ケースC
(1)素描Personality Sketch
①学習状況(5年当初)
4年生の評定は、国語・算数ともに中位です。
宿題忘れが時々あります。
②Q-U結果(5年生4月9日)
学校生活意欲は標準的な数値を示していますが、クラスにおける相対的位置としては低い方です。
「仲間だと思われているか」と「授業中に、先生の質問に答えたり、自分の考えや意見を言うのは好きですか」に対して、「あまりそう思わない」と答えています。
学級満足度尺度は「学校生活不満足群」に属しています。
被侵害得点は2番目に高く(これは低い方が良い)、承認得点は最も低い(これは高い方が良い)数値でした。
「すごいなと思われているか」「しっかり聞いてくれると思うか」「あなたのクラスには、いろいろな活動に取り組もうとする人が、たくさんいると思いますか」という設問に対して、2(あまりそう思わない)を選択しています。
被侵害項目では、「ひとりぼっちでいることがあるか」「あなたはクラスでグループを作るときなどに、すぐにグループに入れないで、最後の方まで残ってしまうことがありますか」について3(少しある)と答えています。
(2)転機Turning Point
C児の変容は、10月Q-Uの承認に関する設問の好転から始まりました。
そして、6年生5月Q-Uでは被侵害に関する設問が好転しました。
10月Q-Uになると学校生活意欲尺度が上位に移動し、学級満足度尺度も「学校生活満足群」に属しました。ここに至って、「自分の考えや意見を言うのは好きか」の回答が好転しました。
承認得点が上がった背景をスケッチしてみましょう。
私のそのころのクラス経営では、宿題は毎日ありました。登校するとすぐに提出させ、点検をして朝の会には返却するというのが通常のパターンです。忘れ物調べはしないし、居残り学習もありません。ちきんとやることでいい結果が得られたという教室の空気を、ひたすら醸成します。
もともと真面目な子どもたちですから、軌道に乗るまでそれほど時間は掛かりませんでした。やがて、C児もその流れに乗ってきます。
目標のスモールステップ化ということをA児のところで書きましたが、実際求めているところは相当高いです。
そのためのプログラムも多様です。
音読は、発音・発声練習から始めました。
聞き取りやすい話し方は、自分を認めてもらうための必須アイテムです。
そして、毎日のスピーチのために、スピーチの「型」を教えました。
国語力をつけるために読解力のスキルを指導し、読解プリントや文法プリントを宿題に課しました。
算数では4マス関係図を導入し、文章問題に特化した「yosh-k塾プリント」を毎日課しました。
5年生の後半からは、算数パズルを用意して思考力を磨くことをめざしました。
結果として、こうしたことの一つひとつが、C児の中で眠っていたものを目覚めさせたという捉え方をしています。
スピーチについては相互評価のためのカードを用意しています。
魅力的なスピーチをすることが多かったC児には、当然ながら高評価のカードが集まりました。数値化された評価と言葉のメッセージが、自信を生み自己肯定感を高めていった大きな要素だと考えられます。
自信は、生き方をも変えます。
5年当初、最も存在感の薄かったC児は、6年になると委員会の長を務めるようになりました。さらにいくつかの責任ある立場を経て、ついには、学校生活意欲が向上し「自分の考えや意見を言うのは好き」だと言うに至ります。
人間関係の問題を省いて書いているので、現実はもっと複雑で複合的なのですが、明るく生き生きとした表情になりました。
6年生の成績は国語が96点、算数が98点で、申し分のないレベルに達しました。
(3)教訓Teaching Point
中の上に位置する子どもの場合、何かしらの障壁が取り除かれると上位に移動する可能性が高いです。
それは、下位から中の下に位置する子どもに対する学習理解支援の課題とは明らかに違います。
C児の場合、「何かしらの障壁」を取り除くというのは、括って言うと自己肯定感を高めることと居場所を確保することでした。
どちらが先かは断言できませんが、このケースでは自信が意欲や居場所につながっていきました。
いずれにしても、背中を押す「何か」を見極め設定することが大事なのですが、それが実に難しいです。