教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

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「LGBT理解増進法」とは何か②「LGBT理解増進法案」

「LGBT理解増進法案」

 

性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に」という文言の扱いが焦点となっている「LGBT理解増進法案」(正式名称は「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律案」)とは次のようなものです。

 

性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案

(目的)
第一条 この法律は、全ての国民が、その性的指向又は性自認にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向及び性自認の多様性を受け入れる精神を涵養し、もって性的指向及び性自認の多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において「性的指向」とは、恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向をいう。
2 この法律において「性自認」とは、自己の属する性別についての認識に関する性同一性の有無又は程度に係る意識をいう。

(基本理念)
第三条 性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策は、全ての国民が、その性的指向又は性自認にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならない。

(国の役割)
第四条 国は、前条に定める基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。

(地方公共団体の役割)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。

(事業主の努力)
第六条 事業主は、基本理念にのっとり、性的指向及び性自認の多様性に関するその雇用する労働者の理解の増進に関し、普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及び性自認の多様性に関する当該労働者の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。

(学校の設置者の努力)
第七条 学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、幼稚園及び特別支援学校の幼稚部を除く。以下同じ。)の設置者は、基本理念にのっとり、性的指向及び性自認の多様性に関するその設置する学校の児童、生徒又は学生(以下「児童等」という。)の理解の増進に関し、教育又は啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及び性自認の多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。

(施策の実施の状況の公表)
第八条 政府は、毎年一回、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の実施の状況を公表しなければならない。

(基本計画)
第九条 政府は、基本理念にのっとり、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画(以下この条において「基本計画」という。)を策定しなければならない。
2 基本計画は、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解を増進するための基本的な事項その他必要な事項について定めるものとする。
3 内閣総理大臣は、基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本計画を公表しなければならない。
5 内閣総理大臣は、基本計画の案を作成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、
資料の提出その他必要な協力を求めることができる。
6 政府は、性的指向及び性自認の多様性をめぐる情勢の変化を勘案し、並びに性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね三年ごとに、基本計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。
7 第三項から第五項までの規定は、基本計画の変更について準用する。

(調査研究)
第十条 国は、性的指向及び性自認の多様性に関する調査研究その他の性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の策定に必要な調査研究を推進するものとする。

(知識の着実な普及等)
第十一条 国及び地方公共団体は、前条の調査研究の進捗状況を踏まえつつ、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、国民が、性的指向及び性自認の多様性に関する理解を深めることができるよう、心身の発達に応じた教育及び学習の振興並びに広報活動等を通じた性的指向及び性自認の多様性に関する知識の着実な普及のために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
2 事業主は、その雇用する労働者に対し、性的指向及び性自認の多様性に関する理解を深めるための情報の提供、研修の実施、普及啓発その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
3 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校の児童等に対し、性的指向及び性自認の多様性に関する理解を深めるための教育又は啓発その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

(相談体制の整備等)
第十二条 国及び地方公共団体は、性的指向及び性自認の多様性に関する各般の問題に関する相談に的確に応ずるため、相談体制の整備その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
2 事業主は、性的指向及び性自認の多様性に関する理解の増進に資するよう、その雇用する労働者の就業環境に関し、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備するよう努めるものとする。
3 学校の設置者は、性的指向及び性自認の多様性に関する理解の増進に資するよう、その設置する学校の児童等の教育環境に関し、当該児童等又はその保護者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備するよう努めるものとする。

(民間の団体等の自発的な活動の促進)
十三条 国及び地方公共団体は、事業者、国民又はこれらの者の組織する民間の団体が自発的に行う性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する活動が促進されるよう、必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

(性的指向性自認理解増進連絡会議)
第十四条 政府は、内閣官房内閣府総務省法務省、外務省、文部科学省厚生労働省国土交通省その他の関係行政機関の職員をもって構成する性的指向性自認理解増進連絡会議を設け、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の総合的かつ効果的な推進を図るための連絡調整を行うものとする。

附則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。
(検討)
第二条 この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
(内閣府設置法の一部改正)
第三条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
第四条第三項第四十六号の次に次の一号を加える。
四十六の二性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画(性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和三年法律第   号)第九条第項に規定するものをいう。)の策定及び推進に関すること。

 

「第一条」に記されたこの法律の「目的」を見ます。

(目的)
第一条 この法律は、全ての国民が、その性的指向又は性自認にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に、性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向及び性自認の多様性を受け入れる精神を涵養し、もって性的指向及び性自認の多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。

 

法律のめざすところは、LGBTを「受け入れる精神を涵養」であり、LGBTに「寛容な社会の実現」です。それが、法案名「理解増進」の具体ということになります。

 

そうした「目的」を達成するための施策が「第四条」以下に述べられています。

それらはすべて、「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解」が進むように施策(措置、整備)に努めるというものです。

 

 

性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に」という文言のあるなしは、ひとまず置きましょう。

 

さて、この法案でLGBTの人たちが不利益を被らない社会の実現は可能でしょうか。

 

自民党杉田水脈議員は、2018年、月刊誌「新潮45」への寄稿で「彼ら彼女ら(LGBTQなどの性的少数者)は子供を作らない、つまり生産性がない」と記しました。

杉田議員は総務政務官であった2022年12月2日の参院予算委員会で、発言の一部を撤回し、当事者らに謝罪すると表明しました。ただ、それらが差別発言かどうかを問われても「それも含めてしっかり精査して対応したい」と述べるにとどめ、認めていません。

 

荒井勝喜総理大臣秘書官は、「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ。人権や価値観は尊重するが、認めたら、国を捨てる人が出てくる」と発言しました。

これはオフレコ発言でした。

オフレコ発言というのは「政府関係者」とか「○○党幹部」と表記される、実名を公表しない発言です。今回の場合はマスコミが「人権意識を著しく欠き、報じる公益性がある」と判断して実名報道しました。

それが、即刻更迭につながったと言えます。

 

つまり、「理解増進」は当然必要なのですが、現にある差別に対して有効に働くかという問題意識です。

 

私はこの法案では全く不十分だと思うし、「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に」が入ったとしてもその評価は変わりません。

 

 

自民党がこの「LGBT理解増進法案」を作り、超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」が組織されて協議に至ったのには、背景があります。

次回は、法案の「背景」に触れます。