教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

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日本語探訪(その137) 故事成語「有名無実」

小学校のうちに知っておきたい故事成語の第59回は「有名無実」です。

 

有名無実

 

「有名無実」の読み方

ゆうめいむじつ

 

「有名無実」の意味

名ばかりで、実質の伴わないこと。評判と実際とが違っていること。名ありて実なし。(広辞苑

 

「有名無実」の使い方

当時の中国では学校は有名無実の存在であったから、学校入試というよりは、むしろ専検といった方が当たっているかも知れない。(安岡章太郎『私説聊斎志異』1975年)
 

「有名無実」の語源・由来

「有名無実」の出典は、『国語』「晋語(しんご)」第八巻です。

『国語』は、左丘明(さきゅうめい)が書いた春秋時代の歴史書です。

 

「晋語」の原文が見つかりませんので、「福島みんなのNEWS」に掲載された八重樫一さんの文章を紹介します。

【有名無実】 ゆうめいむじつ
【名(な)有りて実(ジツ)無し】と訓読みされまして、名ばかりが立派で、実質が伴わないことを表します。
評判と実際が違っていることを言います。

この言葉【有名無実】の出典は『国語』晋語第八です。

春秋時代の中期、晋の卿(大臣)韓宣子(カンセンシ)が、B.C.541年に前任者の死去に伴い正卿・中軍の将となりました。
ある日、友人の叔向(シュクキョウ)が韓宣子を見かけた時の話です。

  叔向(シュクキョウ)韓宣子を見る、
     叔向が韓宣子に会ったとき、
  宣子貧を憂へて、叔向之を賀す
     宣子が貧乏を苦にしたところ、叔向が祝意を表しました。
  宣子曰く
     宣子が聞きました
  吾に卿の名有りて、其の実無く
     【私には卿という名があるだけで、それにふさわしい財産がないものです】から、
  以て二三子に從ふ無し
     皆さんとお付き合いも出来ないのです。
  吾是(これ)を以て憂ふ。
     それで、私は苦にしているのです。
  子の我を賀するは、何の故ぞ、と。
     あなたが私に祝意を表されるのは、どういう意味ですか。

出典にある【有名無実】は、【高い地位にいるがそれにふさわしい財産がない】という意味になっていまして、これが本来の意味でした。
いまの【有名無実】とはだいぶ違います。

この話の後に叔向が、韓宣子に、先代の卿も財産のことなど考えず職務に励んだので、貧乏ではあったが、
国の内外から賞賛され、子孫は今もその余徳に与(あずか)っていることをあげて、慰めています。

高位にあって徳を積めば財を成すことができると、古代中国では考えられていたようです。
これが変化して【有名無実】を「高位にありながら徳がない」と解釈されるようになって現在の
使い方になったようです。

 

「有名無実」の蘊蓄

「有名無実」の類義語

名存実亡(めいそんじつぼう)

名前だけは存在しているが、実質は無いこと


浮華虚栄(ふかきょえい)

うわべは華やかだが、実質は貧しいこと


兎葵燕麦(ときえんばく)

名前と実体が伴っていないさま


南箕北斗(なんきほくと)

名前に本質が伴っていないさま

 

「有名無実」の対義語

名実一体(めいじついったい)

名目と実体が一致していること