7月3日(その2)
クライネ・シャイデックを8時前に発車するユングフラウ鉄道の初発電車に乗り、ユングフラウヨッホをめざします。
ユングフラウ鉄道は、1895年に工事が始まり1912年に開通しています。
全長9.3kmのうち7.1kmがトンネルです。アイガーとメンヒの固い岩盤を掘削し、標高3454mのヨッホ駅に通じています。しかも、当初から電車(蒸気機関車ではありません)でした。
ちょっと鉄道の蘊蓄を…。
登山電車は歯車式の滑り止め装置を使っていますが、これをラックレール式鉄道といいます。日本では普通アプト式鉄道と言いますが、これは厳密というと正しくありません。
ラックレール式鉄道には幾つかの種類があって、その1つにアプト式があります。アプト式は位相の違う2、3枚の板状のラックレールを使っています。4日に乗車するゴルナーグラード鉄道がこの方式を採っています。
レールの形をした鋼材に歯をつけたラックルールが1つのものは、シュトループ式(またはシュトルプ式)と言います。ラウターブルンネン~クライネ・シャイデック~グリンデルワルトのヴェンゲルアルプ鉄道や、このユングフラウ鉄道は、シュトループ式を採用しています(朝の散策で撮った鉄路写真にが見えます)。
歯が少しずつずらして2、3列並んでいるアプト式の方が歯車が確実に噛み合います。
さて、アイガーグレッチャー駅を過ぎると間もなく電車はトンネルに入ります。
トンネルの途中に2回停車する駅があります。最初がアイガーヴァント駅(2865m、“アイガーの壁”の意)で、アイガー北壁のど真ん中にあります。停車時間は5分で、覗き窓からの眺望を楽しむことができます。なお、この覗き窓は、トンネル工事の際に土を捨てた穴です。そう言えば、立山の室堂から黒四の発電所に通じる関電トンネルにも同様の“窓”があって、そこから劔岳が見えます。
次の停車駅アイスメーア(3160m、“氷の海”の意)は、ちょうど山の向こう側になります。ユングフラウ連山の南側が見え、足元にフィッシャー氷河があります。正面左の嶺はシュレックホルン(4078m)のようです。
クライネ・シャイデックから52分で、標高3454m、「トップ・オブ・ヨーロッパ」ユングフラウヨッホ駅に到着。
地下駅は大きなビルになっていて、その外れからエレベーターで上がると標高3571mのスフィンクス展望台です。展望台には屋内テラスと屋外バルコニーがあり、さらに「プラトー」と呼ばれる万年雪のテラスに出ることもできます。
ヨッホとは山のピークとピークの間の鞍部を意味する語で、展望台はメンヒとユングフラウを結ぶ稜線の鞍部に位置します。
初発電車で上がってきたのですから、その乗客以外に人はいません。西にユングフラウ、東にメンヒの眺望を独り占めの気分。これもクライネ・シャイデック宿泊の賜物です。
万年雪のテラスから南にアレッチ氷河が流れ出しています。
アレッチ氷河はヨーロッパ最長の氷河で、約22kmある。氷の厚さは約1000mといいます。2001年に世界自然遺産に登録されています。
眼前に広がる光景に圧倒されます。
ところで、スイスには120余りの氷河がありますが、来るたびに氷河が痩せ細っていると、添乗員さんもIさんも口を揃えて言っておられました。
ついでながら、ヨッホのビルには「氷の宮殿」という氷河のトンネルがあって、氷像のギャラリーがあったりします。不思議な空間ではありますが、氷河の中にいるという実感は持てません。
2階のレストランでホットコーヒーをオーダーし、アレッチ氷河を眺めながら集合までの時間を過ごしました。なんとも贅沢な刻が流れていきます。
11時発の下り電車に乗り、終点の手前アイガーグレッチャー駅で降りました。