教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「LGBT理解増進法」とは何か④「部落差別解消推進法」 

「部落差別解消推進法」 

 

民進、共産、生活、社民の4党が「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(通称「LGBT差別解消法案」)を提出したのは、2016年5月27日です。

 

LGBT差別解消法案」が提出される直前の2016年5月19日に提出された議案があります。

議案提出者    二階 俊博君外八名
議案提出会派    自由民主党; 民進党・無所属クラブ; 公明党

法案の名称は、「部落差別の解消の推進に関する法律案」(通称「部落差別解消推進法案」)といいます。

 

第190回国会に提出された2つの法案。提出時期もほぼ同じ、法案の名称もほとんど同じ。

LGBT差別解消法案」の運命は、前回述べました。

「部落差別解消推進法案」は、 2016年12月9日に成立 し、同年12月16日に公布されました。

 

「部落差別解消推進法案」は次のようなものです。

 

●部落差別の解消の推進に関する法律案

第一九〇回

衆第四八号

   部落差別の解消の推進に関する法律案

 (目的)

第一条 この法律は、現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じていることを踏まえ、全ての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念にのっとり、部落差別は許されないものであるとの認識の下にこれを解消することが重要な課題であることに鑑み、部落差別の解消に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、相談体制の充実等について定めることにより、部落差別の解消を推進し、もって部落差別のない社会を実現することを目的とする

 (基本理念)

第二条 部落差別の解消に関する施策は、全ての国民が等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、部落差別を解消する必要性に対する国民一人一人の理解を深めるよう努めることにより、部落差別のない社会を実現することを旨として、行われなければならない。

 (国及び地方公共団体の責務)

第三条 国は、前条の基本理念にのっとり、部落差別の解消に関する施策を講ずるとともに、地方公共団体が講ずる部落差別の解消に関する施策を推進するために必要な情報の提供、指導及び助言を行う責務を有する。

2 地方公共団体は、前条の基本理念にのっとり、部落差別の解消に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする。

 (相談体制の充実)

第四条 国は、部落差別に関する相談に的確に応ずるための体制の充実を図るものとする。

2 地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、その地域の実情に応じ、部落差別に関する相談に的確に応ずるための体制の充実を図るよう努めるものとする。

 (教育及び啓発)

第五条 国は、部落差別を解消するため、必要な教育及び啓発を行うものとする。

2 地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、その地域の実情に応じ、部落差別を解消するため、必要な教育及び啓発を行うよう努めるものとする。

 (部落差別の実態に係る調査)

第六条 国は、部落差別の解消に関する施策の実施に資するため、地方公共団体の協力を得て、部落差別の実態に係る調査を行うものとする。

   附 則

 この法律は、公布の日から施行する。


     理 由

 現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じていることを踏まえ、全ての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念にのっとり、部落差別は許されないものであるとの認識の下にこれを解消することが重要な課題であることに鑑み、部落差別の解消を推進し、もって部落差別のない社会を実現するため、部落差別の解消に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、相談体制の充実等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

 

注目したいのは、法案の「目的」の文言です。

部落差別は許されないものであるとの認識の下にこれを解消することが重要な課題であることに鑑み、部落差別の解消に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、相談体制の充実等について定めることにより、部落差別の解消を推進し、もって部落差別のない社会を実現することを目的とする

 

「LGBT理解増進法案」をめぐって与野党が合意した「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に」と全く同じ表現が使われています。

しかし、「部落差別解消推進法案」の際に西田昌司議員が「差別の禁止や法的な措置を強化すると人権侵害など逆の問題が出てくる社会が分断される」と主張したという記録はありません。高市早苗議員が「文言について十分な調整が必要だ」と主張したという記録もありません。何と言っても当時の幹事長である二階俊博議員が法案提出者です。

 

部落差別については「差別は許されない」といっても「逆差別」や「社会の分断」は起きないのに、LGBTの問題では「逆差別」や「社会の分断」が起きるというのは矛盾しています。

 

性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に」という合意文言が登場する5年も前に、自民党議員も提出者に名を連ねた「差別は許されないものであるとの認識の下に」という文言を含む法律が成立していました。

今回はこの事実を示すにとどめます。

 

 

一点、「部落差別解消推進法案」の評価に触れておきたいと思います。

『人権問題研究所紀要』
部落差別解消法施行の意義と今後の課題
―相談体制、教育・啓発、実態調査推進のために―
近畿大学人権問題研究所教授 北 口 末 広

 

最重要課題は部落差別解消法の具体化
部落差別解消法では、「答申」で示された「差別に対する法的規制」、「差別から保護するための必要な立法措置」、「司法的に救済する道を拡大すること」は実現していない。それらの点をさらに追求していく必要があることを付言して筆を置きたい。

 

「部落差別解消推進法」施行4年の現状と課題
部落解放同盟中央本部
書記長 西島 藤彦


(2)「部落差別解消推進法」の具体化にむけた課題
③部落解放・人権行政の推進にむけて
※それぞれの法律の問題点を共有し、差別禁止を含む包括的な人権の法制度にむけて協働の取り組みをすすめる
        ↓
◇人権侵害救済制度、国内人権委員会の設置へ

 

北口、西島の両氏が触れられているように、「部落差別解消推進法」には「差別禁止」の条項がありません。そのため、「差別解消」の取り組みは「啓発」の域を出ません。その意味では「理解増進」と五十歩百歩です。

「部落差別解消推進法」を実効あるものにするには、「差別に対する法的規制」、「差別から保護するための必要な立法措置」、「司法的に救済する道を拡大すること」が必要です。