小学校のうちに知っておきたい故事成語の第17回は「以心伝心」です。
以心伝心
「以心伝心」の読み方
いしんでんしん
「以心伝心」の意味
思うことが言葉によらず、互いの心から心に伝わること。(広辞苑)
「以心伝心」の使い方
吾輩は此瞬時の光景を椽側から拜見して無言劇と云ふものは優に成立し得ると思つた。禅家で無言の問答をやるのが以心伝心であるなら、この無言の芝居も明かに以心伝心の幕である。すこぶる短かいけれどもすこぶる鋭どい幕である。(夏目漱石『吾輩は猫である』)
「以心伝心」の語源・由来
「以心伝心」の出典は、『禅源諸詮集都序(ぜんげんしょせんしゅう とじょ)』または『六祖壇経(ろくそだんきょう)』です。
『禅源諸詮集都序』は、中国唐代の僧である圭峰宗密が禅の諸家の文句や偈頌を編集した『禅源諸詮集』(佚書)の序文「都序」であり、この部分のみが伝存します。
「故但以心傳心不立文字、顯宗破執、故有斯言、非離文字說解脫也」
『六祖壇経(ろくそだんきょう)』は、中国禅宗の第六祖慧能えのう)の説法集です。
「言葉では表せない仏教の神髄、教え、考え方を、無言のうちに師匠から弟子に伝えること」という意味を説明するのに「法即以心伝心、皆令自悟自解」という言葉を用いたことが由来とされる。
「以心伝心」の蘊蓄
「以心伝心」の類義語「阿吽の呼吸」と対義語「隔靴掻痒」
「阿吽の呼吸(あうんのこきゅう)」
共に一つの事をする時などの相互の微妙な調子や気持。特に、それが一致することにいう。(広辞苑)
サンスクリット語のア・フームa-hūの音写。密教では、「阿」は口を開いて発音する最初の音声で、すべての字音は阿を本源とし、「吽」は口を閉じて発音する音声で、字音の終末とする。また、阿は呼気、吽は吸気であるとともに、それらは万有の始源と究極とを象徴する。さらに阿字には不生(ふしょう)、吽字には摧破(さいは)の意があるなどとする。この2字の密教的な解釈については、空海の『吽字義(うんじぎ)』と『秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)』に詳しい。寺院の山門に安置する仁王(におう)や向拝(ごはい)の左右の柱頭にある獅子(しし)、神社の狛犬(こまいぬ)(高麗犬の意)などで、向かって右が口を開き、左が口を閉じているのは、阿吽を表す。相撲の仕切りなどで、呼吸があうのを「阿吽の呼吸」という。
(日本大百科全書)
「隔靴掻痒(かっかそうよう)」
靴の外部から足のかゆい所をかくように、はがゆく、もどかしいことをいう。(広辞苑)
『詩話総亀(しわそうき)』(漢魏六朝から宋までの詩話の総集)に出てきます。
「詩の題を著(つ)けざるは、靴を隔てて痒きを掻くが如し」
(詩は題をつけないと、靴を隔ててかゆいところをかくようなもので物足りない。)