教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

続・「1ヶ月で勝負」したクラスの記録 ~いのちかがやいて~⑰

2006年2月21日、小学校生活最後の授業参観がありました。

5時間目の参観では、完成した映画「きらきら ~いのちかがやいて~」の上映会をします。

 

その日の午前、子どもたちに学級通信を渡しました。

 

「きらきら~いのち、かがやいて~」とは…


 10月6日、映画作りが始まるとき、「きらきら」№90に「タイトルと主題歌にはそこに込めたぼくの強い思いがある」「映画は、凧作りの場面で始まり、学級会のシーンがあって、メインの『しばてん』のあと、連凧を揚げている場面で終わります。一見バラバラに見える各場面が、一本の糸でつながったとき、この映画のテーマが浮かび上がってくる」と書きました。今回はその続編です。


 12月中頃、「友だちって何だ」に対する考えや「しばてん」と出合って学んだことを書いたとき、映画のタイトルの意味についても書いた人がいました。まず、それを紹介しましょう。


■「きらきら~いのち、かがやいて~」は、どういう意味か■


○みんなが一つになることだと思う。(IO)
○一人一人がみんなと力を合わせて一生懸命がんばって自分らしさを発揮すること。(I)
○一人一人がかがやくということ。(UN)…NOくん、NGくんもほぼ同じ。
○みんな一人一人の命はきらきら輝いている。輝いていない命なんてない。みんなきらきら輝いている大切な命という意味。(KZ)
○だれでも人の命は輝いている、誰かの役に立てたということ。(KT)
○きらきら輝きながら一生懸命生きていこうということ。(KB)
○自分の命も人の命も大切にするということ。(KD)
○25人全員がきらきらと命、心などいろいろな部分が輝いていて、一人一人のとてもいい個性がある。だから輝いているという意味。(SG)
○自分の道をつき進むことによって輝くのだと思う。人のまねをすれば、それは自分の思いじゃないし、自分の道じゃない。生きる上で、自分のしたいことを堂々とやることだと思う。人の苦しみや悲しみを知り、自分を輝かせることで、命も輝くのだと私は思う。(SM)
○一人一人が今頑張っていることが、一人一人の「いのち」が輝いているということだと思う。映画作りも、一人一人のがんばりがなければここまで進めなかった。映画作りにみんなで頑張っていること、それが今の私たちの「いのちかがやいて」だと思う。(TN)
○一人一人が輝けばそれで十分だということ。(TB)
○みんなの心が一つになって、みんなが輝くということ。(MO)


♥人は、人とつながりあうことで命の輝きを増す♥
 ずっと以前、きみたちが3年生になった日の「きらきら」第1号に「24人の一人ひとりのひとみが、きらきらとかがやいていればいいなあと思います」と書きました。これが通信のタイトルの由来です。「ひとみ」の部分を「いのち」に置き換えると、そのまま映画のタイトルになります。「ひとみ」が輝く、「いのち」が輝くというのは、その人の持っている力(個性と言ってもいい)を存分に発揮して、その人らしく生きるということです。まさに、「かけがえのない生命」なのです。ところが現実の社会は、さまざまな問題や悩みが渦巻いていて、自分らしく輝いて生きるというのは難しいことです。それを踏まえた上で、学校やクラスが一人ひとりが輝く場所であってほしいと思います。これがタイトルに込めた思いの半分です。


 連凧を作って揚げました。6年生の始業式の日、「一人ひとりが力を出し合って、『いろんなかがやき方をしている凧が、一つにまとまって大空に舞う』連凧のようなクラスにしましょう。」と呼びかけた時から、きみたちに連凧の感動をあげたいとずっと思っていました。連凧はクラスの仲間のようなものだと、常々考えています。一人ひとりが作った凧は、それぞれによく揚がる凧ではありましたが、1枚ではあの感動は味わえません。運動会で三重の塔が上がった時の感動と同じ感動です。全校集会で精一杯の歌声を作ったときの満足感と同じ満足感です。一生懸命な自分のとなりに一生懸命な仲間がいるとき、何倍ものパワーが発揮できる--それが連凧の魅力です。そのことを、「人は、人とつながりあうことで命の輝きを増す」という言葉で、映画のおしまいに書きました。これがタイトルに込めた思いのもう半分です。


 HMくんの「友だちって何だ」という問いかけから、映画は始まりました。そして、「しばてん」を演じ終えて出した答えが、映画の最後に出てくるテロップです。「助け合う」「支え合う」「信じる」という言葉が数多く見られました。それらはみな、人とつながって生きている具体的な姿です。この問いには「正解」はありませんが、きみたちはかけがえのない命の輝きを手にしたと確信しています。 

              『きらきら』№151(2006.2.21)

 

 

そして迎えた最後の授業参観での映画上映会。

 

  2月21日  きらきら映画会
 2月21日、ついに六年生が作り上げた「しばてん」の映画会が行われた。寒い日も頑張ったみんなの演技を見られるということもあって、私はこの日がとても楽しみだった。5時間目、パソコン室に集まり、親の人たちも一緒に映画を見た。連凧を作っている場面から始まり、しばてんの物語になった。みんなで頑張ってきたから、見たときは、「あの時、みんなと一緒になって頑張ってきたからこそ、『友だちってなんだ』について深く考えることができたんだな。」と思った。最後らへんで、いっせいにあがる連凧が映っていた。寒いのも忘れて、とても嬉しかった。映画を見ると、今まで体験してきた全てのことが自分のためになったと、私は思う。クラスの一人ひとりが助けてもらったり、支え合ったりしたことは、すごいこと、進歩だと思った。卒業まであと少し、自分のために、みんなのために、最高の6年生で卒業したい。

  2月21日  ついに完成
 「では、はじめまあす。」今日の参観は、「きらきら~いのち、かがやいて~」の映画上映会だった。私は、この日をとても楽しみに待っていたのだ。いよいよ始まった。最初に連凧を作っているシーンが映った。ついこの間のように思うのだが、それは2学期だし、去年だ。なんだか変な感じになった。そして、待ちに待ったメインの「しばてん」だ。いろんな所で、ちがう日に撮ったシーンがしっかりとつながっていた。音楽もついていて、迫力があった。その後の連凧があがるところも感動した。生で見た方が迫力もあったし、感動もしたけど、それをもう一度見るとやっぱり感動した。「きらきら~いのち、かがやいて~」を見て、改めて仲間の大切さ、命の大切さ、信じることの大切さが分かった。とてもすばらしい映画になっていた。この映画作りをやって、本当によかったと思う。しかし、このメンバーで小学校生活をやっていられるのも、あと少ししかない。こんないい思い出ができ、今までに感じたことのないぐらいクラスが明るくなってきているのに、もうこのメンバーでこんなことをするのはないんだと思った。そう思うと、なんだかさみしくなってきた。中学校入学は、未来へふみ出す第1歩だ。でも、このメンバーで活動することは残り少ないのだと思うと、さみしくて、その1歩をふみ出したくないような気もする。なんだかすごく複雑な気持ちだ。あと残っている大きな行事は、6年生が送られる会と卒業式しかない。だけど、卒業までの1日1一日を大切に、心のアルバムに残しながら、楽しく過ごしていきたい。


 参観した家の方もメッセージを寄せてくださいました。

■シリアスあり、笑いあり、じーんとくる場面あり、とても素敵な映画でした。編集のすごさも光っていました。胸にじっとくるシーンがいくつもありました。最後の連凧をバックに一人ひとりの言葉が流れるシーンでは、思わず涙がポロリ。友だちについて、みんなしっかり自分の思いを持つことが出来たこと、素敵な宝物になったと思います。


■「しばてん」を見せていただき、とても感動しました。学級通信で制作途中の内容を聞かせてもらっていたので、頑張って作り上げた映画は本当に立派なものでした。子どもたちの一生懸命さと成長を感じて、何度か目が潤む場面もありました。全員で作った連凧が風とともに舞い上がる姿は、今のクラスのように思いました。これからも友だちを大切にし、太郎のように思いやる心を忘れず歩んでいってほしいと思います。


■映画を観て、涙があふれて止まりませんでした。すごく感動しました。それは、先生の映画の構成や挿入歌の相乗効果もあったのでしょうが、これほど身近であり、分かっているようで難しい問題に取り組むことができた子どもたちには拍手を贈りたいです。最初はぎこちなかったセリフも、後半では役になりきって言えてましたね。友だちを見つめることができたと思います。貴重な体験をありがとうございました。これから一つ上の階段を上り、本当の友だちを自分の目で見つけ、一緒に笑って泣いて、時にはぶつかり、かけがえのないものを育ててほしいです。自分の心、そして人の心を大切にできればと思います。


■「しばてん」を拝見して、その出来栄えに感心しました。何回も練習したであろう少々照れながらのセリフ、場面ごとのBGM、先生と子どもたちのたいへんな努力のあとが見えました。この作品を通して人間の身勝手さ、優しさ、後悔など、人として大切なものをいくつも学んでくれたと思います。また、みんなの気持ちが一つになってこそ連凧が力強く空に舞い上がることも、忘れないでほしいです。

 

演じることで子どもは育ったのだと思います。

しかし、100点の瞬間はあったとしても、100点の日常はありません。集団づくりの命題に100点の答えなどあり得ないのです。

課題を残しつつも、個々の子どもも集団も格段に輝きを増したと総括したいと思います。

 

 

卒業前、子どもは書きました。

 

  楽しかった、それとありがとう
 私は、6年生になってから今までの約1年間で、このクラスはかなり変わったと思う。しばてんの映画制作や、連凧を作って揚げたり。みんなでいろいろなことをしたり、かべにぶつかったりするたびに、この25人は結束力が強くなっていったと思う。それは先生のおかげでもあるが、やっぱりみんなが、「変わろう。」そう思い、実行しようとしたから、1年間でこんなに変われたんだと思う。最後になったが、■■小学校の6年生24人のみんな。6年間、楽しいときをありがとう。そして、中学校へ行ってもよろしく。

  1年間の思い出
 6年生になって1年がすぎた。この1年間にはいろいろな出来事があった。その中で、連凧、映画、壁画が心の中に残っている。初雪の朝グランドに行って揚げた100枚の連凧、感動した。次はしばてんの映画制作だ。壁画には一人一人の絵が描いてある。連凧も映画も壁画も、みんなの心が一つになったと思えるものだ。卒業まであと少しなので、残りの小学校生活をがんばりたい。 

 

「みんなが、『変わろう。』そう思い、実行しようとしたから、1年間でこんなに変われたんだと思う」と言い切りました。これでよかったのだと思います。

 

3月20日、卒業式。

子どもたちは「よびかけ」で胸を張ってこう語りかけました。

なかまの大切さと命の尊さを学んだ
「しばてん」の映画制作
自分の役を精一杯演じることで
人の心の温かさと

一緒にいる楽しさが分かりました
初雪の朝、大空に舞い上がった
100枚の連凧
風を受けて揚がった瞬間
感動で涙が出そうになりました
みんなの心が一つになった
私たちの宝物です

連凧
一つひとつがしっかりと独立した凧です
連凧
独立した凧が1本の糸でつながった凧です
ぼくたちは
一人ひとりが大きなしっかりとした凧になりました
私たちは
みんなで力を合わせて
大空に舞うきれいな連凧になりました
たくさんの思い出と
多くの方々への感謝を胸に

ぼくたち
私たちは
旅立とうとしています

 

続きは、一人ひとりの子どもが次のステージで自らの生き方として演じてくれるに違いありません。

 

あれから15年。

子どもたちは、ことし27歳になります。もう立派な「おとな」です。一人の「凧」として、新たな「連凧」を紡いでいるでしょうか。

見上げる夏空は青く、灼熱の太陽が照りつけていました。