教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「個別最適化された学び」を考える②

誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」の実現には、「ICT 環境を基盤とした先端技術や教育ビッグデータの効果的な活用」に大きな可能性があると、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」といいます。

 

そして、「ICT 環境を基盤とした先端技術や教育ビッグデータの効果的な活用」の中心をなすのが「個別に最適で効果的な学びや支援」です。

 

個別に最適で効果的な学びや支援」には、

○個々の子供の状況を客観的・継続的に把握(センシング技術)

○知識・技能の定着を助ける個別最適化(AI)ドリル

○意見・回答の即時共有を通じた効果的な協働学習

という3つの柱があります。

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と、前回紹介しました。

 

今回は、「個別に最適で効果的な学びや支援」を深掘りし、その中身を「見える化」します。

ここでは、次の2項を対象とします。「協働学習」については別途検討します。

○個々の子供の状況を客観的・継続的に把握(センシング技術)

○知識・技能の定着を助ける個別最適化(AI)ドリル

 

ここに紹介するのは、DNPという会社のホームページに掲載された「一人ひとりの特性に応じた学びを実現する、『個別最適化学習』とは」(2019/6/14)という記事です。

 

教育現場の実情と課題
現在の教育現場では、学習計画をたてて、それを実行・評価・改善につなげるというPDCAサイクルが一般的に行われています。このプロセスにおける大きな課題としてよく聞かれるのは、C(児童生徒の学習状況のチェック)の部分が、どうしても先生の経験に頼ることが多くなってしまう(情報が十分に集められ、分析される状況にない)という点です。

さらに、昨今では多くの学校において経験豊富な教員の大量退職も進み、若手教員への指導技術の継承が困難になるという問題も顕在化しつつあります。この問題を解決する意味でも、教員の経験則を補うものとして、スタディ・ログ(引用者注:子どもたちの学習記録データ)に基づく個別最適化された指導が注目を集めています。

児童生徒の学習状況を判断する材料が可視化されることで、教員はより自信を持って指導を行うことができます。児童生徒への指導内容について、保護者に説明する際の説得力も増します。

DNPの個別最適化学習支援サービス
DNPでは、上述のような背景も踏まえ、個別に最適化した学習の取り組みを支援するサービスを提供しています。
アテンダント は、小・中・高校で日々実施しているテスト・ドリル(タブレットや紙を使って行ったもの)から、スタディ・ログを効率的に収集でき、先生方の時間創出の実現を目指すものです。
また、スタディ・ログの分析結果を分かりやすい形で「見える化」することが可能。問題ごとの正答率だけでなく、誤答類型(間違え方のパターン)を分析することで、先生方はクラスや個人ごとの迅速な状況把握ができるようになります。

 

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単元・期末テストの紙の答案用紙を、スキャン・デジタル化し、現代テスト理論に基づきAI的に分析し、個々の児童に適した復習教材をご提供します。

アテンダント では、テストの結果に対して一人ひとりの「個人カルテ」が発行されます。個人カルテではすべての問題の正誤状況や前後のテストの比較、どの観点の設問で誤答が多いかなど、先生方が必要とする情報を把握することができます。
さらに、分析結果をもとに児童生徒の能力や特性に応じた復習、発展学習教材を、紙・デジタル・動画・アプリなど学びやすい形で提供することができます。
DNPから個別の復習教材を学校ごとに配送することもできるので、先生にプリントする手間をかけず一人ひとりの指導につなげることができます。

 実際に取り組まれている事例の模式図です。

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私は、2019年度の終わりに、このシステムを活用した授業体験をさせていただきました。

その折の感想が、「個の学力と集団の学力 ~タブレット時代の学力考~」(2020.07.07)です。再掲します。

昨年度、タブレット端末に向かって黙々と回答する「最先端」の数学の授業場面を見て、30年近く前のことを思い起こしていました。

 

たしかにタブレット端末を使ったオンライン学習は「最先端」です。しかしそれは学ぶ手段が「最先端」ということであって、取り組んでいる課題は古くて新しいものです。

 

30年ほど前、私は学力向上の取り組みの渦中にあって、推進の舵取りを担っていました。取り組みの大きな柱は2つあって、1つは授業改革でもう1つは学習の個別化でした。

授業改革は教える側の問題であり、「集団の学力」をターゲットにしています。

学習の個別化は学ぶ側(学ぶ意欲)の問題であり、「個の学力」をターゲットにしています。

 

学習の個別化をすすめるにあたって、まず「個人カルテ」を作りました。教員が個々の子どもの学習達成度を共有するためです。

つづいて、大がかりな学習プリント群の作成にとりかかりました。1年生から6年生までの「数と計算」領域の全単元を系統化し、確認→練習→再確認の流れをシステム化して1000種類ほどの作ってプリントを整理棚に並べました。

一斉朝学習の時間になると各自の進度表にしたがってプリントに取り組み、備え付けの正答集でマル付けをします。全教師がいずれかの教室に入り込み、「ヘルプ」を求めた子を支援します。

 

30年前に手作業で構築したシステムはオンラインの先にある企業が担い、学びも管理もすべてタブレット端末で完結します。ずいぶん便利になったものです。

 

今日の「最先端」は、数年後には「当たり前」になることでしょう。それはそれでいいことなのですが…。

 

私が手作りプリントで学ぶ側からの学力アプローチを進めていた時、それは教える側からの学力アプローチと一体不離のモノでした。

教える側からの学力アプローチ、つまり授業改革でめざしたのは、個々の子の学ぶ意欲につながる授業です。集団としての学びの質が高ければ高いほど、個々の子はそこから学び刺激を受けます。その結果として個の学力が高まり、それが集団の学びをさらに高めます。そういう学力の好循環を育てようとしたのです。

学力にゴールなどありませんから、取り組みは「道なかば」で終わっていますが。

 

タブレット時代の入り口に立って感じるのは、機器に使われている教師と子どもの多さです。しばらくは機器に振り回され、過度に依存する時期が続くのでしょう。やがて機器をツールとして使いこなせるようになった時、立ち止まって考えていただきたいのです。

タブレットは育てようとする学力のどの部分を担い、それはあなたの授業にどう位置づけられるのでしょう。検証の軸は「個の学力」と「集団の学力」という古くて新しい永遠のテーマです。

 「個の学力」と「集団の学力」は、「協働学習」について検討する際に言及します。

 

 

ここで立ち止まって、深呼吸。

果たして、「個別最適化された学び」構想は功を奏するのでしょうか。

30年前に私が手作りで似たようにシステムを模索したときは、子どものメンタル面へのアプローチがセットでした。AIのシステムには、それはありません。

AIを使いこなす教師がよほど教育者としての力を身につけていないと、無味乾燥なシステムの一人歩きになりそうな気がします。

杞憂に終わればいいですが…。