教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

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日本語探訪(その135) 故事成語「満を持す」

小学校のうちに知っておきたい故事成語の第57回は「満を持す」です。

 

満を持す

 

「満を持す」の読み方

まんをじす

 

「満を持す」の意味

①弓を十分に引いてそのまま構える。
②準備を十分にして機会を待つ。(広辞苑

 

「満を持す」の使い方

毛利秀元軍、吉川広家軍、併せて一万六千の軍勢は、天満山の狼火(のろし)を無視したかのように、満を持したまま寂として動こうとはしていない。(松本利昭『春日局』1988年)
 

「満を持す」の語源・由来

「満を持す」の出典は、『史記』「越王勾践世家」です。

 

越の王・勾践(こうせん:~起源前465年)は謀臣范蠡(はんれい)の諌言(かんげん)を聞かず、呉を討つ兵を起こしましたが、返り討ちにあい、逆に追い詰められました。
勾践は范蠡のいうことを聞かなかったことを後悔し、これからどうしたらよいかと范蠡に尋ねました。そのとき范蠡は次のように云いました。

 

持滿者與天、定傾者與人、節事者以地。

【読み下し文】

満(み)ちたるを持(たも)つ者(もの)は天(てん)と与(とも)にし、傾(かたむ)けるを定(さだ)むる者(もの)は人(ひと)と与(とも)にし、事(こと)を節(せっ)する者(もの)は地(ち)と以(とも)にす。

【現代語訳】

満を持す(常に心をみなぎらせている)者には、天の助けがあります。
傾けるを定める(危難をささえ耐える)者には、人の助けがあります。
事を節する(用を節約して質素を守る)者には、地の助けがあります。

 

「満」とは、弓をいっぱいに引きしぼったさまで、「持す」は状態を長く保つ意。すなわち、目標に向かって弓を引きしぼったままの状態で矢を放たずに待つこと。そこから、準備を完全にして好機の到来するのを待つ意に転じました。

 

「満を持す」の蘊蓄

日本版「満を持す」は「手薬煉引く」

手薬煉引く(てぐすねひく)
①手に薬煉(くすね)をひく。保元物語「大鏑を打ちくはせて、てぐすねひきてためらひ見るほどに」→くすね。=【薬煉・天鼠子】〈クスネリの転〉松脂(まつやに)と油をまぜ合わせ、煮てねったもの。粘着力が強いので糸・弓弦などに塗って強くする。
②十分に用意して今か今かと機会を待つ。てぐすねをひく。浄瑠璃女殺油地獄「そりやそりや来たぞと三人が手ぐすね引いたる顔色」。「てぐすねひいて待つ」(広辞苑