教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(その140) 故事成語「粒々辛苦」

小学校のうちに知っておきたい故事成語の第62回は「粒々辛苦」です。

 

粒々辛苦

 

「粒々辛苦」の読み方

りゅうりゅうしんく

 

「粒々辛苦」の意味

米を作る農民の一粒一粒にかける苦労のひととおりでないこと。転じて、ある仕事の成就にこつこつと苦労を重ねて努力すること。(広辞苑

 

「粒々辛苦」の使い方

永い間かかって築きあげた家屋の群が一瞬にしてこぼたれ、粒粒辛苦のたまものである田園は再び荒野原と化していた。(武田泰淳『流砂』1952年)
 

「粒々辛苦」の語源・由来

「粒々辛苦」の出典は、李紳(りしん)の詩「憫農」です。

 

憫農

  李紳

(其の一)
春種一粒粟
秋収万顆子
四海無閑田
農夫猶餓死

(其の二)
鋤禾日当午
汗滴禾下土
誰知盤中餐
粒粒皆辛苦

 

【読み下し文】

農(のう)を憫(あはれ)む
     李紳(りしん)

春に種(う)える一粒の粟
秋に収める万顆(ばんか)の子(み)
四海(しかい)閑田(かんでん)無きも
農夫なお餓死す

禾(か)を鋤(す)いて、日(ひ)午(ご)に当る
汗は滴(したた)る禾下(かか)の土
誰か知らん、盤中(ばんちゅう)の餐(そん)
粒粒(りゅうりゅう)、皆(みな)辛苦(しんく)なるを

 

【現代語訳】

春に一粒の粟を撒いておくと、秋には何万粒もの実がなる。そうして国中のどこにも遊ばせている田畑はないのだが、それでもなお、農民は餓死しているのだ。
稲に鋤を入れていると、ちょうど真昼の太陽が照りつけ、吹き出る汗が稲の下の地面に滴り落ちる。誰が知っていよう。この盤(はち)のなかの飯の、その一粒一粒が、みな農民の辛苦の結晶であることを

 

「粒々辛苦」の蘊蓄

「粒々辛苦」の類義語

苦心惨憺(くしんさんたん)
非常に苦労して心を砕き痛めること。


千辛万苦(せんしんばんく)
さまざまのつらいことや苦しいこと。多くの辛苦


「粒々辛苦」の対義語

順風満帆(じゅんぷうまんぱん)
追風を帆いっぱいにはらむこと。物事が順調にはこぶさま。


無為不言(ぶいふげん)
何もせず、何も言わずにうまくことが運ぶこと。