教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

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日本語探訪(その98) 故事成語「画竜点睛」

小学校のうちに知っておきたい故事成語の第27回は「画竜点睛」です。

 

画竜点睛

 

「画竜点睛」の読み方

がりょうてんせい

 

※「がりゅう」は誤読です。 

 

「画竜点睛」の意味

事物の眼目となるところ。物事を立派に完成させるための最後の仕上げ。また、わずかなことで、全体がひきたつたとえ。(広辞苑

 

「画竜点睛」の使い方

こんなに女から思われている色男は、いったい何者だろうかとの好奇心を、最後の一行が尽きて、名あての名が自分の目の前に現われるまで引きずっていった。ところがこの好奇心が遺憾なく満足されべき画竜点睛の名前までいよいよ読み進んだ時、自分は突然驚いた。(夏目漱石『手紙』1911年)

 

※通常「画竜点睛を欠く」というフレーズで使われます。
 

「画竜点睛」の語源・由来

「画竜出典」の出典は、『歴代名画記』です。『歴代名画記』は、中国唐の高級官僚である張彦遠が9世紀に著した画論・画史の著作です。

 

「画竜出典」の由来は、南北朝時代・梁の画家張僧繇(ちょうそうよう)が金陵安楽寺の壁画に白竜を描いて、その睛(ひとみ)を書きこんだところ、たちまち風雲生じて白竜は天に上ったという故事によります。

 

張僧繇、呉中人也。武帝崇飾仏寺、多命僧繇画之。
金陵安楽寺四白竜、不点眼睛。毎云、
「点睛即飛去。」
人以為妄誕、固請点之。須臾雷電破壁、両竜乗雲、騰去上天。
二竜未点眼者、見在。

【読み下し文】

張僧繇(ちょうそうよう)は、呉中の人なり。武帝仏寺(ぶていぶつじ)を崇飾(すうしょく)するに、多くを僧繇に命じて之を画かしむ。
金陵の安楽寺の四白竜は、眼睛(がんせい)を点ぜず。毎(つね)に云ふ、
「睛(ひとみ)を点ぜば即(すなは)ち飛び去らん。」と。
人以て妄誕(もうたん)と為し、固く之に点ぜんことを請ふ。須臾(しゅゆ)にして雷電(らいでん)壁を破り、両竜雲に乗り、騰去(とうきょ)して天に上る。
二竜の未だ眼を点ぜざる者は、見(げん)に在り。

【現代語訳】

張僧繇は、呉中の人である。武帝南朝 梁りょうの初代皇帝)は仏寺を立派に装飾するとき、その多くを僧繇に命じて絵を描かせていた。
(僧繇は)金陵の安楽寺の四匹の白龍には、瞳を描かなかった。(僧繇は)いつも言う。
「瞳を描いたら(四匹の白龍は)すぐに飛び去ってしまうだろう。」と。
人々はあり得ない話だと思い、なんとしてもこれに(眼を)描くことを頼んだ。(僧繇が、頼まれて龍に眼を描くと、)たちまち稲妻が壁を破り、二匹の龍は雲に乗って、躍り上がって天に上っていった。
眼を描かなかったもう二匹の龍は、現在も(絵の中に)残っている。

 

「中国語スクリプト」から引きます。

梁(りょう、南朝…502~557 江南地方にあった王朝)に張僧繇(ちょうそうよう)という名の画家がいました。この画家の絵の技術はすばらしく、当時の梁の武帝は多くの寺院の絵を彼に描かせたと言います。

ある年、武帝は彼に健康(南京の古名)の安楽寺の壁に4匹の金竜を描くよう命じました。承知した画家(張僧繇)はわずか三日間で絵を描き終えました。この絵の中の竜は生き生きとしていてまるで本当に生きている竜のようです。見に来た人々は感嘆の声を挙げ、まるで本物の竜だとほめたたえました。しかし人々が近寄ってよく見ると、これら4匹の竜には目がありません。そこで皆は目を入れてくれるよう画家に頼みました。すると彼は「竜に目玉を入れるのは簡単ですが、しかしそうするとこの竜は壁からとび出して飛んでいってしまいます」と言うのです。

人々は誰もこんな話を信じません。こいつはいい加減なことを言っている、壁に描かれた竜がどうして飛んでなどいくものか。やがて多くの人がこいつはうそつきだと言いふらすようになりました。画家はしかたなく「わかった。それでは竜に目を入れよう。ただし4匹の竜のうち2匹だけだ」と皆に約束しました。その約束の日、寺の壁には大勢の見物人が集まりました。画家はみなの前で筆をとると静かに竜の目を入れます。すると果たして不思議なことが…。

彼が2匹目の竜に目を入れたところ、しばらくして空には黒雲が広がり、激しい風が起き、雷鳴がとどろき、稲妻が走ります。そしてその雷鳴の中、目が描かれた2匹の竜が壁を破って起き上がり、牙をむき出し爪を躍らせるようにして天空に飛び去っていったのです。やがて雲は消え、また空は晴れ渡り、人々は茫然として口もきけません。もう一度壁に目をこらすとそこには目玉のない2匹の竜が残っているばかり。あの目の入った竜はどこにもいませんでした。

その後人々はこの伝説に基づいて「画竜点睛」(竜を描いて瞳を入れる)という故事成語を作り、話や文章で大事なところにすばらしい一言を入れて要旨を明解にすることを、「画竜点睛」とか「点睛の筆」と言うようになりました。

 

「画竜点睛」の蘊蓄

「画竜出典」の類義語

点睛開眼」(てんせいかいがん)

物事の一番重要な部分。または、仕上げるために最後に手を加える重要な部分。

「点睛開眼」の由来は「画竜出典」と同じ故事によります。

 

「画竜出典」の対義語

蛇足

※「蛇足」については、日本語探訪(その31)故事成語「蛇足」を参照ください。