教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

教壇に立つ前に ③ 声をつくろう

ある学校で、先生たちの自己紹介を受ける機会がありました。

20人ほどおられたのですが、名前を聞き取ることができたのは10人ほどでした。あとの数人は学年所属は聞こえたものの、名前は分かりませんでした。さらに何人かはほとんど何も聞き取れませんでした。

この学校の教師の少なくとも半分は、授業を見るまでもなくアウトだと分かります。

自己紹介の場で肝心の名前を相手に伝えられない教師が、教室で授業の肝心要を子どもたちに伝えられるとは思えません。これは授業内容や指導テクニック云々以前の問題です。逆に言うと、授業内容や指導テクニックがどれほどすぐれていても、子どもに声が届かなければ伝わらないということです。

 

教師にとって「声」は、必要条件としての重要なツールであり財産です。
それは、子どもたちがタブレットを操る時代の授業においても、不変です。


では、その「声」はどんなであればいいのでしょう。

 

端的に言えば、明瞭で張りのある声です。

 

“明瞭”さは、口形を意識して発声練習することで鍛えることができます。

“張りのある声”は、体育館などで話した時によく響くやや細くやや硬い声です。声の太さや硬さは個性の部分が大きいかもしれませんが、意識化することで鍛えることができます。

 

学校の現場は日々忙しく過ぎていきます。その現場に立つ前に、自分の「声」をつくりましょう。
それは、仕事場に向かう前の大工さんが鉋の刃を研ぐようなものです。

 

正しい口形は、インターネット上に公開されている画像を参考に、鏡に向かって真似るのがいいです。はっきり発声することをお忘れなく。

 

口のかたちができたら、発声練習です。1音1音区切るように発声します。

 

あえいうえおあお
かけきくけこかこ
させしすせそさそ
たてちつてとたと
なねにぬねのなの
はへひふへほはほ
まめみむめもまも
やえいゆえよやよ
られりるれろらろ
わえいうえをわを
がげぎぐげごがご
ざぜじずぜぞざぞ
だでぢづでどだど
ばべびぶべぼばぼ
ぱぺぴぷぺぽぱぽ

 

ボイストレーニングには、北原白秋の詩「五十音」もお薦めです。

 

あめんぼ あかいな アイウエオ  水馬 赤いな あいうえお

うきもに こえびも およいでる  浮藻に 小蝦も 泳いでる

かきのき くりのき カキクケコ  柿の木 栗の木 かきくけこ

きつつき こつこつ かれけやき  啄木鳥 こつこつ 枯れ欅

ささげに すをかけ サシスセソ  大角豆に 酢をかけ さしすせそ

そのうお あさせで さしました  その魚 浅瀬で 刺しました

たちましょ らっぱで タチツテト 立ちましょ 喇叭で たちつてと

トテトテ タッタと とびたった  トテトテ タッタと 飛び立った

なめくじ のろのろ ナニヌネノ  蛞蝓 のろのろ なにぬねの

なんどに ぬめって なにねばる  納戸に ぬめって なにねばる

はとぽっぽ ほろほろ ハヒフヘホ 鳩ポッポ ほろほろ はひふへほ

ひなたの おへやにゃ ふえをふく 日向の お部屋にゃ 笛を吹く

まいまい ねじまき マミムメモ  蝸牛 ネジ巻 まみむめも

うめのみ おちても みもしまい  梅の実 落ちても 見もしまい

やきぐり ゆでぐり ヤイユエヨ  焼栗 ゆで栗 やいゆえよ

やまだに ひのつく よいのいえ  山田に 灯のつく よいの家

らいちょうは さむかろ ラリルレロ雷鳥は 寒かろ らりるれろ

れんげが さいたら るりのとり  蓮花が 咲いたら 瑠璃の鳥

わいわい わっしょい ワヰウヱヲ わいわい わっしょい わゐうゑを

うえきや いどがえ おまつりだ    植木屋 井戸換へ お祭りだ

 

「五十音」は、教室でも便利に使えます。

たとえば、

めんぼ かいな イウエ きもに… 

赤字のところで拍子打ちをします。同じテンポで打ち続けることで、リズムが良くなります。子どもの声が揃うという効果もあります。

慣れてくると、少しずつ拍子打ちのテンポを速くして「○○秒バージョン」なるものを増やしていきます。その場合も1音1音を意識することをお忘れなく。

しばらく続けると、確実に滑舌が良くなります。