教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

世界遺産学習 法隆寺(その10)飛鳥人(あすかびと)の道具

鳥人(あすかびと)の道具

 

法隆寺五重塔が作られたころの道具のはなしです。

 

木を伐る

ヨキ(マサカリ)

木はヨキ(マサカリ)を使って伐採しました。

さらに、伐った原木の丸太は、クサビを打ち込んで2つに割りました。

柱の心に木の心があると割れやすいので、心をよけるために二つ割りにしたのです。

たとえば金堂の直径66㌢の柱だと、直径1.5㍍近い大木が必要になります。

気が遠くなるような作業です。

 

製材する

ヨキ(マサカリ)

ヨキではつって(少しずつ削ることを言います)、角材にしました。

 

部材に仕上げる

墨壺、墨サシ

墨壺は、木材その他の材の表面に、長い直線を正確に引くのに使用します。壺糸の一端を”かるこ”に結び付け、他方を糸口から墨汁を蓄えた池に通し、糸巻車に巻き取ります。墨汁は真綿等に含ませて池に入れ、壺糸には絹糸を使用します。
使用法は、左手に墨壺を持ち、材に”かるこ”の針を刺して壺糸の一方を固定します。必要な長さの糸を繰り出したところで、親指で車の回転を止め、人差指で糸を必要な位置に押えて緊張させ、右手で糸をまっすぐつまみ上げて放します。こうして糸の弾力性を利用することで、材料の起状にかかわらず正確な直線を引くことができます。
墨さしは、一端がヘラ状、反対側が細い棒状になっています。墨汁を付けて、ヘラ状の側で線を、棒状の側で記号、あるいは文字を書くのに使用します。墨壺、朱壺と共に用いられます。
材質は竹でできています。ヘラ状の側は巾約10〜15mm、先端から約1〜2cmの深さまで縦に薄く割り込みをいれ、ヘラ先の部分を斜めに切り落としています。この部分を曲尺などに沿わせて線を引きます。熟練者は、割り込みを30〜40枚位に極めて薄くいれるといいます。             (「竹中大工道具館」HPより)

「八郷の日々」というHPに、1879年(明治12年)に奈良の東大寺南大門が修復された折に梁の上で見つかった墨壺が紹介されています。

墨壺と墨サシは現代も使われています。

 

曲尺(かねじゃく)

法隆寺』では「曲尺(かねじゃく)」として紹介されていますが、「さしがね」とも言います。直角をはかる道具で、現代も使われています。

 

ノコギリ

この時代のノコギリについては、あまりよく分かっていません。

「奈良文化財研究所」HPの記事を紹介します。

謎多き木材加工技術

 飛鳥時代から奈良時代にかけては、寺院や宮殿、都の造営が相次ぎ、まさに建設ラッシュの時代でした。そこでは膨大な量の木材と、それを加工するためのさまざまな道具が使われたことでしょう。

 ところが不思議なことに、これまでに藤原京平城京からは、ほとんど大工道具が出土していません。古代の大工道具については、不明な点が多いのです。

 そうしたなかで、明日香村にある石神遺跡からは、7世紀後半のほぼ完全な形ののこぎりが出土しています。木製の柄に、片側のみ鋸歯(きょし)(ぎざぎざの刃)がある鉄製の刃を装着した長さ45センチほどののこぎりです。しかし、刃の長さは25センチほどしかなく、これではとても太く大きな木を切ることはできません。

 板を切り出す大型ののこぎりの登場は、室町時代まで待たねばなりません。

 古代の木材加工の技術は、まだよくわかっていませんが、きっとたいへんな労力と時間を要したことでしょう。古代の遺跡から大工道具がなかなか出土しないのは、これらの道具が大事に使用され、大切に保管をされていたからかもしれません。

 

このころのノコギリは、木材の繊維と垂直方向に切る横びきノコギリです。

「現場にひとつふたつしかなかった」らしいと、『法隆寺』にあります。それも刃の長さが25㌢ほどだったとしたら、どのようにして大きな部材を切り出していたのでしょう。

なお、木の繊維と平行に切る縦びきノコギリか登場するのは室町時代になってからです。したがって、縦方向の分割はヨキとクサビを使って行うしかありません。

 

釿(チョウナ)

部材の表面をはつる荒削りには、チョウナを使いました。「チョウナ」は「チョンナ」とも発音され、漢字では「釿」のほか、「錛」、「手斧」と表記します。

写真の左からチョウナ、ノミ、ヤリガンナ。

 

槍鉋(ヤリガンナ)

槍鉋(ヤリガンナ)は、木の繊維方向に表面を削って仕上げる道具です。

現在使われている台ガンナは、室町時代になってから登場します。

糸井重里さんの「法隆寺へ行こう!」に次のような記事があります。

小川    これが、
西岡棟梁(とうりょう)の使っていた
槍鉋(やりがんな)です。

糸井    小川さんの師匠の、
法隆寺宮大工・西岡常一棟梁の槍鉋。
すごいですね、この刃……
ヒゲが剃れちゃいそうです。
小川    縦に引くノコギリは、
室町時代にならないとできない。
その前は木をバーンと割ったから
削る面がデコボコで、
今の鉋(かんな)みたいでは削れないんだ。
斧でハツって、手斧でならして、
最後に槍鉋をかけた。

木に刃をつけて
削るようになるのは室町以降だ。
能率がいいから
槍鉋は使われなくなってしまったんだけれども、
室町以前の建物を修復する時には、
これでないといい削り肌が出ない。

 

鑿(ノミ)

ノミは現在も使われている大工道具です。

穴をあけたり、削ったり、ノコギリの代わりに材を切断したり、ヨキのように材を割ったりしました。ノミが果たした役割は、今よりもずっと大きかったようです。

 

鐔鑿(ツバノミ)

ツバノミは、釘を打つ位置にあらかじめ打ち込んで、ツバを叩いて抜き取ります。この穴に釘を入れて打ち付けます。

今では船大工が使うくらいですが、当時は必需品だったようです。

建てる

水ばかり

いわゆる水平器です。

上側に溝を掘った厚い板で、溝の部分に水を張って水平を求めます。

 

下げ振り

垂直を見るための道具です。

糸に重り(石)をつけて吊り下げます。

 

 

いかるがの里に立つ法隆寺を見て、つくづく思います。

よくもまあ、この程度の道具でこれほどのものが作れたものだと……。