教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(その45) 故事成語「圧巻」

小学校のうちに覚えたい四字熟語200語(あるHPに紹介されたものです)に含まれる36の故事成語と、私が知っておいた方がいいと思う14の故事成語、あわせて50の故事成語を取り上げていきます。

 

小学校のうちに知っておきたい故事成語の初回(通算第14回)は「圧巻」です。

 

圧巻

 

「圧巻」の読み方

あっかん

 

「圧巻」の意味

書物の中で最もすぐれた部分。他にぬきんでた詩文。転じて、全体の中で最もすぐれた部分。(広辞苑

 

「圧巻」の使い方

この作品が、出品中の圧巻だ 

 

「圧巻」の語源・由来

「圧巻」の出典は、『文章弁体(ぶんしょうべんたい)』です。


山谷嘗云、老社贈韋左丞、前輩録為圧巻


(書き下し文)
山谷(やまたに)嘗(かつ)て云(い)ふ、老社(ろうしゃ)が韋左丞(いさしょう)に贈るの詩は、前輩(ぜんはい)録(ろく)して圧巻(あっかん)と為(な)す。


(現代訳語)
いつも黄庭竪(こうていじゅ)が言うには、『杜甫(とほ)が韋左丞(いさしょう)に贈った詩はすごく良かったので、この詩は、保存して、盛(も)った科挙(かきょ)の一番上に置きました。 

 

「圧」は、上から押さえつけること。
「巻」は、中国の官吏登用試験(科挙)の答案のこと。
昔、中国では官吏登用試験で最も優れた答案を一番上にのせたことから出た語です。

 

「圧巻」の蘊蓄

「圧巻」と似ているようで違うのが「圧倒」

「圧倒」とは、「段違いの力で他をおさえつけること」(広辞苑)です。

一つのもののなかで特に優れている部分を示すのが圧巻、比較する対象が外にあるものが圧倒ということになります。

 

「圧巻」とは読みも意味も異なる「席巻」

「席巻」は「せっけん」と読みます。「巻」は「けん」であって「かん」ではありません。(漢字テストに使えそうです)

「席巻」とは、「席(むしろ)を巻くように片端から土地を攻め取ること。転じて、圧倒的な勢いで自分の勢力範囲に収めること」(広辞苑)です。

「圧巻」の「巻」は答案用紙のこと、「席巻」の「巻」は巻くことです。

「席巻」の出典は、『戦国策』巻14です。

張儀爲秦破從連橫,說楚王曰、「(略)席卷常山之險、折天下之脊、天下後服者先亡。(略)」
【読み下し文】
張儀(ちょうぎ)、秦の為に従(しょう)を破り連横(れんこう)せんとして、楚(そ)王に説いて曰く、「(略)常山(じょうざん)の険を席巻して、天下の脊を折(くじ)かば、天下後(おく)て服する者、先づ亡びん。(略)」と。
【現代語訳】
張儀が、秦のために合従を破って連衡しようとして、楚の懐王(かいおう)に説いて言った、「(略)険阻な常山を速やかに攻略し、天下の脊梁(せきりょう)を粉砕すれば、天下の諸侯で遅れて秦に降伏する者は、真っ先に滅亡することになるでしょう。(略)」。