教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

算数科「わり算の筆算」で授業のUD化を考える

4年生の「わり算の筆算」の学習を通して、授業のユニバーサルデザイン化を考えます。なお、授業実践は2012年度1学期のものです。

 

算数科「わり算の筆算」


(1) 指導の工夫として

 

東京書籍「新しい算数」(2012年度版)では、わり算の筆算の仕方を次のように説明しています。

 

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普通学級で特別支援教育を言われるようになって教書が質的に変わりました。この教科書の記述も、それ以前と比べると十分に懇切丁寧な説明に思えるのですが、少し前に担任した5年生にはこれを全く理解していない児童が複数いました。

その時、個別指導に使ったのが『グレーゾーンの子どもに対応した算数ワーク』(明治図書)です。同書では、次のように学びを進めています。

 

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教科書との違いは僅かに思えますが、このわずかなスモールステップ化によって救われる子が確実にいるのです。


今回の指導では、「指導の工夫」としてこれを採用することにしました。

つまり、児童の実態からすると、全体指導そのものを変更する方が理解を高めると考えました。

指導に当たっては、さらにいくつかの工夫を加えました。


まず、『グレーゾーン…』では

①たてる

②かける

③うつす

④ひく

⑤おろす

⑥たてる

⑦かける

⑧うつす

⑨ひく

となっていた計算過程を、

①たてる

②かける

③うつす

④ひく

❺おろす

①たてる

②かける

③うつす

④ひく

と変更しました。①から④までを一連の流れとして意識させ、パターン化させるのがねらいです。


さらに、「①たてる②かける③うつす④ひく❺おろす①たてる②かける③うつす④ひく」をA3用紙にプリントし、黒板に掲示しました。計算過程の「見える化」を図るためです。また、同様のものをB5サイズでラミネートしていつも手元に置かせ、下敷きとしても使えるようにしました。


さて、児童の反応はと言うと…
■A児■ わり算の筆算は、①たてる、②かける、③うつす、④ひくをくりかえして、わられる数が2けただと⑤おろすは1回で、3けただと2回で、①~④は2けただと2回くりかえして、3けただと3回くりかえします。だから、わられる数がふえたらふえるほど、①~④のくりかえしと、⑤の回数がふえるということが分かりました。
■B児■ わり算の筆算のべんきょうをはじめてするとき、わたしは、「ぜったいむずかしいやろなあ。」と思っていました。けれども、先生がわり算の筆算のやり方を教えてくれたので、すごくかんたんだと思いました。わたしが、はじめてわり算の筆算を学習して思ったことは、「たてる」「かける」「うつす」「ひく」「おろす」のくりかえしだったので、とてもかんたんだと思いました。
■C児■ さいしょは、むずかしそうにおもっていたけど、やっていたら楽しくなりました。わり算の筆算のおぼえ方は、①たてる、②かける、③うつす、④ひく、⑤おろすです。むずかしいやり方だと、わたしは思っていました。こんなにかんたんなやり方だと思っていませんでした。わたしは、さいしょ、びっくりしました。


B児・C児は、今回のターゲット児童です。わり算の筆算の「基本」は、全員がクリアしました。

 

 

(2) 個別の配慮として


落とし穴がありました。

教科書に、「筆算のしかたを説明しましょう」として2つの計算が記されています。

 

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C児は少し時間がかかりましたが、繰り返し練習することでクリアしました。しかし、B児にはどうしても越えられない壁として立ちはだかりました。

①の「3÷4」は「4÷3」、②の「1÷3」は「3÷1」というように、除数と被除数を逆にして商を立ててしまうのです。これは、何度指導しても修正できませんでした。


はたと考えました。今のB児には、これらは別の種類のわり算として映っているようです。それを理解させるということは、2倍の負担を強いることになります。B児がクリアした基本パターンの中でこれを理解させる方法はないのでしょうか。模索を繰り返したどりり着いた方法は、次のようなものです。

 

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商を立てる時、「被除数÷除数」の式を書くという1ステップを加えさせました。

ただそれだけの変更なのですが、この1行を加えることでB児は壁を突破しました。


元来、「個別の配慮」は、いわゆる「しんどい子」に特段の努力や負担を強いることなく、楽しく分かり、できるようにするためのものです。壁に当たってからでは遅いのです。教師の眼力と引き出しの多さが求められています。


蛇足ながら、補助計算は習熟とともに卒業していった子もいました。しかし、ターゲット児童にはしぶとく書くことを求めました。少なくとも2桁の数で割る筆算をクリアするまでは…。定着には教師が思っている以上に時間がかかるものです。

 


(補) ここに紹介した割り算の指導には、算数科の指導で汎用化できるヒントが詰まっています。ポイントを整理しておきましょう。


1 パターン化


割り算の筆算ではまず基本型の問題があり、その後に応用型の問題が出てきます。多くの子は基本型の学びを活かして応用型をクリアします。しかし、つまずく子には別種の問題に映ってしまうようです。したがって、応用型の問題までそのまま使えるパターンを基本型のときに示すことが大事なのです。「①たてる②かける③うつす④ひく❺おろす」というパターンを繰り返せば、被除数の桁数に関係なく解けます。

 


 2 見える化


「①たてる②かける③うつす④ひく❺おろす①たてる②かける③うつす④ひく」という計算パターンをA3用紙にプリントし、黒板に掲示しました。また、B5サイズでラミネートしていつも手元に置かせ、下敷きとしても使えるようにしました。いずれも計算過程の「見える化」を図るためです。

 


 3 作業化


たとえば「①たてる」では、「指で数字を隠す→被除数÷除数の式を書く→被除数の上に商を立てる」という作業を行います。計算をパターン化し、そのパターンを見える化することで常に意識し、パターン通りに作業することで解を得ます。思考停止状態で頭を抱えると算数は解けません。作業化することで、算数の基礎体力は格段に上昇します。

 

パターン化し、作業化する際に重要なポイントがあります。それは、頭の中で行う作業(暗算など)を、1工程に2つ以上求めないことです。頭の中で作業を行うとミスが増え、やがて思考停止に陥ります。あくまでも手を使った作業が中心で、習熟度に応じて頭の中の作業に移していけばいいのです。