小学校のうちに知っておきたい故事成語の第19回は「一衣帯水」です。
一衣帯水
「一衣帯水」の読み方
いちいたいすい
「一衣帯水」の意味
一筋の帯のような狭い川・海。その狭い川や海峡をへだてて近接していることをいう。(広辞苑)
「一衣帯水」の使い方
一衣帯水をなしているその対岸の島には、岡の麓に民家が一軒もなかった。(井伏鱒二『さざなみ軍記』1938年)
「一衣帯水」の語源・由来
「一衣帯水」の出典は、李大師・李延寿によって成立した、中国南北朝時代の南朝の歴史書・南史の『陳後主紀(ちんこうしゅき)』です。
南朝・陳の第5代皇帝である陳後主は悪政を行い、贅沢三昧に耽る愚かな皇帝であった為、国力が衰えて庶民は飢えと寒さに苦しんでいました。北朝・隋の文帝は荒廃する南朝の様子を見て、陳に攻め入り民衆達を救おうと決心して言いました。
我為百姓父母、豈可限一衣帯水、不拯之乎
【読み下し文】
我、百姓の父母たるに、豈(あ)に一衣帯水を限り、之を拯(すく)はざるべけんや。
【現代語訳】
私は、民衆の親の立場にあって、どうしてあんな細い川(揚子江)で隔てられているからと言って、その民を救わないでいられようか。
意訳しますと、「私は民衆の親の立場にある。隋と陳は長江に遮られているが、そんなものは一本の帯のように細いものだ。その川に遮られているからといって南朝の民を救わないでよいのだろうか。いや、そんな事はない。救わねばならない。」
「一衣帯水」の蘊蓄
「一衣帯水」=「一」+「衣帯」+「水」
「一」は一筋の意。「衣帯」は帯。細長い川や海峡を一筋の帯に見立てた表現。「水」は川や海などのこと。
「一衣帯水」の類義語
「衣帯一江」(いたいいっこう)
「衣帯之水」(いたいのみず)
※「一衣帯水」と同じ意味です。
「一牛吼地」(いちぎゅうこうち)
「一牛鳴地」(いちぎゅうめいち)
※牛の鳴き声が聞こえるほどの距離のことで、「一衣帯水」と意味は同じです。ただし、田園風景という点が異なります。