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小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「LGBT理解増進法」とは何か⑤「障害者差別解消法」

「障害者差別解消法」 

 

差別禁止条項を含む類似名称の法律が存在します。

 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称「障害者差別解消法」)です。

 

法案は2013年4月26日に内閣が提出しました。

その後の経緯は、

4月26日:閣議決定、国会(第183回国会)提出。
5月29日:衆議院内閣委員会で可決。
5月31日:衆議院本会議で可決。
6月18日:参議院内閣委員会で。
6月19日:参議院本会議で全会一致で可決、成立。
6月26日:法律公布。
2016(平成28)年4月1日:法律施行。

 

LGBTや部落差別の法案は、「障害者差別解消法」の施行後のことです。人権課題の扱いをめぐるこのアンバランスに注目です。

 

「障害者差別解消法」には前段があります。

2006(平成18)年12月:国際連合で障害者権利条約が採択。
2009(平成21)年12月8日:障がい者制度改革推進本部が設置。
2011(平成23)年:改正障害者基本法が成立(第4条に障害者差別禁止規定が盛り込まれ、「解消法」は具体化したもの)。
2012(平成24)年9月14日:障害者政策委員会差別禁止部会が、差別禁止法への意見書をとりまとめた。

 

障害者基本法
(差別の禁止)
第四条 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない
2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。
3 国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

第一八三回

閣第六九号

   障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

目次

 第一章 総則(第一条-第五条)

 第二章 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(第六条)

 第三章 行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置(第七条-第十三条

 第四章 障害を理由とする差別を解消するための支援措置(第十四条-第二十条)

 第五章 雑則(第二十一条-第二十四条)

 第六章 罰則(第二十五条・第二十六条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

 二 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

 三 行政機関等 国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)第三章の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業を除く。第七号、第十条及び附則第四条第一項において同じ。)及び地方独立行政法人をいう。

 四 国の行政機関 次に掲げる機関をいう。

  イ 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関

  ロ 内閣府宮内庁並びに内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項及び第二項に規定する機関(これらの機関のうちニの政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)

  ハ 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関(ホの政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)

  ニ 内閣府設置法第三十九条及び第五十五条並びに宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項の機関並びに内閣府設置法第四十条及び第五十六条(宮内庁法第十八条第一項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの

  ホ 国家行政組織法第八条の二の施設等機関及び同法第八条の三の特別の機関で、政令で定めるもの

  ヘ 会計検査院

 五 独立行政法人等 次に掲げる法人をいう。

  イ 独立行政法人独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。ロにおいて同じ。)

  ロ 法律により直接に設立された法人、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人(独立行政法人を除く。)又は特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人のうち、政令で定めるもの

 六 地方独立行政法人 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人(同法第二十一条第三号に掲げる業務を行うものを除く。)をいう。

 七 事業者 商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)をいう。

 (国及び地方公共団体の責務)

第三条 国及び地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない。

 (国民の責務)

第四条 国民は、第一条に規定する社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない。

 (社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備)

第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

   第二章 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針

第六条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。

2 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する基本的な方向

 二 行政機関等が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項

 三 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項

 四 その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項

3 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

4 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、障害者政策委員会の意見を聴かなければならない。

5 内閣総理大臣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。

6 前三項の規定は、基本方針の変更について準用する。

   第三章 行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置

 (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)

第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

 (事業者における障害を理由とする差別の禁止)

第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

 (国等職員対応要領)

第九条 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、基本方針に即して、第七条に規定する事項に関し、当該国の行政機関及び独立行政法人等の職員が適切に対応するために必要な要領(以下この条及び附則第三条において「国等職員対応要領」という。)を定めるものとする。

2 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、国等職員対応要領を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。

3 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、国等職員対応要領を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。

4 前二項の規定は、国等職員対応要領の変更について準用する。

 (地方公共団体等職員対応要領)

第十条 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、基本方針に即して、第七条に規定する事項に関し、当該地方公共団体の機関及び地方独立行政法人の職員が適切に対応するために必要な要領(以下この条及び附則第四条において「地方公共団体等職員対応要領」という。)を定めるよう努めるものとする。

2 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、地方公共団体等職員対応要領を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

3 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、地方公共団体等職員対応要領を定めたときは、遅滞なく、これを公表するよう努めなければならない。

4 国は、地方公共団体の機関及び地方独立行政法人による地方公共団体等職員対応要領の作成に協力しなければならない。

5 前三項の規定は、地方公共団体等職員対応要領の変更について準用する。

 (事業者のための対応指針)

第十一条 主務大臣は、基本方針に即して、第八条に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めるものとする。

2 第九条第二項から第四項までの規定は、対応指針について準用する。

 (報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)

第十二条 主務大臣は、第八条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

 (事業主による措置に関する特例)

十三条 行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)の定めるところによる。

   第四章 障害を理由とする差別を解消するための支援措置

 (相談及び紛争の防止等のための体制の整備)

第十四条 国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする。

 (啓発活動)

第十五条 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、障害を理由とする差別の解消を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。

 (情報の収集、整理及び提供)

第十六条 国は、障害を理由とする差別を解消するための取組に資するよう、国内外における障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

 (障害者差別解消支援地域協議会)

第十七条 国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するもの(以下この項及び次条第二項において「関係機関」という。)は、当該地方公共団体の区域において関係機関が行う障害を理由とする差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「協議会」という。)を組織することができる。

2 前項の規定により協議会を組織する国及び地方公共団体の機関は、必要があると認めるときは、協議会に次に掲げる者を構成員として加えることができる。

 一 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他の団体

 二 学識経験者

 三 その他当該国及び地方公共団体の機関が必要と認める者

 (協議会の事務等)

第十八条 協議会は、前条第一項の目的を達するため、必要な情報を交換するとともに、障害者からの相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関する協議を行うものとする。

2 関係機関及び前条第二項の構成員(次項において「構成機関等」という。)は、前項の協議の結果に基づき、当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を行うものとする。

3 協議会は、第一項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるとき、又は構成機関等が行う相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関し他の構成機関等から要請があった場合において必要があると認めるときは、構成機関等に対し、相談を行った障害者及び差別に係る事案に関する情報の提供、意見の表明その他の必要な協力を求めることができる。

4 協議会の庶務は、協議会を構成する地方公共団体において処理する。

5 協議会が組織されたときは、当該地方公共団体は、内閣府令で定めるところにより、その旨を公表しなければならない。

 (秘密保持義務)

第十九条 協議会の事務に従事する者又は協議会の事務に従事していた者は、正当な理由なく、協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

 (協議会の定める事項)

第二十条 前三条に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、協議会が定める。

   第五章 雑則

 (主務大臣)

第二十一条 この法律における主務大臣は、対応指針の対象となる事業者の事業を所管する大臣又は国家公安委員会とする。

 (地方公共団体が処理する事務)

第二十二条 第十二条に規定する主務大臣の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、地方公共団体の長その他の執行機関が行うこととすることができる。

 (権限の委任)

第二十三条 この法律の規定により主務大臣の権限に属する事項は、政令で定めるところにより、その所属の職員に委任することができる。

 (政令への委任)

第二十四条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。

   第六章 罰則

第二十五条 第十九条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

第二十六条 第十二条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、平成二十八年四月一日から施行する。ただし、次条から附則第六条までの規定は、公布の日から施行する。

 (基本方針に関する経過措置)

第二条 政府は、この法律の施行前においても、第六条の規定の例により、基本方針を定めることができる。この場合において、内閣総理大臣は、この法律の施行前においても、同条の規定の例により、これを公表することができる。

2 前項の規定により定められた基本方針は、この法律の施行の日において第六条の規定により定められたものとみなす。

 (国等職員対応要領に関する経過措置)

第三条 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、この法律の施行前においても、第九条の規定の例により、国等職員対応要領を定め、これを公表することができる。

2 前項の規定により定められた国等職員対応要領は、この法律の施行の日において第九条の規定により定められたものとみなす。

 (地方公共団体等職員対応要領に関する経過措置)

第四条 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、この法律の施行前においても、第十条の規定の例により、地方公共団体等職員対応要領を定め、これを公表することができる。

2 前項の規定により定められた地方公共団体等職員対応要領は、この法律の施行の日において第十条の規定により定められたものとみなす。

 (対応指針に関する経過措置)

第五条 主務大臣は、この法律の施行前においても、第十一条の規定の例により、対応指針を定め、これを公表することができる。

2 前項の規定により定められた対応指針は、この法律の施行の日において第十一条の規定により定められたものとみなす。

 (政令への委任)

第六条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

 (検討)

第七条 政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、第八条第二項に規定する社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の在り方その他この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとする。

 (障害者基本法の一部改正)

第八条 障害者基本法の一部を次のように改正する。

  第三十二条第二項に次の一号を加える。

  四 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第▼▼▼号)の規定によりその権限に属させられた事項を処理すること。

 (内閣府設置法の一部改正)

第九条 内閣府設置法の一部を次のように改正する。

  第四条第三項第四十四号の次に次の一号を加える。

  四十四の二 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第▼▼▼号)第六条第一項に規定するものをいう。)の作成及び推進に関すること。


     理 由

 全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

 

障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」というのが差別禁止規定です。

これは、「LGBT差別解消法案」にあった「性的指向又は性自認を理由として、不当な差別的取扱いをしてはならない」と同じです。「LGBT差別解消法案」は先に成立していた「障害者差別解消法」に倣ったわけです。結果、「不当な」扱いを受けることになりますが…。

 

 

ここまで、3つの人権課題について、3つの法案とその扱いを見てきました。

差別禁止規定については、「障害」だけが含まれています。

差別は許されない」という文言(理念)は、「障害」と「部落差別」には含まれ、「LGBT」ではその扱いをめぐって紛糾しています。

「差別解消」をめざすのは「障害」と「部落差別」で、「LGBT」は「理解増進」にとどまる案です。

 

つまり、ほぼ同時期に扱われた3つの人権法案について、国会対応は一貫性を欠いています。

「障害」を100とすると(「障害者差別解消法」の評価については後に触れます)、「部落差別」は50程度、「LGBT」は10にも満たない内容です。

「部落差別」については、「部落解放基本法」を求める動きが1980年代からありました。自民党の一貫して「同対審答申」の精神を薄める方向に動き、その結果が差別禁止を含まない「解消法」となりました。

しかし、一方で、人権法に「差別は許されない」という文言を入れないことが自民党の方針としてあるわけではないことを、「障害」と「部落差別」の「解消法」は示しています。

 

それでは、「LGBT」で「差別は許されない」を入れたくない「特別な」理由は何なのでしょう。

それは、いま俎上に上がっている「LGBT理解増進法案」そのものにはありません。

「理解増進」なんて、法律があってもなくても当たり前のことです。それをわざわざ法律にするのは、「解消法」を潰すことが目的ではないかと穿った見方さえしたくなります。

「理解増進法」に「差別は許されない」という言葉が入ると、将来的に「理解」から「解消」に向かう余地が生じます。

「解消」には、同性婚夫婦別姓といった保守派の人たちからすると譲ることのできない課題をクリアする必要があります。

世論調査などで明らかなように、同性婚夫婦別姓(選択的も含む)への国民的理解は相当進んでいます。国民的議論となれば、認めざるを得ないところまで来ていると言えます。「阻止」するには議論を俎上にのせないこと、というところまで追い込まれているのかもしれません。

反対言動の本質はそんなところにあると私は感じています。

 

 

「障害者差別解消法」に関して、名城大学・植木淳氏の「参考人提出資料」(三重県)を紹介します。

障害者差別解消法 ― 意義と課題
名城大学 植木淳

 

Ⅰ.障害差別禁止とは何か?


1.社会モデル
(1)個人モデル … その人自身の心身の機能障害が「障害」の原因であると考えて、予防・治療・リハビリテーションの対象とする
(2)社会モデル … その人自身の心身の機能障害だけが「障害」の原因ではなく、障害のない人を基準にして形成される社会構造によって「障害」が形成されるものと捉える
機能障害(impairment) → 社会的障壁 → 障害(disability)

 

2.「障害のあるアメリカ人に関する法律」(ADA)(1990 年)
(1)障害差別禁止の構造
 ①差別禁止の対象分野
 ⅰ)雇用差別(第1編) … 使用者による差別禁止
ⅱ)公的機関による差別(第2編) … 州・地方自治体による差別禁止
ⅲ)公共施設における差別(第3編) … 民間事業者の差別禁止
 ②差別禁止の枠組
 ※「資格を有する障害のある個人」 → 「障害」を理由とする不利益を禁止
 「資格」 … 当該社会活動の本質的機能を遂行することができる
ⅰ)直接差別の禁止 → 障害を理由とする差別の禁止
 … 「正当な理由」がある場合には違法にならない(ex. 直
接の危険)
ⅱ)間接差別の禁止 → 表面上は障害を理由とする差別ではないが、障害のある人に不利益な効果を有する行為の禁止
 … 「正当な理由」がある場合には違法にならない(ex. 業務関連性)
ⅲ)合理的配慮の提供義務 → 障害のある人の参加のために必要な措置
 … 「過重な負担」「本質的変更」になる場合には提供義務
を免れる
 ex. PGA v. Martin 判決 … 足が不自由なゴルフプレーヤーに対して、本選ラウンドでカートの使用を認めない規定の合法性
(2)障害差別禁止法の実績 ― ADA訴訟と行政救済
 ①ADAに関する裁判例の展開
 ・「雇用」 → 障害のある労働者に不利な判断がされる傾向にある
 ・「公的機関」「公共施設」 → 障害のある原告に好意的な裁判例がある
ⅰ)HIV感染者が歯科医から治療拒否を受けたことが違法とされた
ⅱ)麻薬中毒患者のためのリハビリテーション施設の建設不許可が違法とされた
ⅲ)ワイン工場の見学ツアーに介助犬を同伴できないことが違法とされた
ⅳ)障害で進学が遅れた生徒が年齢制限で試合出場できないことが違法とされた
ⅴ)障害のある被疑者を配慮なく移送して転倒させたことが違法とされた
ⅵ)歩行困難なゴルフプレーヤーがカートを利用できないことが違法とされた
 ②行政機関による救済の枠組
・「雇用」 … 雇用機会均等委員会に対する不服申立のうち 20%程度で何らかの救済合意が成立している(1年間4000 件程度)
 ・「公的機関」「公共施設」 … 司法省に対する不服申立によって、5年間で690件程度の救済合意が成立している

 

3.「障害差別禁止法」の拡大
(1)障害差別禁止法の拡大
 → EU・イギリス・フランス・ドイツ・韓国における障害差別禁止法制
(2)障害者権利条約(2006 年)
「障害を理由とするあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な法的保護を障害者に保障する」。「平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するためのすべての適当な措置をとる」(5条)
 → 「直接差別の禁止」「間接差別の禁止」「合理的配慮の提供義務」

 


Ⅱ.障害者差別解消法


1.法律制定に至る経緯
(1)障害者権利条約の署名(2007 年) → 障がい者制度改革推進会議(2009年)
→ 障害者政策委員会(2011 年)
(2)障害者基本法の改正(2011 年)
「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」(4条1項)
「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」(4条2項)
(3)障害者政策委員会差別禁止部会の意見(2012 年)
①総論 … ⅰ)不均等待遇の禁止(直接差別・間接差別・関連差別)
ⅱ)合理的配慮の提供義務
※「過重の負担」の場合は提供義務を免れる
②各論 … ⅰ)公共的施設・交通機関、ⅱ)②情報・コミュニケーション、ⅲ)
商品・役務・不動産、ⅳ)医療、ⅴ)教育、ⅵ)雇用、ⅶ)国家資格、Ⅷ)家族形成、ⅸ)政治参加、Ⅹ)司法手続
③救済手続 … ⅰ)行政救済 … 自主的紛争解決 → 調停・斡旋・仲裁
ⅱ)司法救済 … 裁判規範性 → 民法90 条・709 条
 → 2013 年6月 自民・民主・公明の三党合意に基づいて法制化へ


2.障害者差別解消法(2013 年制定→2016 年施行)
(1)目的 … 「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ…障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする」(1条)
(2)障害の定義 …「身体障害、知的障害、精神障害発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける
状態にあるもの」(2条1号)
(3)差別禁止規範の内容
 ①行政機関 … 「行政機関等は…障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」
 … 「行政機関等は、…障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは…社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」
 → 「不当な差別的取扱の禁止」と「合理的配慮」が法的義務
②民間事業者 … 「事業者は…障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」
「事業者は…障害者から現に社会的障壁の除去を必要と している旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、…社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」
 → 「不当な差別的取扱の禁止」は法的義務/「合理的配慮」は努力義務
 ③雇用差別(改正障害者雇用促進法
ⅰ)募集採用 … 「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない」(34 条)。
 … 「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りではない」。
 ⅱ)採用後 … 「事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない」(35 条)
 … 「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない」(36 条の3)。
→ ①募集・採用における「均等な機会」の保障、②労働者に対する「不当な差別的取扱の禁止」と「必要な措置の提供」(合理的配慮)が規定された。
(4)法律の実効性確保
①基本方針(内閣) → ⅰ)障害差別解消推進施策の基本的方向→ ⅱ)行政機関/事業者の講ずべき障害差別解消措置
②対応要領(国・地方公共団体の行動指針) … 各省大臣・自治体が定める。
③対応指針(民間事業者の行動指針) … 各事業の所管大臣が定める
(5)実施体制
 ①相談・紛争防止
「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする」。
 ②障害者差別解消支援地域協議会
「国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するものは、当該地方公共団体の区域において関係機関が行う障害を理由とする差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会を組織することができる」。


3.障害者差別解消法の課題

(1)法律の名称 … 「差別」の「禁止」ではなく「解消」
(2)「各論」の不存在 … 対応要領・対応指針による具体化の必要性
(3)不当な差別的取扱 … 「間接差別」が含まれるか?
(4)民間事業者の合理的配慮 … 差別的取扱の禁止との整合性
(5)行政救済手続 … 実効的救済手段の必要性