小学校3・4年生の教科書に登場することわざの第25回は「良薬は口に苦し」です。
良薬は口に苦し
「良薬は口に苦し」の読み方
りょうやくはくちににがし
「良薬は口に苦し」の意味
病気によくきく薬は苦くて飲みにくい。身のためになる忠言が聞きづらいことにいう。(広辞苑)
「良薬は口に苦し」の使い方
人間は口癖の様に良薬口に苦しと言って風邪抔(など)をひくと、顔をしかめて変なものを飲む。飲むから癒(なお)るのか、癒るのに飲むのか、今迄疑問であったが丁度いい幸だ。(夏目漱石『吾輩は猫である』1905~06年)
「良薬は口に苦し」の語源・由来
「良薬は口に苦し」の出典は、『孔子家語』六本 です。
『孔子家語(こうしけご)』は、『論語』に漏れた孔子一門の説話を蒐集したとされる古書で全10巻。
孔子曰、良藥苦於口、而利於病。
忠言逆於耳、而利於行。
湯・武以諤諤而昌、桀・紂以唯唯而亡。
【読み下し文】
孔子曰く、良薬は口に苦けれども、病(やまい)に利(り)あり。
忠言(ちゅうげん)は耳に逆(さか)らえども、行(おこな)いに利(り)あり。
湯(とう)・武(ぶ)は諤諤(がくがく)を以(もっ)て昌(さか)え、桀(けつ)・紂(ちゅう)は唯唯(いい)を以(もっ)て亡(ほろ)びたり。
【現代語訳】
孔子が言った、良い薬は口には苦いが病気にはよく効く、
忠告の言葉は耳に痛いが行いを正すのにはよく効く。
殷の湯王と周の武王は喧々諤々(けんけんがくがく)と王に忠告する臣下がいたから栄え、夏の桀王と殷の紂王は唯々諾々(いいだくだく)と王にへつらう臣下ばかりがいたから滅んでしまった。
「良薬は口に苦し」の蘊蓄
なぜ「薬は苦い」?
高崎健康福祉大学教授・森哲哉さんは、「苦い薬との上手な付き合い方」の中で次のように述べています。
なぜ薬は苦いのでしょうか。苦い成分の特徴として、水に溶けにくい性質が挙げられます。そして薬がよく効くためには、小腸で吸収されることが必要なのですが、水に溶けにくい方が吸収されやすいのです。「良薬は口に苦し」ということわざは、実は科学的にも裏付けがあることなのです。
また、元製薬企業研究者でサイエンスライターの佐藤健太郎は、「薬はなぜ苦いのか?」の中でこう書いています。
苦味という感覚がなぜ発達したかといえば、毒に対する危険信号であったと考えられます。自然界で代表的な毒といえばアルカロイド類で、これらは窒素を含んだ堅固な骨格が特徴です。こうした構造であるため、アルカロイド類は体内の重要タンパク質に結合しやすく、しばしば毒性を発揮します。このためこうした化合物を舌で感知し、飲み込む前に吐き出させてしまうよう、苦味という味覚が発達したのでしょう。
こうした、タンパク質に結合しやすいアルカロイド類のうち、たまたま症状を癒す方に働くものを、我々は天然物医薬と呼んでいるわけです。もちろんアルカロイドでない医薬や、人工合成の医薬もたくさんありますが、それらとて体内のタンパク質に結合しやすい構造であるのは同じことです。必然、その味も苦くなりがち――というのが、筆者の推測です。
「良薬は口に苦し」は孔子の時代の語ですから、その「薬」はいわゆる「漢方薬」です。漢方薬は、「自然界にある植物や鉱物などのうち、薬効を持つ」部分を一定の法則のもと、原則として複数組み合わせて作られた薬です。佐藤さんの「推測」には説得力があります。
「良薬は口に苦し」の類義語
「忠言耳に逆らう」
「金言耳に逆らう」
「よい忠告は飲み込みづらい」
「苦言は薬なり、甘言は病なり」
「薬の灸は身に熱く、毒な酒は甘い」
「A good medicine tastes bitter.(良薬は口に苦し)」