画(UNEP)に置かれている。

2 条約及び議定書の概要
1)「オゾン層の保護のためのウィーン条約」の概要
 本条約においては,締約国が,

ア オゾン層の変化により生ずる悪影響から人の健康及び環境を保護するために適当な措置をとること(第2条第1項)
イ 研究及び組織的観測等に協力すること(第3条)
ウ 法律,科学,技術等に関する情報を交換すること(第4条)等について規定している。
(2)「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」の概要
ア 議定書に定める規制措置
 本議定書において規定する主な規制措置は次のとおりである。

(ア)各オゾン層破壊物質(ODS:Ozone Depleting Substances)の全廃スケジュールの設定(第2条のA~I)
(イ)非締約国との貿易の規制(規制物質の輸出入の禁止又は制限等)(第4条)
(ウ)最新の科学,環境,技術及び経済に関する情報に基づく規制措置の評価及び再検討(第6条)
(エ)代替フロンとして使用されるハイドロフルオロカーボン(HFC)の段階的削減スケジュールの設定(第2条のJ)(2016年の議定書改正で追加)
イ 議定書の下での規制措置の強化
 モントリオール議定書の採択後,議定書締約国の間でオゾン層の破壊状況と規制措置についてさらに検討が行われた結果,オゾン層の回復に向けてさらに強力な対策を行う必要性が認識されたこと等から,

(ア)1990年6月 議定書第2回締約国会合(ロンドン会合)
(イ)1992年11月 議定書第4回締約国会合(コペンハーゲン会合)
(ウ)1995年12月 議定書第7回締約国会合(ウィーン会合)
(エ)1997年9月 議定書第9回締約国会合(モントリオール会合)
(オ)1999年12月 議定書第11回締約国会合(北京会合)
(カ)2007年9月 議定書第19回締約国会合(モントリオール会合)
 の6回にわたって規制措置の強化が実施された。さらに,2016年10月の第28回締約国会合(キガリ会合)では,代替フロンとして使用され,オゾン層は破壊しないものの高い温室効果を有するハイドロフルオロカーボン(HFC)の生産・消費を規制する議定書改正(キガリ改正)が採択された(我が国は2018年12月18日,同改正を受諾)。
 なお,規制措置の強化は次の2つの方法により行われている。
(a)議定書の「改正」:新たな規制物質及び規制措置の追加等を行う。新たな国際約束の締結を行うこととなる。
(b)議定書の「調整」:既存の規制物質の規制スケジュールの変更を行う。議定書が規定する機関決定方式であり,締約国の3分の2の多数決で採択され,すべての締約国を拘束する。

3 開発途上国援助  (略)

4 今後の課題
 2030年までに途上国における原則廃絶が予定されているHCFCについて,途上国における対策を促進することが課題であり,これに向けて多数国間基金が有効に活用されるよう,今後も我が国として国際的な取組に参画していくことが求められる。また,HFCは,気候変動対策の観点から生産消費の段階的削減の重要性が認識されており,キガリ改正に規定される削減スケジュールが着実に実施されていくことが重要である。

 

オゾン層の現状については、環境省のHPで概略を知ることができます。

www.env.go.jp