教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(その68) 慣用句「火花を散らす」

小学校3・4年生の教科書に登場する慣用句の第26回は「火花を散らす」です。

  

火花を散らす

 

「火花を散らす」の読み方

 ひばなをちらす

 

「火花を散らす」の意味

互いに激しく太刀を交えて切り合う。転じて、互いに激しく争う。(広辞苑

 

「火花を散らす」の使い方

 両者とも負けじと火花を散らして決勝戦を戦った。

 

「火花を散らす」の語源・由来

 「火花を散らす」の語源は、刀剣のぶつかり合いにあります。

「火花」とは、金属や石が強くぶつかり合ったときに発生する火のことで、そこから、刀剣同士が激しく切り結ぶことを、「火花を散らす」と言うようになりました。転じて、相手と激しく争ったり、ぶつかったりすることを意味しています。 

 

「火花を散らす」の蘊蓄

「日本刀由来の言葉」

明治以降、生活の場からは刀剣は消えたのですが、刀剣由来の言葉は今なお現役です。これもそうだったのか、あれもそうだったのかと驚くほどに…。

刀剣・日本刀の専門サイト「刀剣ワールド」掲載のコラムより紹介します。

刀剣一般

 

助太刀

「助太刀」とは、武士の時代にできた言葉で、加勢をしたり、援護をしたりする人、すなわち「助っ人」を指す言葉。果し合いや敵討ちなどで、武士が太刀を持って加勢することから生まれた言葉です。

もともとは室町時代頃から使われはじめたと言われますが、現在のように広く使われるようになったのは、江戸時代の後期からだったと言います。

時代劇などで、敵討ちに行く人に向かって「助太刀いたす」と言うことがありますが、江戸時代には、敵討ちをするのにも、助太刀をするのにも、奉行所の許可が必要でした。

 

伝家の宝刀
「伝家の宝刀」は、家宝として代々伝えられた名刀を意味しており、大切な家宝を使わざるを得ないほど、追い詰められた状況でのみ使われる物。

転じて、いよいよという場面で取り出したり、使われたりするとっておきの手段、切り札という意味があります。

 

土壇場
現在、日常的に使う言葉として、直近の予定をキャンセルすることを「ドタキャン」と言いますが、実はこれも日本刀由来の言葉。

ドタキャンとは、「土壇場でキャンセルする」ことの略語で、この「土壇場」が、日本刀に深くかかわっている言葉なのです。

土壇場とは、江戸時代、罪人の処刑や、首のない胴体を使って、刀剣の試し切りをした場所(土壇)のこと。転じて、現在では土壇に上げられたような絶体絶命の状況にあること、もうあとがないことを指す言葉として使われるようになりました。

 

諸刃の剣
「諸刃の剣」(もろはのつるぎ)とは、刀身の両側に刃がある刀剣のこと。

諸刃の剣は、相手に刃を向けて切ろうとすると、自分にも刃が向いているため、同じように自分自身も傷付けてしまう可能性があります。

そのため、諸刃の剣は、両刃の刀剣を指す言葉でもあると同時に、非常に役立つものが、一方では大きな損害を与え得る危険を孕んでいるということを、意味しているのです。

 

刀剣の部位

 

鎬を削る
鎬(しのぎ)とは、刀身の刃と棟の間にある、山になった筋の部分のこと。刀剣同士で激しく戦った際、薄く作られている刃の部分で切り結ぶ(刀を打ち合わせて切り合うこと)と、すぐに欠けてしまいます。そのため、切り結ぶ際は、分厚い鎬筋を合わせて戦いましたが、激しい打ち合いでは鎬が削れてしまうため、激しく戦うことを、「鎬を削る」と言うようになりました。

 

切羽詰る
切羽(せっぱ)とは、刀身と鍔を、柄に安定させる役割を持った刀装具のひとつ。

この切羽が詰まると、刀身が鞘から抜けなくなってしまうことから、「切羽詰まる」とは、物事が差し迫って、どうにもならない状況や、余裕がなくなった状態を表す言葉として使われているのです。

 

そりが合わない
刀剣の「反り」は1振ごとに違っているため、鞘もその刀剣の反りに合わせて作られます。

「そりが合わない」とは、反りが合っていない刀身が、鞘にうまく収まらないように、考え方や性格の違いなどにより、気が合わないこと、相性が合わないことを指す言葉として用いられるようになりました。

 

鍔競合い
「鍔競合い」(つばぜりあい)は「鍔迫り合い」とも書き、刀剣の刀装具である鍔をぶつけ合い、戦いの決着がつかなくなった様子を指しています。

転じて、互いの実力が拮抗し、膠着状態に陥ること、同じような力量の者同士が、張り合って争うことを指す言葉となりました。

 

目貫通り
「目貫通り」は「目抜き通り」とも書き、街の中心で賑わいのある華やかな大通りを指す言葉。

「目貫」とは、刀身の茎(なかご)を、柄に固定するための重要な金具で、装飾品としての働きもあります。本来は刀身が柄から抜けないように固定する、目釘(めくぎ)を装飾する物でしたが、のちに拵を装飾する物となりました。

江戸時代には、目貫を「目立つもの」という意味の言葉として使うようになり、現在使われている、目貫通りの語源となったのです。

 

剣術

 

太刀打ちできない
「太刀打ちできない」とは、相手の力が強すぎるために、まともに張り合って立ち向かうことができないという意味。

本来「太刀打ち」とは、刀剣の太刀を使って戦うことを意味しており、転じて、太刀打ちできないとは力量の違う相手と、互角に戦うことができないという意味の言葉となりました。

 

抜き打ち
学校などで使われる言葉で、予告なく行なわれるテストのことを「抜き打ちテスト」と言いますが、これも日本刀由来の言葉。

本来「抜き打ち」とは、「居合」のように、どのような状態からでも、突然刀剣を鞘から抜いて斬りかかることを指します。

現在では、予告なく行なわれる物事に対して、抜き打ちと呼ぶようになったのです。

 

火花を散らす
「火花」とは、金属や石が強くぶつかり合ったときに発生する火のことで、そこから、刀剣同士が激しく切り結ぶことを、「火花を散らす」と言うようになりました。転じて、相手と激しく争ったり、ぶつかったりすることを意味しています。

 

横槍を入れる
「横槍」とは、戦場で、対戦中に別の部隊が、横から槍で攻撃を加える戦法を表す言葉。そこから、関係のない人が横から入り込んで口出しをし、話などを妨げることを意味する言葉となりました。

本来の横槍が攻撃的な意味を持つため、似たような言葉の「口をはさむ」などよりも、話を妨害するなどの意図があります。

 

制作工程

 

相槌を打つ
誰もが使ったことのある「相槌を打つ」という言葉は、話し手の調子に合わせて頷いたり、返事をしたりすること。

これも日本刀由来の言葉で、「相槌」とは、刀工が刀剣を鍛造するときに、師が槌で打つのに合わせて、タイミングよく弟子がもうひとつの槌で打つことを言います。この交互に刀剣を鍛える相槌が、現在では相手の話にタイミングよく反応することを指すようになったのです。

 

付け焼き刃
「付け焼き刃」とは本来、質の悪い刀剣の地鉄に、あとから刃金(はがね)を焼き付けた物のことを言います。

しかし、そうした付け焼き刃は、すぐにはがれてしまい、切れ味が悪くなることから、現在では、その場しのぎでにわかに身に付けた技術や知識という意味で、使われる言葉になりました。

 

とんちんかん
「とんちんかん」は、漢字で「頓珍漢」と書きますが、これは後世で付けられた当て字。

「とんちんかん」の語源は、刀剣を鍛造する際に、鉄を打つ音から来ています。師の刀工が槌を打つ合間に弟子が相槌を入れます。その相槌のタイミングが悪いと「トンチンカン」とずれた音がすることから、物事のつじつまが合わないことや、間が抜けた言動を指す言葉となりました。

 

焼きを入れる
「焼きを入れる」とは、刀剣を制作する過程のひとつである、「焼き入れ」が語源となっています。この焼き入れは、高温にした刀身を水に入れ、瞬時に冷却する作業。これは、強度を増したり、刃文や反りを生じさせたりする大変大切な工程です。

この作業から、やる気のない者に活を入れて気を引き締めさせること、転じて、制裁や拷問の意味で使われるようになりました。なお、「焼きが回った」という言葉も、同じく焼き入れの工程を由来とする言葉。

焼き入れをしすぎると切れ味が悪くなるため、歳を重ねて、能力が落ちることを意味する言葉となったのです。

 

鑑定

 

折紙つき
「折紙つき」とは、物の品質や人の実力などが確実に保証されていることを表す言葉。実はこれも日本刀由来の言葉で、折紙つきの「折紙」とは、「刀剣極所」(とうけんきわめどころ)によって発行された、刀剣鑑定書のことを指します。

この制度は1596年(慶長元年)に作られてから明治時代まで続き、代々「本阿弥家」(ほんあみけ)という、刀剣の鑑定を生業にする一族によって発行されました。この折紙が付いた刀剣は信用され、安定した相場が付けられたことから、現在の意味で使われるようになったのです。

 

極め付き
「極め付き」も、折紙つきと同じく、「極め書き」と呼ばれる鑑定書が付いた刀剣を指して使われた言葉。しかし、この極め書きは刀剣だけでなく、書画や古美術に付けられた物で、真偽を判定する基準として、この極め書きが使用されました。

極め付きの刀剣や古美術は価値が高く、信用されたことから、現在では確かな品質や実力を持っていることや、他よりも優れているという意味を持つ言葉となったのです。