教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

タブレットはコロナ禍休校を救えるか?!

新型コロナウイルスの感染拡大で、小中学校の臨時休校が続いています。5月6日以降に授業が再開されたとしても、多くの地域で休校が2カ月に及びます。

 

3月の1カ月間は、順調に授業を進めていた学級では「まとめ」を残して履修漏れはほとんどないと思われます。

4月の1カ月間は、クラス替えがあり、担任が替わり、新指導要領で教科書が新しくなり…。教師も大変でしょうが、子どもは何をどうしていいのかお手上げ状態の日々を過ごしているはずです。

 

この間、学校が子どもに提供している学習材は主として「プリント」か「オンライン教材」です。

 

とりわけ注目したいのが「オンライン教材」です。

一人1台のタブレット端末というのは政府の方針でもありますから、休校がさらに長引くようなことになれば前倒し導入が進むかもしれません。

 

いま現在の状況は、学校が端末を貸し出しているところもあれば、自宅にある私物を使っているところもあります。

ここでは通信環境が整っていない家庭の問題は、重要ですが横に置きます。

学習材は、教育委員会が契約したプログラムを個別のIDを使って利用しているところもあれば、無料で公開されているプログラムを利用しているところもあります。

 

無料プログラムにもいいものがあります。しかし、教育委員会が学校で使うことを想定して契約しているプログラムは、さらに充実しています。

 

さて、教育委員会が契約している有料プログラムと一人1台のタブレットは、コロナ禍休校を救えるのかという問題です。

 

ここで、私が昨年度経験した中学校でのタブレット学習を紹介しましょう。

 

私は、ボランティアで地元の中学校へ行っています。昨年度は、中学1年のクラスでゲストティーチャーとして年間15コマの授業をさせていただきました。授業の内容は別稿で紹介するとして、そのうちの1コマが数学の先生と共同で行ったタブレット学習でした。

この中学はタブレット導入のモデル校で、教育委員会が2社と契約した学習材提供プログラムと成績処理プログラムをリンクさせて併用しています。個に応じた学習を進める上で、全国的に見ても最先端の取り組みのようです。

 

私が参加した1時間は、定期考査に向けて履修単元を復習するするという設定でした。

生徒たちは、タブレット端末を使って自分のIDでログインし、単元を選択して問題に取り組みました。

 

タブレット学習がプリント学習に比べて圧倒的に優位なのは、個人の学習履歴が間違いも含めて記録として残ること、教師がその履歴を瞬時に確認できることです。生徒の立場で言えば、適切なアドバイスとその学習につながる関連問題を提供してくれる利点があります。

 

課題も見えてきました。

 

この学校では、タブレット端末を一括管理していました。したがって、生徒が端末を手にするのはごく限られた特定の時間だけです。本当に効果を上げるには、いつでも自由に使える環境にすること、さらには自宅に持ち帰って使えるようにすることが必要だと感じました。

契約上の問題など克服しなければならない点は多いですが、今回の事態を受けて家庭で使えるようにしているようです。(3月以降、学校訪問の機会がないので詳細は不明)

仮に家庭で使用できる環境が整えば、未習単元の自学自習も可能になります。提供されているプログラムは、十分それに耐えうると思います。教師は学校にいながら、個々の生徒の学習進度を掌握できます。

この点に置いて、タブレットはコロナ禍休校を救う可能性を秘めていると言えそうです。そして、コロナ禍が終息した後には、家庭学習の新しいスタイルが残るかもしれません。

 

さらなる大きな課題があります。

タブレット学習の果実が、すべての子どもにもたらされるかという問題です。

 

成績上位の子は、タブレットがあってもなくてもたいした問題ではありません。むしろ、紙媒体の学習の方が効率がいいと思われます。

 

成績中位、テストの点数で40点~60点レベルの子は、タブレットをうまく活用することで60~80点レベルへのアップが期待でそうです。実際に教室で見た時、もっともタブレット学習に意欲的だったのもこの層の子たちでした。プログラムのつまずき支援システムがマッチするようです。

 

問題は下位の子たち、中間・期末テストで30点に及ばないレベルの子たちです。

まず、教師がいる教室においてさえ、タブレットにログインするまでに相当な時間がかかります。というより、タブレット学習そのものに興味を持てていないようです。

問題に取りかかるとさらに大変な事態が起こります。

たとえば1次方程式の問題を解いているとします。数字部分に分数が出てきて解けなかったとしたら、小学校の分数の四則計算問題が提供されます。分数そのものの理解ができていないと判断されれば、さらにさかのぼって支援問題が提供されます。

最底辺の子が方程式の問題に戻るには、一体何十(何百か)の問題を解かなければならないのでしょう。最底辺の子には、10問提示されたものを2問で切りあげて次に進むさじ加減もまた難しいのです。

もともと学習意欲が乏しい場合、ガマンは何分続くでしょう?

教室ですら困難な自学自習を、家庭でのタブレット学習でやりきれるでしょうか。

この子たちには背中を押し、前に回って引っ張りといった個別支援が欠かせません。対面学習がセットでない限り、タブレット学習はこの子たちには届かないのです。

 

結論を言えば、タブレットはコロナ禍休校を救う切り札にはなり得ないということです。1日も早く終息して、授業が再開されることを願います。

 

ところで、再開された学校ではタブレット学習が加速度的に増えていくでしょう。時代の流れと言えばそれまでですが、そこには「個の学力」と「集団の学力」という古典的な課題が横たわっています。いずれ稿を起こしたいと思います。