教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(その71) 故事成語「一字千金」

小学校のうちに知っておきたい故事成語の第20回は「一字千金」です。

 

一字千金

 

「一字千金」の読み方

いちじせんきん 

 

「一字千金」の意味

①きわめて価値ある立派な文字や文章。
②厚い恩恵のたとえ。(広辞苑

 

「一字千金」の使い方

10年ぶりに会った恩師からかけてもらった言葉は、一獲千金の重みがあった。 

 

「一字千金」の語源・由来

「一字千金」の出典は、『史記』の「呂不韋伝(りょふいでん)」です。

 

 呂不韋は、『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』という自然科学に関する書物を書きました。そして、「この文章の内容をたった1文字でも添削できる者がいれば、その人物に千金の賞金を与える」と宣言しました。(つまり、「文句をつける余地がないほどに優れた書物である」という自信を持っていたわけです)

 

以爲備天地萬物古今之事。號曰呂氏春秋。布咸陽市門、懸千金其上、延諸侯游士賓客、有能增損一字者予千金

【読み下し文】

以為(おも)えらく、天地万物古今の事を備うと。号して呂氏春秋と曰(い)う。咸陽(かんよう)の市門(しもん)に布(し)き、千金を其の上に懸(か)け、諸侯の游士(ゆうし)賓客(ひんかく)を延(ひ)く、能(よ)く一字を増損(ぞうそん)する者有らば、千金を予(あた)えん、と。

 

「一字千金」の蘊蓄

一字違いで大違い、「一攫千金」

「一攫千金」(いっかくせんきん)

ちょっとした仕事で労せずに一時に巨大な利を得ること。(広辞苑

「一字千金」を見て連想ゲーム的に浮かんだのが「一攫千金」です。四字熟語としては一字違いですが、その意味するところは大違いです。

ところが、何ということでしょう。

「一攫千金」を調べてみたら、語源は「一字千金」と同じ「呂不韋伝」だと書いている人が何人もいるのです。

「この文章の内容をたった1文字でも添削できる者がいれば、その人物に千金の賞金を与える」という呂不韋の触れを聞いて、たった1字で千金が攫(つか)めるとは「まさにアメリカンドリームだ」(時代的にはまだ「アメリカ」はないですが)と感じたのが語源だというのです。

ことの真偽は、私には確認できていません。

しかし、1つの触れをめぐって、発信者と受け手の立場の違いが全く意味の異なる2語を歴史に刻んだとしたら…。歴史って奥が深く、楽しいですね。