小学校のうちに知っておきたい故事成語の第56回は「覆水盆に返らず」です。
覆水盆に返らず
「覆水盆に返らず」の読み方
ふくすいぼんにかえらず
「覆水盆に返らず」の意味
①いったん離別した夫婦の仲は元通りにならないことにいう。
②転じて、一度してしまったことは、取り返しがつかないことにいう。(広辞苑)
「覆水盆に返らず」の使い方
人間はミレンですよ。覆水を盆にかえそうとしたり、盆にかえりうるものと希望をすてなかったり、ね。(坂口安吾『街はふるさと』1950年)
「覆水盆に返らず」の語源・由来
「覆水盆に返らず」の出典は、『拾遺記』(しゅういき 390年頃)の故事にあるとされています。
それによると、
周の呂尚(りょしょう、太公望)が読書にふけったので、妻が離縁を求めて去った。後に尚が斉に封ぜられると復縁を迫られた。その時に、盆の上に水を持ってきて下に撒いた後で「この水を盆の上に戻す事は出来ないように、私たちの仲も元に戻る事は無い」と言ったという故事が由来で、
元の文は「覆水難収」(覆水収め難し)であったということです。
ただし、『拾遺記』の原文が見つかりません。
清代に編纂された『通俗編』(いろいろな言葉の出典を調べ上げた書籍)には、朱買臣(しゅばいしん)の話としてでています。
そこでは、太公望の故事と朱買臣の故事を宋代の人が一緒にしたものであろう、と断りを入れています。
その故事は、
中国、前漢の朱買臣(しゅばいしん)(?〜前115)は、若いとき貧しかったので、妻は去ってしまった。のちに出世した朱買臣に、妻は繰り返し復縁を求めたが、朱買臣は盆の水を地にこぼし、再び収めることができないことを示し、復縁できないことを述べた。すると妻は恨みをいだいて死んだという。この話は、もと周の呂尚(太公望)とその妻のこととしても知られている。それは、秦の王嘉(おうか)の著した『捨遺記(しゅういき)』に見える。周の呂尚(りょしょう:太公望)が貧しい頃、愛想をつかして別れた妻が、呂尚が斉王に封ぜられると復縁を求めてきた。そのとき、呂尚は盆に入れた水をこぼし、それを元に戻したら望み通り復縁しようと言った、
というものです。
買臣既貴。妻再拝馬前求合。
買臣取盆水覆地、示不能更収之意。
妻遂抱恨死。
此則太公望事、詞曲家所撮合也。
【読み下し文】
買臣(ばいしん)既に貴となり、妻、馬前に再拝して合ふことを求む。買臣、盆水(ぼんすい)を取りて地に覆ひ、更に収むること能はざるの意を示す。妻、遂に恨みを抱きて死せり。これ則ち太公望の事、詞曲家撮合(さつごう)する所なり。
この故事に関連して、「覆水不返」の語がよく紹介されています。
「覆水難収」「覆水不返」が「覆水盆に返らず」になっていく経緯については、はっきりしたことが分かりません。
「覆水盆に返らず」の蘊蓄
「覆水盆に返らず」の類義語
破鏡重ねて照らさず、落花枝に上り難し
(はきょうかさねてらさず、らっかえだにのぼりがたし)
落花枝に返らず、破鏡再び照らさず
(らっかえだにかえらず、はきょうふたたびてらさず)
どちらも一度離婚した夫婦は、再び元に戻ることはないというたとえ。また、一度損なわれたものや、死んでしまったものは二度と元に戻らないというたとえ。
「覆水盆に返らず」の対義語
元の鞘に収まる
(もとのさやにおさまる)
元の鞘に収まるとは、いったん離縁した夫婦や、絶縁した者が、再び以前と同じ関係に戻ることのたとえ。