教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

生活を綴る⑤

■計画的な綴り方(作文)指導■②

 

「計画的な指導」における記述指導を意識しつつ、「常日ごろの指導」の日記指導を行った5年生1学期の記録(学級通信の一部)の続編です。

 

「くわしく書く」ということ 2003.5.8

 7日の国語の時間に、「田植えをしたときのことを、その時の様子が目の前に浮かぶように書く」という勉強をしました。その際に、
①10時30分から12時までのすべてを書く必要はない。自分が田植えをしている場面だけを切り取って書こう。
②「その時の様子が目の前に浮かぶように書く」ためには、したことをしたとおりに、しっかりと思い出して、時間の順序に従って過去形で書こう。しっかりと思い出すには、その時の手足や体の動き、周りの様子、会話などを手がかりにしよう。
という、2つのことに注意して書くように話しました。

 

授業で記述指導を行うには、共通体験を題材にするのが有効です。このときは「田植え」という活動体験を取り上げていますが、特別な出来事が必要ということではありません。ある年は、教室にたまたまハチが入ってきて、それを追い出すまでの数分間を題材にしたこともあります。またある年は、私が教室に入った瞬間からちょっとした「一芸」を終えるまでの数分間を題材にしたこともあります。

こうした共通体験を題材にすると、その後の「くわしく書く」学習で「共同推敲」が可能になります。推敲(思い出しなおし)についてはこのあと具体例を紹介しています。

 

 はじめて田植えをした YH

 田んぼの中に、右足をつけた。にゆるっとしていて、下の方が冷たくて、上の方は少し温かかった。
 ついに、両足を入れた。足の指の間にどろがぐにゅっと入って、少し気持ちわるかった。

 

 YHさんの作文の書き出し部分を紹介しました。初めてはだしで田んぼに入った感触を、しっかりと思い出して書いています。いいです。

 

 次に紹介するのは、KTくんの作文の書き出し部分です。植えるところが具体的です。ここが今回の作文で大事な所です。

 

田植え KT

 足をどろの中に入れた。どろは思った以上にぬくかった。きもちわるいようなきもちいいような、びみょうなかんじだった。
 なえを右手に持って、左手でなえをどろの中に植えた。

 

 最後に紹介するのは、SUさんの作文の全文です。場面の切り取りがうまくできました。初めて田植えをした場面だけを切り取り、他はすべて捨てています。さらに、書きぶりも今回の作文では一番よくできていました。

 

初めての田植え SU
 足にぬるっとしたどろがついた。私は、「キヤー。」と言った。Kさんになえをもらって植え始めた。四角になるようにうめた。
 なえを持って手をどろの中へおもいきっていれると、手がぬるぬるっとした。
 次の列へ行こうとすると足が動きにくかった。バランスをくずさないように動くのは、とてもむずかしかった。なえを二、三本ずつ植えた。はばを開けて一つ一つていねいに植えた。どろが体操服にびちゃっと付いたり、足にもたくさんついた。それでも、まだ自分の場所は終わらなかった。すこしつかれた。でも、自分の場所はあと二、三列あった。小さな声で、「つかれたあ。」と言った。そう言っている間に、最後の一つ。心の中で、「やったあ。」とさけんだ。

 

 さて、SUさんの作文を使わせてもらって、「したことをしたとおりに順序よく書く」ということを勉強しましょう。 とてもきびしい1時間になりますが、SUさんは精一杯努力してください。ほかの人たちは、先生が何を質問し、SUさんがどう答えるかをよく見て、よく聞いてください。授業の終わりには、SUさんの作文はさらにさらにすてきになります。
 それでは、名物「yosh-kマジック」のはじまり、はじまりい!!

 

授業の実際は、私がSUさんを質問攻めにします。「田んぼに入る時の体の動きは?」「そのときに何か言った?」「入った時の感触は?」……。次々と質問し、引き出した答えから元の文章を膨らませていきます。

周りの子には、SUさんが何をどう尋ねられているかに注目させます。そうすることで、「くわしく思い出す」視点を学ぶのです。直接質問されているのはSUさんですが、共通体験ですから質問内容を自分の文章に生かすことが容易にできます。

 

 

「くわしく書く」ということ(その2) 2003.5.9

 

 「yosh-kマジック」の洗礼(せんれい)を受けたSUさんの作文は、はたしてどのように変わったのでしょうか。

 

   初めての田植え SU
 足にぬるっとしたどろがついた。両足を入れるのは、努力がいった。私は、足にどろが付くのがきもちわるくて、「キャー。」と言った。
 Kさんがなえをわたしてくれた。なえを右手で持って、二、三本ずつ植えた。はばを開けて一つ一つていねいに植えた。
 次の列へ行こうとすると、足が動きにくかった。足がどろからぬけなかったからだ。左足からうしろの列へ行って、あとから右足もうしろの列へ動かした。バランスをくずさないように動くのは、むずかしかった。足を一歩うしろにさげると、どろが体操服や足についた。
 自分の場所は、二、三列あった。となりのYちゃんの列を見て、あと二、三列あるとわかった。Yちゃんは、もう終わっていたからだ。
 小さい声で、「つかれた。」と言った。ひざをまげて、こしを丸くしていたので、ひざはいたくて、こしもいたかった。
 そう言って植えている間に、最後の一つを植えるところまできた。これが最後と思うと、「やったあ。」とさけんだ。じぶんでもがんばったなあと思った。

 

 どうでしたか。
 時間の順序が整理できた(その結果、段落の区切りがとてもよくなった)こと、書き足りなかった部分のいくつかを書き足してわかりやすくしたことなど、努力のあとがはっきりと見えます。Very Good !!

 

YHさんもバージョン・アップ
 「yosh-kマジック」のすごいところは、その威力(いりょく)が他の人にもうつるという点にあります。№9で紹介したYHさんの作文の続き(下を見て)と、「マジック」後の作文を紹介しましょう。

 なえを手に持って、ついに植えた。ピッとさしたら、すぐにささった。でも、あながふかくて、なえがかくれてしまった。とちゅうでこけそうになった。でもこけなかった。少しあぶなかった。だって、後ろにさとみちゃんの植えたなえがあった。でもたおれなかった。

 

   初めて田植えをした YH
 田んぼの中に、右足をつけた。にゅるっとしていて、下の方が冷たくて、上の方は少し温かかった。
 ついに、両足を入れた。足の指の間にどろがぐにゅっと入ってきて、少し気持ちわるかった。
 Kさんがりょうを考えながら用意してくれたなえを、受け取った。左手になえを持ち、もう一度田んぼに入った。こしをぐっとまげて、ひざも少しまげて、植えた。
 Kさんが、一列目だけ見本で植えてくれた。その列にあわせて、横へ横へ植えた。
 後ろへ動くとき、少し足がどろにへばりついたようになっていて、ぬけなかった。かた方はくっついていなかったけど、かた方の足がぬけたいきおいで、もうかた方もくっついた。でもとれた。
 次の列、次の列へゆっくりあわてずに植えた。とちゅうで、深くあいている穴があった。そこは周りのどろをあつめてうめて、植えた。
 なえは、ピッとさすとすぐにささった。
 だんだんとつかれてきて、思わず、「はあ。」と言ってしまった。

 

 

「くわしく書く」ということ(その3) 2003.5.12

 

 「yosh-kマジック」はまだ続く。FNさんの作文を紹介します。どちらもおしまいの9行分をカットして、場面を切り取っています。

 

   初めての田植え FN
 ドロドロした所へ入るのは、少しこわかったけど、勇気を出して足を入れた。足がだんだんとしずんでいった。下のほうは冷たかった。足を動かすときに、なかなか足がぬけなかった。歩いていくと、ニュルニュルして気持ち悪かった。石もあって、いたかった。

 

   初めての田植え FN
 右足から、田んぼに足を入れた。ゆっくり、田んぼの中にしずんでいった。下の方は、ひんやりとしていた。両方の足を入れたら、両方の足がゆっくりしずんでいった。
 なえを左手にもって、右手でなえをうえた。手を田んぼに入れると、そこに土がなかって深かったから、土をもってきてうえた。一列が終わって、次の列へ行こうとおもって足をあげてみると、あがらなかった。五回ぐらい足を引っぱって、やっとぬけた。ぬけたけど、バランスが悪くてこけそうになった。でも、「こけなくてよかった。」と思った。
 三列目、四列目になってくると、足やこしがいたくなってきた。でもがんばって、なえを全部植えた。心の中で、「やった。」と思った。

 

  とてもていねいな記述(書きぶり)になりましたね。
 手足の左右を意識して書いた人が増えました。先生が、SYさんにそういう質問をしたからだと思います。「まなぶ」というのは、「まねぶ(まねる)」というのが語源だそうだから、いいと思ったことはどんどんまねてください。自分の書きたいことを表現するのに、本当にその記述が必要かどうかは、今は気にしなくていいです。


 さて、今度はSYさんの作文を紹介します。最初の作文は、青豆を植えたところから4行分をカットしました。2回目の作文は、最後の2行をカットしています。

 

   初めての田植え SY
 田んぼに入るときがきた。私は、なえをもらって、田んぼに入った。入ったときは、すごいかんしょくだった。
 そして、田植えが始まった。順番になえを植えていった。動くとき、少し動きにくかった。でも、だんだん楽しくなってきた。そして、植え終わった。

 

   初めての田植え SY
 いよいよ、田んぼに入るときがきた。田植えは初めてなので、少しドキドキした。
 Kさんになえをもらって、田んぼに入った。田んぼに入ったときは、むにゅっとして気持ち悪かった。そして、なえを四角に植えていった。後ろに動くとき、足がなかなかぬけなくて、ひっしだった。
 植えていっているうちに、だんだん楽しくなってきたし、なえを植えるのが早くなってきた。だから、何回もなえを取りにいって、植えた。
 そして、最後の一本。「やったあ。終わった。」と心の中で思った。

 

 とてもわかりやすい文章になりました。最初は「すごいかんしょくだった」と書いていたのを、「むにゅっとして気持ち悪かった」と書きかえました。「すごいかんしょく」では様子がうかんでこないけど、「むにゅっとして」と書くことで感触(かんしょく)が具体的になりました。


 ところで、2回目の作文のカットした2行には、「田植えは初めてだったけど、とても楽しかった。5年生の思い出になった。」と書いてありました。みんなも日記や作文の最後によく書いていますよね。先生は、これはない方がいいと思います。「楽しかった」と書かないで、文章を読んだ人が「ああ、楽しかったんだなあ」と感じてくれるように書くことが大事だと思います。