教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(その81) 慣用句「水に流す」

小学校3・4年生の教科書に登場する慣用句の第31回は「水に流す」です。

  

水に流す

 

「水に流す」の読み方

 みずにながす

 

「水に流す」の意味

過去のことをとやかく言わず、すべてなかったこととする。(広辞苑

 

「水に流す」の使い方

「多年の恨みさっぱりと、水に流して折々は」 (歌舞伎「夜討曾我狩場曙 ( ようちそがかりばのあけぼの )」1874年)

 

「水に流す」の語源・由来

「水に流す」の由来は、神事の「禊(みそぎ)」にあります。 

「禊」とは、「身に罪または穢れのある時や重大な神事などに従う前に、川や海で身を洗い清めること」(広辞苑)です。身体を水で洗い清めることから、「みそそぎ(身滌ぎ・身濯ぎ)」の約とされます。「そそぎ」は「すすぎ」の母音交換系で、「すす」は洗滌(せんでき)する際の水の音を表す擬音語とされ、「すすぐ」は水で洗い清めることが原義です。

 

「水に流す」の蘊蓄

「汚名」は「水に流」さずに「すすぐ」

「すすぐ」…けがれをきよめる。(広辞苑

すすぐ行為は、「水に流す」の由来である禊です。つまり、ここにおいては「水に流す」と「すすぐ」は同義です。

「汚名をすすぐ」(「汚名を雪ぐ」とも書きます)と言います。が、「汚名を水に流す」とは普通は言いません。

どうしてでしょう。

「すすぐ」には、「けがれをきよめる」のほかに、「水で洗い清める」「口をゆすぐ。うがいする」「汚名を除き払う」(広辞苑)という意味があります。

「すすぐ」=「汚名を除き払う」行為が、「汚名をすすぐ」「恥をすすぐ」となるのです。それは単に「汚名」や「恥」を「水に流」して、すべてなかったことにすることではないのです。「除き払う」という営為がなければ、「雪辱」=「辱(はじ)を雪(すす)ぐこと」にはならないということです。