教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(その22) 慣用句「エンジンがかかる」

小学校3・4年生の教科書に登場する慣用句の第9回は「エンジンがかかる」です。

 

エンジンがかかる

 

 

「エンジンがかかる」の意味

本調子になる。調子が出る。(広辞苑

 

「エンジンがかかる」の使い方

「仕事にエンジンがかかる」 

 

「エンジンがかかる」の語源・由来と蘊蓄

「エンジンがかかる」の語源や由来は明確ではありませんが、自動車のエンジンがかかることに関係していそうです。

「廃車ドットcom」に掲載されているコラム「自動車エンジンの長い歴史:後編~エンジンの話(3)」に次のような文章があります。

○自動車のひとつの問題解決が大衆化を助長するように!


今となっては当たり前のエンジンの始動…鍵を入れて回す、あるいはスタートボタンを押すだけでエンジンがかかるようになっています。しかし、20世紀前半までは命がけの作業だったのだそうです。というのも、今のような自動スタートができず、クランク棒と呼ばれる棒を回してエンジンをかけなければなりませんでした。

 

クランク棒とは、エンジン内部のクランクシャフトに直接つながっている物で、内燃機エンジンの開発初期の頃にはエンジンを始動させるための大切なものでした。現在の内燃機型エンジンにもクランクシャフトは使用されていますが、クランク棒を回してエンジンを始動させるようなエンジン始動方法はありません。今では鍵(スタートキー)を回したり、スタートボタンを押したりする動作です。

 

内燃機エンジンの動作を一般的な4サイクルエンジンで、端的に説明すると、
① 吸入:ピストンが下がり、吸気バルブから燃料と空気の混合気を燃焼室に吸入
② 圧縮:クランクシャフトでピストンを押上げてシリンダー内部の混合気を圧縮
③ 燃焼:圧縮混合気に火花で点火。ピストンを燃焼の爆風で押下げクランクシャフトを回す
④ 排気:ピストンが上がり、排気バルブから燃焼ガスを排出
といったサイクルを連続して行う事で、クランクシャフトを回転させます。回転したクランクシャフトの連動により、1気筒内のピストンが2往復する間に1回の燃焼と1回の排気をします。それを複数の気筒で連続しておこなうことでエンジンは動いていますが、ではエンジン始動時に、① 吸入の段階でピストンを下げるためのクランクシャフト回転を得るにはどうしたら良いのでしょうか?
その最初の回転を、手動で回すクランク棒で、直接クランクシャフトを回転させて行っていたのです。しかし回すのにはコツが必要で、上手くいかないとエンジンがかかりませんでした。それどころか、棒が逆回転をすることで思わぬケガをすることも多いという問題がありました。最悪の場合は、命を落とす人までいたと言います。

 

今ではまったく考えられない話ですが、当時はそれが一つの大問題だったのです。

 

その問題に目を向け、解決しようと考えたのが、アメリカの高級車リンカーンやキャデラックを立ち上げた張本人、ヘンリー・マーティン・リーランドです。そして、その意思を受け、発明家のチャールズ・フランクリン・ケッタリングが電動モーターを使ったセルフスターターを開発します。

 

1912年にはその装置がキャデラックに装備されて販売、女性用のオプションとして大人気を博しました。その後は、当時大人気だったT型フォードにも1917年から装備されるようになり、命がけのエンジンスタートから解放されたのだそうです。

 

同時に、そのエンジン始動装置、セルモーターの発明により運転が大衆化、自動車普及の一因になったとされています。

 

日本の自動車生産が本格化するのは戦後のことです。

「エンジンがかかる」の語は、 クランク棒を回していた時代に誕生したのではないでしょうか。

EV(電気自動車)が当たり前の社会が間もなくやってきます。ガソリンエンジンがその役目を終えるころ、「エンジンがかかる」の比喩表現も「死語」になっているかもしれません。