教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

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日本語探訪(その44) 故事成語「矛盾」

小学校3・4年生の教科書に登場する故事成語の第13回(最終回)は「矛盾」です。

 

矛盾

 

「矛盾」の読み方

 むじゅん

 

「矛盾」の意味

事の前後のととのわないこと。つじつまの合わないこと。自家撞着(じかどうちゃく)。(広辞苑

 

「矛盾」の使い方

二人の話が矛盾する 

 

「矛盾」の語源・由来

「矛盾」の出典は、『韓非子(かんぴし)』「難一(なんいつ)」に出てくる故事にあります。 

 

楚人有鬻楯與矛者。
譽之曰、吾楯之堅、莫能陷也。
又譽其矛曰、吾矛之利、於物無不陷也。
或曰、以子之矛、陷子之楯何如。
其人弗能應也。
夫不可陷之楯、與無不陷之矛、不可同世而立。
今堯舜之不可両譽、矛楯之説也。

 

(書き下し文)
楚人(そひと)に楯(たて)と矛(ほこ)とを鬻(ひさ)ぐ者有り。
之(これ)を譽(ほ)めて曰く、吾が楯(たて)の堅きこと、能(よ)く陷(とほ)すもの莫(な)きなり、と。
又(また)其の矛(ほこ)を譽(ほ)めて曰く、吾が矛の利(と)きこと、物に於(おい)て陷(とほ)さざる無きなり、と。
或(ある)ひと曰く、子の矛を以て、子の楯を陷(とほ)さば何如(いかん)、と。
其の人、應(こた)ふること能(あた)はざるなり。
夫れ陷(とほ)すべからざるの楯は、陷(とほ)らざる無きの矛とは、世を同じくして立つ可からず。
今、堯(ぎょう)・舜(しゅん)の両(ふた)つながら誉(ほ)むべからざるは、矛楯(むじゅん)の説なり。

 

(現代語訳)
楚の人で、盾と矛を売る者がいた。
盾を誉めて言うには、「我が盾の堅いこと、これを突き通すことができるものはない」と。
また、矛を誉めて言うには、「我が矛の鋭いこと、突き通せないものはない」と。
ある人が言った。「君の矛で君の盾を突けばどうなるのかね」と。
その商人は答えることができなかった。
何物も突き通せない盾と、突き通せないものはない矛とは、世に同時に存在することはできない。
今、堯と舜のふたりを同時に誉めることができないのは、この矛盾の話と同じである。

 

「矛盾」の蘊蓄

「矛盾」の類義語

相反(そうはん)
齟齬(そご)
抵触(ていしょく)
牴触(ていしょく)
撞着(どうちゃく)
頓珍漢(とんちんかん)
不合理(ふごうり)
背馳(はいち)
背反(はいはん)
不一致(ふいっち)
不両立(ふりょうりつ)
矛盾撞着(むじゅんどうちゃく)