小学校3・4年生の教科書に登場する故事成語の第8回は「推敲」です。
推敲
「推敲」の読み方
すいこう
「推敲」の意味
詩文を作るのに字句をさまざまに考え練ること。(広辞苑)
「推敲」の使い方
作文を推敲する。
「推敲」の語源・由来
「推敲」の出典は、『唐詩紀事(とうしきじ)』巻四十に収められた詩人「賈島(かとう)」の逸話です。
賈島赴挙至京、騎驢賦詩、得「僧推月下門」之句。
欲改推作敲。
引手作推敲之勢、未決。
不覚衝大尹韓愈。乃具言。
愈曰、「敲字佳矣。」
遂並轡論詩久之。
(書き下し文)
賈島(かとう)、挙(きょ)に赴(おもむ)きて京(けい)に至り、驢(ろ)に騎(の)りて詩を賦(ふ)し、「僧は推(お)す月下(げっか)の門」の句を得たり。
推(すい)を改めて敲(こう)と作(な)さんと欲す。
手を引きて推敲の勢いを作(な)すも、未だ決せず。
覚えず大尹(たいいん)韓愈(かんゆ)に衝(あた)る。
乃(すなわ)ち具(つぶ)さに言う。
愈(ゆ)曰く、敲の字佳(よ)し、と。
遂(つい)に轡(くつわ)を並べて詩を論ず。
(口語訳)
賈島(かとう)は都・長安にたどり着き、ロバに乗りながら詩を作っていた。すると「僧は推す月下の門」という句ができた。
しかし、「推」より「敲」という文字の方が良いのではないかと悩んだ。手を動かして、推(お)す動作と敲(たた)く動作をしてみたもののまだ決まらない。すると韓愈の列に突っ込んでしまった。
列に突っ込んでしまった理由を説明すると、韓愈は、「敲が良い。」と言った。そのまま二人は並んで詩についてしばらく論じた。
「推敲」の蘊蓄
「推敲」の出典『唐詩紀事』は、 宋の計有功(けいゆうこう)の編で、唐代の詩人1150人について、その詩・小伝および批評などを集めたもの。全81巻あり、「推敲」は巻四十に収められています。
「推敲」の語源になった詩の作者・賈島(779年~843年)は、中国・唐の詩人です。そのとき作った詩は、「題李凝幽居」というものです。
題李凝幽居 賈島
閑居少鄰竝
草径入荒園
鳥宿池中樹
僧敲月下門
過橋分野色
移石動雲根
暫去還来此
幽期不負言
李凝(りぎょう)の幽居(ゆうきょ)に題(だい)す 賈島(かとう)
閑居(かんきょ)鄰竝(りんぺい)少(すく)なく
草径(そうけい)荒園(こうえん)に入(い)る
鳥(とり)は宿(やど)る池中(ちちゅう)の樹(き)
僧(そう)は敲(たた)く月下(げっか)の門(もん)
橋(はし)を過(す)ぎて野色(やしょく)を分(わ)かち
石(いし)を移(うつ)して雲根(うんこん)を動(うご)かす
暫(しばら)く去(さ)って還(ま)た此(ここ)に来(き)たる
幽期(ゆうき)言(げん)に負(そむ)かず
「隣家も稀な李凝の幽居。草径を通り池畔を過ぎて、僧は月に照らされた門を敲く。橋を渡れば、一面にあふれる野色。岩を動かせば、雲が湧くかと思われるほどだ。今夜はこれでお別れしますが、そのうちにきっとまたお伺いしますよ。この約束はかならず果たします。」といった内容の詩です。(『中国の故事と名言五〇〇選』)
賈島が、月下の門を「おす」にしようか「たたく」にしようかと悩んだとき、「推す」「敲く」ではなく「押す」「叩く」の字を充てていたら、「推敲」ではなく「押叩(おうこう)」という成語になっていたのですかね。