教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「旭川女子中学生いじめ凍死事件」を対岸の火事にしない③

重大な人権侵害事件

 

6月22日の「ウッペツ川飛び込み」事案によって、問題が顕在化します。

Wikipedia

当該女子中学生は2019年4月に北海道旭川市旭川市立北星中学校に入学して間もなく、数人の中学生男女らにいじめられるようになった。

その中の他校の男子中学生に「裸の動画送って」「写真でもいい」「お願いお願い」といったLINEメッセージによる脅迫を受けた。被害者は恐怖を感じて自身のわいせつ画像を当該男子に送り、その画像が中学生のLINEグループなどに拡散され、後日呼び出されて自慰行為を強要されるなどいじめが激化した。

その後、被害者はいじめグループ10人近くに囲まれ、2019年6月22日にウッペツ川へ飛び込み、警察が出動した。

 

ここから信じがたい事態が続きます。

 

廣瀬爽彩さんは幸い救助され、病院に運ばれます。

いじめグループは警察に「母親の虐待が原因で飛び込み自殺未遂をした」と説明したため、警察は母親が被害者に付き添って病院へ行くことを拒んだ。しかし、「被害者は友達だ」と説明していたいじめグループから被害者宛てに心配するメッセージや着信が一切ないことを不審に思った警察は被害者のLINEを確認。残っていたトークや画像からいじめがあったことを認識し、旭川中央警察署少年課が捜査を開始した。また、母親による虐待がないことが判明したため入院中の被害者との面会を許可した。いじめグループは、自身のスマートフォンを初期化するなどして証拠隠滅を図ったが警察は復元し、わいせつ画像やわいせつ動画の証拠を入手。児童ポルノ禁止法違反(製造)で当時14歳未満だった他校の男子中学生の一人を触法少年扱いで厳重注意処分、その他のいじめグループメンバーを強要罪の疑いで調べたが、証拠不十分で厳重注意処分とした。

 

2019年6月22日と、その直後の学校の様子が分かりません。警察の対応だけが記述されています。(まさかと思いますが、学校外で起こった事案ということで特段なにもしなかったのかもしれません。)

 

当初、学校には「母親の虐待が原因で飛び込み自殺未遂をした」との情報がはいったはずです。

自殺未遂です。

学校にとって生徒の自殺(自殺未遂)という行為は、緊急事態です。

学校はなにをしたのでしょう。

 

その後、学校は上述のような事実を警察からの情報として知ることになります。

いじめがあったことを認識した旭川中央警察署少年課が捜査した結末は次のとおりです。

「わいせつ画像やわいせつ動画の送信強要」については、「児童ポルノ禁止法違反(製造)」で当時14歳未満のため触法少年扱いで厳重注意処分。

「ウッペツ川への飛び込み強要」については、「強要罪の疑い」で調べたが、「証拠不十分で厳重注意処分」。

 

児童ポルノ禁止法違反(製造)」「強要罪」の対象となる行為は、「触法行為」です。犯罪です。

人権の視点から見ても、きわめて重大な人権侵害事件です。

看過できないーー当該学校はそうは思わなかったのでしょうか。

 

「いじめ防止対策推進法」には、「重大事態」に関する規定があります。

第五章 重大事態への対処

(学校の設置者又はその設置する学校による対処)
第二十八条 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき

二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
2 学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。
3 第一項の規定により学校が調査を行う場合においては、当該学校の設置者は、同項の規定による調査及び前項の規定による情報の提供について必要な指導及び支援を行うものとする。

 

「わいせつ画像やわいせつ動画の送信強要」により、廣瀬爽彩さんは「心身又は財産に重大な被害が生じ」ました。

「ウッペツ川への飛び込み強要」により、廣瀬爽彩さんは「生命に重大な被害が生じ」ました。

「わいせつ画像やわいせつ動画の送信強要」や「ウッペツ川への飛び込み強要」は「いじめ」だと警察も認識しています。

これは、疑いようのない「重大事態」です。

 

「重大事態」が発生すると、学校は教育委員会に報告するとともに、調査を行う義務があります。

児童ポルノ禁止法違反(製造)」で厳重注意処分を受けた生徒は、廣瀬さんとは別の中学の生徒でした。それにも定めがあります。

「いじめ防止対策推進法」

 

(学校相互間の連携協力体制の整備)
第二十七条 地方公共団体は、いじめを受けた児童等といじめを行った児童等が同じ学校に在籍していない場合であっても、学校がいじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を適切に行うことができるようにするため、学校相互間の連携協力体制を整備するものとする。

学校から報告を受けた旭川市および旭川市教育委員会は、「学校相互間の連携協力体制を整備する」義務を負います。

Wikipedia

証言
・いじめグループが所属していた他の中学校で弁護士同席のもと2019年8月29日に「謝罪の会」が実施されたが、被害者の中学校は弁護士同席に難色を示し旭川市教育委員会による指導の末2019年9月11日にようやく許可した。母親の支援者によれば、被害者の中学校の「謝罪の会」は、教員は全員退席し録音も禁止された。


・被害者の親族によれば、校内で起きた出来事ではないため、わいせつ画像の拡散に責任は負えないと、2019年当時被害者が通っていた中学校の教頭が母親に説明した。

健全に機能している様子はうかがえません。

 

 

廣瀬爽彩さんは2019年9月に引っ越します。

Wikipedia

いじめによるPTSDを発症しており、2021年2月に失踪する直前まで入院や通院をしながら自宅で隠遁生活を送っていた。

2021年2月13日、被害者は氷点下17度の夜に突然家を飛び出して行方不明になり、警察による公開捜査が行われたものの、3月23日に公園で凍死した状態で発見された。

旭川女子中学生いじめ凍死事件」は、直接には2021年の事案を指します。

 

2019年9月に引っ越してから2021年2月に失踪するまでの間、教育的に関わりはどうだったのでしょう。

「いじめ防止対策推進法」には、「いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする」(第二十三条3)とあります。

法律にあろうがなかろうが、廣瀬さんの様子が気に掛かって仕方ない。ーーそんな心持ちはなかったのでしょうか。

 

Wikipedia」の記事中、「最終報告」の内容に触れたくだりです。

中学校の対応については、被害者がからかわれるなどしたあと、雨で増水した川に入った2019年6月の時点で、いじめの「重大事態」として市の教育委員会に報告する必要があったとして、「対応は明らかに誤りであった」と指摘した。
教育委員会の対応については、いじめ防止対策推進法で定めた「重大事態」と認めなかったことを「法律違反になる」との見解を示し、「重大事態」としての報告を学校側に働きかけることを怠ったとした上で、「いじめ問題に関する指導を根本的に改めず、しかるべき対応をしてこなかった歴代の市教委の組織の怠慢がもたらした」と厳しく非難した。

 

今ごろ何を……。

 

いじめ事案への対処の問題ではありません。

人権感覚の問題です。

2019年の4月から6月、廣瀬爽彩さん本人や保護者から相談を受けた担任教師の人権感覚のアンテナがもう少し研ぎすまされていたら……。

2019年6月の「飛び込み」事件のとき、重大な人権侵害と認識できていたら……。

 

「重大事態」を招いてしまった後には、教育的に営みが極めて困難になります。

そこに至るまでには、いくつもの「ヒヤリハット」がありました。教師たちがそこに自らの姿を映すことができていたら……。

ましてや、子どもが命を落としてしまっては、教育の営みはもはや成立しません。

 

旭川の件を「対岸の火事にしない」ということの本質は、いじめ対策のノウハウではなく、教師一人ひとりの人権意識、人権感覚を問い直すことなのです。

 

 

 

「旭川女子中学生いじめ凍死事件」を対岸の火事にしない②

「いじめ」とは何か

 

旭川女子中学生いじめ凍死事件」について、「Wikipedia」の記事をもとに検証します。

 

Wikipedia

当該女子中学生は2019年4月に北海道旭川市旭川市立北星中学校に入学して間もなく、数人の中学生男女らにいじめられるようになった。

その中の他校の男子中学生に「裸の動画送って」「写真でもいい」「お願いお願い」といったLINEメッセージによる脅迫を受けた。被害者は恐怖を感じて自身のわいせつ画像を当該男子に送り、その画像が中学生のLINEグループなどに拡散され、後日呼び出されて自慰行為を強要されるなどいじめが激化した。

その後、被害者はいじめグループ10人近くに囲まれ、2019年6月22日にウッペツ川へ飛び込み、警察が出動した。

 

2019年6月22日に廣瀬爽彩さん(被害者)がウッペツ川へ飛び込んだことで、問題が表面化します。

 

いじめへの対応は教育の営みとして必要です。加えて、2013(平成25)年6月28日に公布された「いじめ防止対策推進法」によって、法に基づく義務行為として取り組みが求められています。

 

いじめ防止対策推進法

(いじめの早期発見のための措置)
第十六条 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを早期に発見するため、当該学校に在籍する児童等に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、いじめに関する通報及び相談を受け付けるための体制の整備に必要な施策を講ずるものとする。
3 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員がいじめに係る相談を行うことができる体制(次項において「相談体制」という。)を整備するものとする。
4 学校の設置者及びその設置する学校は、相談体制を整備するに当たっては、家庭、地域社会等との連携の下、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利その他の権利利益が擁護されるよう配慮するものとする。

 

(学校におけるいじめの防止等の対策のための組織)
第二十二条 学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする。

学校は、「学校いじめ防止基本方針」を策定するとともに、「学校いじめ対策組織」を設置することになっています。

そして、「学校いじめ対策組織」を中心に、いじめの早期発見のために定期的な調査を実施しなければなりません。

 

当該学校(旭川市立北星中学校)の実態はどうだったのでしょうか。

一応組織はあったとします。アンケート調査も実施されていたようですが、当該生徒からも周りの生徒からも、声を拾い上げるに至っていません。

ここがまず第1の問題点です。

もしも「学校いじめ対策組織」が生徒に近い組織であり、アンケート調査が機能していたら、その後に起こる問題はなかったのです。

それは、「組織」や「調査」の問題ではなく、学校という存在(あるいは個々の教師のありよう)が生徒に近いものであったのかどうかが問われているのです。

対岸の火事にしない検証ポイントです。

 

Wikipedia

証言
・被害者の親族によれば、2019年4月から6月にかけて合計4回にわたり母親が2019年当時の担任教師へいじめの調査を依頼したが「本当に仲のいい友達です」などと返答された。また被害者が担任教師へいじめの相談をした際、加害者には言わないよう願い出たにも関わらず、その日中に加害者に知れ渡り不信を抱かせた。

 

いじめ防止対策推進法

 

(いじめに対する措置)
第二十三条 学校の教職員地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする。

2 学校は、前項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。

3 学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする。

4 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。

5 学校は、当該学校の教職員が第三項の規定による支援又は指導若しくは助言を行うに当たっては、いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう、いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。

6 学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。

 

「2019年4月から6月にかけて合計4回にわたり母親が2019年当時の担任教師へいじめの調査を依頼した」「被害者が担任教師へいじめの相談をした」というのは、法23条の「児童等からいじめに係る相談を受けた場合において」に該当します。

担任は、「児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置」をとらなければなりません。そうしないと法令違反になるのですが、問題は「いじめの事実があると思われるときは」という文言です。相談を受けた担任がいじめではないと判断すれば、その後の行為義務はなくなることになります。

そうでしょうか。

 

いじめ防止対策推進法

 

(定義)
第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう

「いじめ防止対策推進法」は、「いじめ」とは、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいうと規定しています。

加害者や教師や第三者が「認定」するものではないのです。はたからは「ささいなこと」に思えても、当人が心身の苦痛を感じているのであれば、それは「いじめ」なのです。ーー学校の対応のスタートラインがここにないものだから、その後の齟齬が生じるのです。

 

旭川の件で言えば、担任教師が当該生徒からの訴えがあった時点で、さらにはまた保護者からの相談があった時点で、「学校いじめ対策組織」に報告する義務があったはずです。

当人や保護者が「痛い」と訴えた時点で、少なくとも「いじめ」の存在を疑うべきです。個々の教師がそうした認識に立たない限り、法律も組織も絵に描いた餅に終わってしまいます。子どもの命を預かっている教師は、肝に銘じてほしいです。

旭川の件を対岸の火事にしないための最大のポイントは、ここにあります。

 

事象を受けた教育の営みはそこから始まるのです。

 

                             (つづく)

きょうは何の日 9月28日

情報へのユニバーサル・アクセスのための国際デー

 

情報へのユニバーサル・アクセスのための国際デーは、国連の専門機関の一つである国際連合教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)が2015年に制定した国際デーの一つです。英語表記は「International Day for Universal Access to Information:IDUAI」。

 

ユネスコのHPの記事と翻訳機能による日本語訳を紹介します。

International Day for Universal Access to Information
28 September
Recognizing the significance of access to information, the 74th UN General Assembly proclaimed 28 September as the International Day for Universal Access to Information (IDUAI) at the UN level in October 2019. The day had been proclaimed by the UNESCO General Conference in 2015, following the adoption of the 38 C/Resolution 57 declaring 28 September of every year as International Day for Universal Access to Information (IDUAI). 

UNESCO and its intergovernmental programs - the International Programme for Development of Communication and the Information for All Programme - provide a platform and frame for all the stakeholders to participate in international discussions on policy and guidelines in the area of access to information. 


情報への普遍的アクセスのための国際デー
9月28日
情報へのアクセスの重要性を認識し、第74回国連総会は、2019年10月に9月28日を国連レベルでの情報への普遍的アクセスのための国際デー(IDUAI)として宣言しました。この日は、毎年9月28日を情報への普遍的アクセスのための国際デー(IDUAI)として宣言する38 C/決議57の採択に続いて、2015年にユネスコ総会によって宣言されました。

ユネスコとその政府間プログラム(コミュニケーション開発のための国際プログラムとすべての情報のためのプログラム)は、すべての利害関係者が情報へのアクセスの分野における政策とガイドラインに関する国際的な議論に参加するためのプラットフォームと枠組みを提供します。

 

以下は、「雑学ネタ帳」による補説です。

ユニバーサル・アクセス(universal access)とは、国籍や年齢、性別、障害などあらゆる要因に関わらず、誰でも同じようにインターネットを利用でき、情報を得られる状態のことを意味する。

デジタル技術の発展は世界中で進んでおり、前例のないデジタル変革の時代となっている。そんな中で、先進国と開発途上国、都市部と農村部など、それぞれの社会におけるインフラの格差が生じ、新しい形の不平等につながっている現実がある。

住む国や地域、人の年齢や性別などに関係なく、全ての人が平等に情報にアクセスできるように社会的・経済的な対策が必要である。

そのために、各国における法律の整備や政策の実施、インターネット普及率の低い地域への支援や教育、身体障害者が不自由なく入力できる機器の開発など、世界的にユニバーサル・アクセスの実現のための努力がなされている。

 

世界的な視点の課題と日本国内に限った視点の課題があります。

日本における学校教育について考えてみます。

GIGAスクール構想が進行しています。ハード面の問題で、その恩恵を受けられる地域と十分に受けられない地域があります。有償の教育ソフトにアクセスするには、自治体の財政力のあるなしが課題となってきます。

さらに、同じ地域、同じ学校においても、たとえば障害があることで特別な手立てがないと他者と同レベルの恩恵を享受できない子どももいます。

地域の課題から世界を考えるきっかけにしたいです。

「旭川女子中学生いじめ凍死事件」を対岸の火事にしない①

旭川女子中学生いじめ凍死事件」

 

旭川女子中学生いじめ凍死事件」について、市教育委員会の第三者委員会が最終報告書を公表しました。

 

「NHK NEWS WEB」の記事です。

中2女子死亡で第三者委の最終報告書公表

市長は再調査を表明


2022年09月20日 18時26分

 

去年、旭川市の公園で女子中学生が死亡しているのが見つかり、いじめが認定された問題で、市教育委員会の第三者委員会がとりまとめた最終報告書がきょう公表されました。旭川市今津寛介市長は、遺族側が内容を不服として再調査を求めていることを踏まえ、新たに市の第三者委員会を設置して再調査を行う方針を明らかにしました。

 

去年3月、旭川市の中学2年生だった廣瀬爽彩さん(当時14)が雪の積もった市内の公園で死亡しているのが見つかり、市の教育委員会は第三者委員会が今月とりまとめた最終報告書を20日、市議会で公表しました。
報告書はおよそ160ページで一部が黒塗りとなっていて、ことし4月の中間報告と同じく、爽彩さんに対して複数の上級生が菓子や飲み物の代金を頻繁におごらせたり、性的な動画送信を求め続けたりした行為などをいじめと認定しています。
法律ではいじめの定義について、「対象となった児童などが心身の苦痛を感じているもの」としていますが、報告書では「精神的苦痛が認められる行為であるとしても一律にいじめとして対処することは適切ではない」とした上で、「社会通念上の意味合いも考慮して事実の認定を行った」と異なる見解を示しています。
また、爽彩さんが亡くなったいきさつについては、直前に「今日死のうと思う」とSNSでメッセージを送っていたことなどから、「自殺と考えられる」とする見解を示しています。
そして、その背景には抑うつ状態が関係しその原因にはいじめや、学校での不適応に伴う孤独感の増大などが関係していると思われるとしていますが、死亡といじめとの関連性については、「結局は不明のままである」と明確な判断を示していません。
一方、当時の中学校の対応については、爽彩さんがからかわれるなどしたあと、雨で増水した川に入った2019年6月の時点で、いじめの「重大事態」として市の教育委員会に報告する必要があったとして、「対応は明らかに誤りであった」と指摘しています。
さらに、市教育委員会の対応については、「重大事態」としての報告を学校側に働きかけることを怠ったとした上で、「いじめ問題に関する指導を根本的に改めず、しかるべき対応をしてこなかった歴代の市教委の組織の怠慢がもたらした」と厳しく非難しています。
最終報告書を公表した市教育委員会の黒蕨真一教育長は「調査結果を重く受け止め、教育委員会および学校の対応を深く反省をし、ご遺族はもとより、市民の皆様に心からおわびを申し上げます」と謝罪しました。
旭川市の今津市長は、遺族側が最終報告書の内容を不服として再調査を求めていることを踏まえ、「事態の真相解明のためにはさらなる検証の必要性を感じることから、強い意志を持って再調査を実施する」と述べ、新たに市の第三者委員会を設置して再調査を行う方針を明らかにしました。
関係者によりますと、新たに設置する第三者委員会は弁護士や医師などで構成し、今後、これまで行われた調査を改めて検討するということです。

 

【遺族側の「所見書」も概要公表】
旭川市教育委員会の第三者委員会がとりまとめた最終報告書について、今月12日、遺族側が内容を不服として再調査を求める「所見書」を市長や市教育委員会に提出し、20日、概要が公表されました。
この中で、最終報告書で示されたいじめの定義の見解について、「定義は被害者救済のため『精神的苦痛』を要件として一貫して拡張されてきた。定義を縮小、限定解釈したことで、本来であれば認定されるべきいじめが認定されず、調査結果から除外された可能性が極めて高く、調査結果の信頼性、信用性にも重大な影響を及ぼす」と指摘しています。
また、第三者委員会が生徒などを対象に行ったアンケート調査の結果で爽彩さんが学校や教室内で無視や仲間はずれをされていたことなどが報告されていたものの、いじめと認定されなかったことについて、「被害者の精神的苦痛を無視した結論であり、到底看過できない過誤を含んでいる」と批判しています。
また、最終報告書で死亡といじめとの関連性に明確な判断を示していないことについて、「明らかな判断の回避だ」とした上で、▼背景として挙げられた「抑うつ状態」には医学的根拠が示されておらず、▼また、いじめが長期間にわたって心身に与える影響や、▼診断を受けたPTSD=心的外傷後ストレス障害などとの関連性について、専門的な知見による検証がなされていないとしています。
こうした点から「調査はあまりにも不十分」と結論づけ、改めて法律のいじめの定義にのっとったうえで、いじめの認定や自殺との関連性などについて再調査や検証を求めています。

 

「事件」の経緯については、「Wikipedia」のまとめ記事を参照してください。

ja.wikipedia.org

 

Wikipedia」の記事がほぼ事実であるとすれば(学校関係者の証言が得られていませんので、真偽の確証がありません。もっとも学校関係者の証言は「弁解」「言い訳」ですし、過去の例からしても平気でウソを言います。若干の偏りがあるとしても、「ほぼ事実」と考えていいのだろうと思います。)、こんな学校が実在するのかと無念でなりません。

実のところ、第三者委員会の最終報告書にも相当怒っています。

この稿のタイトルは「『旭川女子中学生いじめ凍死事件』を対岸の火事にしない」としています。しかし、自死以降の経緯には反面教師としてすら何ら学ぶところはありません。

他山の石とすべきは、それよりずっと前の部分にあります。

次回、詳述します。

きょうは何の日 9月25日

沢村栄治が日本プロ野球初のノーヒットノーランを達成

 

1936年9月25日、東京巨人軍沢村栄治投手が日本プロ野球初のノーヒットノーランを達成しました。

 

1936年は職業野球リーグ(プロ野球)が始まった年です。

Wikipedia」には次のように記されています。

9月25日の対大阪タイガース戦で中山武とのバッテリーでプロ野球史上初のノーヒットノーランを達成。タイガース側からノーヒットだけは恥ずかしいから、と何度も言われた中山は、6回頃から景浦将や小島利男らタイガースの打者に、「今度はストレート」「今度はドロップ」と球種を教えたが、それでも打てなかったという。

 

沢村栄治は、その年の日本プロ野球で最も活躍した完投型先発投手を対象として贈られる特別賞である「沢村賞」のもとになった人です。

日本のプロ野球草創期に3度のノーヒットノーランを記録した大投手です。しかし、生涯登板試合数は105、勝利数は63でしかありません。

沢村投手が最後に勝利したのは1941年、25歳のときです。

翌1942年には登板がなく、43年に4試合登板して3敗しています。27歳の年までの記録しかありません。

沢村栄治さんの生涯をたどります。

「九回裏:沢村栄治年譜」というHPと「Wikipedia」の記録を参考に作成しています。
1917(大正6)年
2月1日:三重県宇治山田市(現在の伊勢市)で生まれる。

1934(昭和9)年 17歳
12月26日:職業野球チーム「大日本東京野球倶楽部」(現在の読売ジャイアンツ)が結成される 。入団。

1936(昭和11)年 19歳
7月11日-13日:職業野球連盟結成記念大阪大会が開かれ阪急軍が優勝。
9月25日:甲子園球場の対タイガース戦で職業野球初の無安打無得点

1937(昭和12)年 20歳
2月:徴兵検査に甲種合格。

1938(昭和13)年 21歳
1月10日:歩兵第33連隊(三重県津市)に入隊。
4月3日:広島港を出帆。
4月6日:上海に到着。
4月:軽機関銃射手として中華民国遼東半島から大別山麓に移動、武漢三鎮攻略戦に参加。
9月23日:左掌に貫通銃創の負傷。南京の病院に入院。

1939(昭和14)年 22歳
8月:内地に帰還。

1940(昭和15)年 23歳
1月:満期除隊。
6月3日:除隊後初登板。
7月6日:西宮球場の対名古屋軍戦で3度目の無安打無得点

1941(昭和16)年 24歳
10月8日:2度目の応召。
11月15日:フィリピン戦線に移動。

1943(昭和18)年 26歳
1月11日:2度目の復員。
3月:巨人軍主将となる。
7月6日:対阪神戦で生涯最後の登板。初回4与四球で押し出し1点、3回まで5点を失い降板。
10月24日:州崎球場での対阪神戦2-2で迎えた11回表1死1.2塁、6番青田昇の代打に出場。サードフライに倒れる。生涯最後の試合出場となる。
11月-翌1月:勤労動員で川西航空機製作所鳴尾工場にて二式大艇の組立作業に従事。

1944(昭和19)年 27歳
2月19日:読売、沢村を解雇。
10月2日:3度目の応召。
11月13日:第16師団(京都府伏見区)に入隊。
11月27日、輸送船で門司港を出発。
12月2日午前4時30分:陸軍兵長沢村栄治、台湾沖で戦死。享年27歳。

 

戦争の時代を生きた偉大な野球人の短すぎる一生は、戦争と平和の問題を考える教材でもあります。

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」⑥

特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」の真意はどこに

 

「通知」は「インクルーシブ教育を推進するもの」だという永岡文科大臣の主張は、インクルーシブ教育を推進するために「通知」を出したという意味ではありません。「撤回」を求められたものだから、強弁しただけのことでしょう。

 

真意は別にあるはずです。

たとえばお金の問題も決して小さくない理由ではないかと、勘ぐっています。

 

「令和2年度発達障害支援の地域連携に係る全国合同会議」において文部科学省初等中等教育特別支援教育課が示した「特別支援教育行政の現状及び令和3年度事業について」(令和3年2月)に、特別支援学級在籍者数の推移を表したグラフがあります。

 

2020(令和2)年度

  特別支援学級数 66665  在籍者数 302473名

2010(平成22)年度

  特別支援学級数 44010  在籍者数 145431名

 

特別支援教育は2007年度に始まりました。

スタート直後の2010年度からの10年間で、学級数はおよそ1.5倍、在籍児童・生徒数はおよそ2倍に増加しました。1学級あたりの在籍者数も、約3.30人から約4.54人に増えています。

全児童・生徒数の減少とは裏腹に、特別支援学級の在籍者数は増え続けているのです。個に応じた手厚い教育支援への要望は強く、今後も増加傾向は続くと考えられます。

 

大半の時間を通常の学級で学んでいる場合には、学びの場の変更を検討するべきである → 普通学級に転籍

特別支援学級在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級において授業を行うこと。

今回の「通知」が厳密に適用されれば、在籍者数は激減するはずです。

 

この「振り分け」基準は正しいのでしょうか。

「転籍」の結果、特別支援学級数は減じるはずです。そして、「転籍」した子は通級指導になる可能性があります。担当教員の負担が大きくなります。

あるいは、手厚い指導の継続を求めて「転籍」を避けるため、特別支援学級で学ぶ時間の増加を選ぶ保護者はないのでしょうか。「分ける教育」の固定化になります。

 

 

特別支援教育はインクルーシブ教育にあらず

そもそも、「特別支援教育」はインクルーシブ教育ではありません。

特別支援教育が始まるまでの歴史については、「障害児教育の系譜」にまとめています。

yosh-k.hatenablog.com

 

yosh-k.hatenablog.com

「障害児教育の系譜②」で触れたように、「特別支援教育」という用語はサラマンカ宣言に出てくる「Special Needs Education」が元になっています。

「Special Needs Education」の訳語は「特別なニーズ教育」ですが、別翻訳が「特別支援教育」という言葉なのです。

 

yosh-k.hatenablog.com

「Special Needs Education」(「特別なニーズ教育」)は、インクルーシブ教育のことを指します。国際的には。

日本においては「Special Needs特別な必要)」に応える教育として曲解し、それまでの分離教育(文科省の言葉では「特殊教育」)を「継承・発展」させるものとして特別支援教育を定義しました。

特別支援教育は生まれたときからインクルーシブ教育とは全く別物だったのです。

 

「経済は1流、人権は3流」……日本を揶揄する言葉です。(今や経済の1流もあやしいですが)

世界において経済(金儲け)で存在感を保つには、人権においても「1流」であることが欠かせません。(中国バッシングがそのことをよく示しています)

「人権も1流」と外向きにはポーズする。ーー「障害者権利条約」は140番目の批准国、「子どもの権利条約」は158番目の批准国、「女性差別撤廃条約」は72番目の批准国。これがわたしたちの国、ニッポンの立ち位置です。

 

インクルーシブ教育という理想と現実の狭間で

障害のある子どもの保護者が手厚くきめ細かい教育」を望むのは、極めて当然のことです。

しかし、そのことは「分ける教育」を希望するということとイコールではないはずです。「分ける教育」の場でしか教育が提供されないので、手厚くきめ細かい教育」のためにはそうするしかないのです。

「分けない教育」の場、つまり普通学校の普通学級で手厚くきめ細かい教育」が提供されるのであれば、そちらを選ぶ人が多くあるはずです。インクルーシブ教育はそれを求めるものです。

 

「障害児教育の系譜③」に出てくる古い文章を再掲します。

1980年代に大阪で「原学級保障」の取り組みが行われていました。それに学びながら私たちがめざしたものの中に、特別支援教育をインクルーシブ教育にしていくヒントがあるように思います。

註:当時の「原学級保障」というのは、障害児学級に在籍する子どもを交流学級である普通学級で教育保障する取り組みを言います。「原学級保障」という言葉の語源となった大阪では二重在籍が認められていた時期があり、交流学級も「原学級」でした。

1986年に書いた文章です。

私たちは、子どもは集団の中でこそ育つのだと考えている。だから、「障害児」が「健常児」と共に普通学級の中で生活しているというところから、すべてのものが始まるのだと考えている。みんなと共に生き、共に学ぶという方向性をきちんと持ち、しかも基本的に「健常児」と共に日常的に生活する場がきちんと保障されていることが原則だとも考えている。

しかし、現実の普通学級や普通教育には、多くの問題点がある。したがって、原学級保障の取り組みというのは、普通教育の「普通性」そのものの中身を問うことでなくてはならない。

それが十分に進められるまでの間、みんなと共に生きるという方向性だけは堅持しながらも、部分的には、その子に応じた場と中身を提供するということも否定できない。障害児学級や障害児学級担任は、原則に近付いていくための“過渡期の矛盾措置”と考えたい。
いずれにせよ、私たちは、なぜ一緒にするのかではなくて、なぜ分けてきたのかということにこだわりつつ、当たり前のことを当たり前にしようとしているのである。原学級保障の営みは、普通教育そのものへの問いかけであり、当然のことながらひとり「障害児」のみならず、学級の底辺に置かれてきたすべての子どもに光を当てる教育の営みである。だから、すべての学級の課題たり得るのだ。

当時の文章には、こうも書いています。

原学級保障などというと、それは「障害」の程度が軽いからできるのだとか、「障害児」が1人しかいないからできるのだとか、あるいはまた低学年だからできるのだとか、小学校だからできるのだとかいった声が聞こえてくる。
「障害」が軽度とか重度とかいう言い方も極めていい加減なものだけれども、なぜ重度になれば「障害児」学級であり、養護学校なのだろうか。その子にあった教育の場所と中身が用意されなければならない、普通学校(普通学級)には必要な設備がないと言われるかも知れない。前の部分については後で触れるとして、教育の条件・設備など 100 年待っても整うものではない。「障害」のあるその子を受け入れるためにどう整備していくのかということが考えられたときに初めて前進するものである。

 

世界の標準は「分けない教育」、文字通りのインクルーシブ教育です。

どこの国だって十分な教育の条件・設備が整っていたわけではないでしょう。それでも理念としてのインクルーシブ教育の実現を目指して歩を進めているのです。

ましてや経済大国日本に条件を整える体力がないなどという話は通用しません。

当事者も保護者も、支援者も教員も、小さな1歩ーしかしそれは大きな未来につながる確かな1歩ーを踏みだすことから日本のインクルーシブ教育は始まる、と私は思います。

 

 

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」⑤

特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」

 

今回は、障害者権利委員会が示した「懸念」および「要請」の(b)についてです。

日本の初回報告に関する所見のまとめ

教育(第24条)
51.委員会は、次の事項について懸念する。     
   

(b)障害児を正規の学校に入学させる準備ができていないと認識され、事実に即したため、障害児を通常の学校に入学させることを否定し、2022年に発行された閣僚通知により、特別クラスの生徒は学校時間の半分以上を通常の授業に費やすべきではない。    
   

52.    委員会は、インクルーシブ教育の権利及び持続可能な開発目標4、目標4.5及び指標4(a)に関する一般コメント第4号(2016年)を想起し、締約国に対し、次のことを要請する。
   

(b)すべての障害児が正規の学校にアクセスできることを確保し正規の学校が障害のある生徒の正規の学校を拒否することを許可されないことを確保するための「拒絶されない」条項および方針を制定し、特別クラスに関する閣僚通知を撤回すること。  

 

日本語訳中の「正規の学校」は「普通学校」を、「特別クラス」は「特別支援学級」を指します。

 

 

2022年に発行された閣僚通知」というのは、2022年4月27日付けで文科省から出された特別支援学級及び通級による指導の適切な運用についてを指します。

障害者権利委員会が問題にしているのは、次の部分です。

〇 交流及び共同学習を実施するに当たっては、特別支援学級に在籍している児童生
徒が、通常の学級で各教科等の授業内容が分かり学習活動に参加している実感・達
成感をもちながら、充実した時間を過ごしていることが重要である。このため、「平成29 年義務標準法の改正に伴い創設されたいわゆる『通級による指導』及び『日本語指導』に係る基礎定数の算定に係る留意事項について」(令和2年4月17日付事務連絡)にある通り、障害のある児童生徒が、必要な指導体制を整えないまま、交流及び共同学習として通常の学級で指導を受けることが継続するような状況は、実質的には、通常の学級に在籍して通級による指導を受ける状況と変わらず、不適切であること。
〇 また、「障害のある子供の教育支援の手引」にあるように、特別支援学級に在籍している児童生徒が、大半の時間を交流及び共同学習として通常の学級で学んでいる場
合には、学びの場の変更を検討するべきであること。言い換えれば、特別支援学級
在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半分以上を目安として
特別支援学級において児童生徒の一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じた授業を行うこと。

 

特別支援学級に在籍しながら大半の時間を普通学級で過ごしている子どもが相当いるというのは、「不適切」である。ーーというのが、文科省の現状認識です。

そのうえで、「不適切」な状態を解消するための選択肢を2つ示します。

大半の時間を通常の学級で学んでいる場合には、学びの場の変更を検討するべきである → つまり、普通学級に転籍すべきだということです。

特別支援学級在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級において授業を行うこと。 → 障害者権利委員会が「懸念」を示した「特別クラスの生徒は学校時間の半分以上を通常の授業に費やす…」というのはこの部分です。

 

障害者権利委員会はこの「通知」の撤回を求めました。

それに対して、9月13日に岡桂子文部科学大臣が記者会見を開き、撤回要請の拒否を表明しています。

文部科学省HPより引用します。

永岡桂子文部科学大臣記者会見録(令和4年9月13日)

永岡桂子文部科学大臣記者会見テキスト版

記者)
 先週、国連の障害者権利委員会が日本に関する報告書を発表しまして、日本の特別支援教育が障害児を分ける分離教育だというふうに捉えた上で、この教育体制を見直すように強く要請をしました。十分な予算の確保も含めてインクルーシブ教育について捉えなおしていくようにということが盛り込まれていましたが、この報告書を受けて、永岡大臣の受け止めや今後の文科省としての対応を教えてください。また、報告書の中に、2022年4月に文科省が出した特別支援教育に関する通知を撤回するようにという要請も盛り込まれていました。この通知を出された趣旨を改めて教えていただきたいというのと、この報告書に盛り込まれている撤回という要請を受けてどのように対応されていくかというのを教えていただければと思います。

大臣)
 8月22日から23日に、スイスのジュネーブにおきまして、障害者権利条約の対日審査が行われました。文部科学省も、政府代表団の一員として審査に対応をいたしました。この審査を受けまして、9月9日になります、障害者権利委員会の総括所見が公表されまして、障害のある子供の教育につきましては、個々の教育上の要請を充たす合理的配慮の保障、そしてもう一つ、インクルーシブ教育に関する研修の確実な実施などが勧告されました。文部科学省では、これまでもですね、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごせるように、通級によります指導の担当教員の基礎定数化ですとか、また、通常級に在籍いたします障害のある子供のサポートなどを行います「特別支援教育支援員」に対します財政支援や、また、法令上の位置付けなどに取り組んでまいりました。引き続きまして、勧告の趣旨を踏まえまして、インクルーシブ教育システムの推進に向けた取組を進めていきたいと考えているところでございます。あとは、やはり、障害者権利条約に規定されておりますインクルーシブ教育システムというのは、障害者の精神的、また、身体的な能力を可能な限り発達させるといった目的の下に障害者を包容する教育制度であると、そういう認識をしております。これまでの文部科学省では、このインクルーシブ教育システムの実現に向けまして、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごす条件整備と、それから、一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整備、これらを両輪として取り組んでまいりました。特別支援学級への理解の深まりなどによりまして、特別支援学校ですとか特別支援学級に在籍するお子様が増えている中で、現在は多様な学びの場において行われます特別支援教育を中止することは考えてはおりませんが、引き続きまして、勧告の趣旨も踏まえて、通級によります指導の担当教員の、先ほどもお話し申し上げましたけれども、基礎定数化の着実な実施などを通しまして、インクルーシブ教育システムの推進に努めてまいる所存でございます。そうですね、通知の撤回がありました、お答えいたします。昨年度、文部科学省が、特別支援学級の在籍児童生徒の割合が高い自治体を対象に行いました実態調査におきまして、特別支援学級に在籍いたします児童生徒が、大半の時間を通常の学級、普通学級でございますが、通常の学級で学び特別支援学級において障害の状態等に応じた指導を十分に受けていない、また、個々の児童生徒の状況を踏まえずに、特別支援学級では自立活動に加えまして算数や国語の指導のみを行うといった不適切な事例が散見をされたところでございます。こうした実態も踏まえまして、ご指摘の通知は、特別支援学級で半分以上過ごす必要のない子供については、やはり、通常の学級に在籍を変更することを促すとともに、特別支援学級の在籍者の範囲を、そこでの授業が半分以上必要な子供に限ることをですね、目的としたものでございまして、むしろインクルーシブを推薦(注 「推薦」と発言しましたが、正しくは「推進」です。)するものでございます。勧告で撤回を求められたのは大変遺憾であると思っております。引き続きまして、通知の趣旨を正しく理解をしていただけるように、周知徹底に努めてまいりたいと思っております。以上です。

記者)
 通知についてもう1点、お伺いしたいんですけれども、文科省が通知を出された趣旨というのは今のご説明でよくわかったんですけれども、こうした通知が唐突に出たことで、現場ではかなり戸惑いの声も上がっていて。特に子供本人にどこで学んでもらうかというのを、保護者と教員が丁寧に議論をした上で決めたことが突然通知で変えなければいけないとなったときに、子供の学ぶ場をどのように変えていくかというところが、かなり混乱しているような地域もあるやに見えています。こうした通知が唐突に出たことで現場に戸惑いを与えていることであったり、子供の学びに影響をきたすかもしれないということについて、大臣はどのように考えておられるかというのを教えてください。

大臣)
 今お話し申し上げましたように、やはりある一定のご理解をしていただいていると、親御さんにも、それから学校の先生にもですね、考えております。しかしながら、この実態というのは、特別支援学級で半分以上過ごす必要のないお子さんについては、やはり通級の、普通の、通常の学級に在籍を変更することを促すとともに、やはり特別支援学級の在籍者の範囲を、そこでの授業が半分以上必要な子供に限ることを目的としたものでございますので、反対にですね、むしろインクルーシブを推進するものでございますので、勧告での撤回というのは大変遺憾であると申し上げましたけれども、やはりこの趣旨を、しっかりと教育委員会、それから親御さん、また、学校の方でもご理解をいただけるようにしてまいりたいと思っているところでございます。

 

永岡文科大臣の発言の核心はこうです。

「通知は、特別支援学級で半分以上過ごす必要のない子供については通常の学級に在籍を変更することを促すとともに、特別支援学級の在籍者の範囲を、そこでの授業が半分以上必要な子供に限ることを目的としたもので、むしろインクルーシブを推進するもの」であるから、勧告で撤回を求められたのは大変遺憾である」

 

「通知」は「インクルーシブ教育を推進するもの」だという摩訶不思議な主張は、世界のどれだけの人に理解されるでしょう。

 

障害者権利委員会の問題意識と日本政府の見解は「ねじれの位置」にあり、永遠に交わることはないでしょう。

もしも両者の認識が交わることがあるとすれば、それは100%日本政府の「変更」によって可能となります。

その「変更」には2通りあって、1つは「分ける教育」を完全にやめると宣言することで、もう1つはインクルーシブ教育なんか目指していないと居直り宣言することです。

 

次回、私見を述べてこの稿を終わりたいと思います。

                             (つづく)