教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

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日本語探訪(その125) 故事成語「断腸の思い」

小学校のうちに知っておきたい故事成語の第47回は「断腸の思い」です。

 

断腸の思い

 

「断腸の思い」の読み方

だんちょうのおもい

 

「断腸の思い」の意味

腸がちぎれるほどの悲しみ(広辞苑

 

「断腸の思い」の使い方

少しく仔細を知れる者は中将の暗涙を帯びて棺側に立つを見て断腸の思(おもい)をなせしが(徳冨蘆花『不如帰』1898~99年)
 

「断腸の思い」の語源・由来

「断腸の思い」の出典は、『世説新語(せせつしんご)』の「黜免(ちゅつめん)篇」です。

 

断腸の思いの「断腸」は、『 黜免』の次の故事に由来します。

中国、晋の武将 桓温が船で蜀へ行く途中、三峡を渡ったとき、従者が子猿を捕らえて船に乗せた。
母猿が連れ去られた子猿の後を岸伝いで追い、百里あまり行ったところで船が岸に近づくと、母猿は船に飛び移ったが、そのまま死んでしまった。
母猿の腹を割いてみると、腸(はらわた)がずたずたに断ち切れていた。
この故事から、腸がちぎれるほどの耐え難い悲しみを「断腸」や「断腸の思い」などと言うようになった。

 

桓公入蜀、至三峽中。
部伍中有得猿子者。
其母縁岸哀號、行百餘里不去。
遂跳上船、至便即絶。
破視其腹中、皆寸寸
公聞之怒、命黜其人。

【読み下し文】

桓公(かんこう)蜀(しょく)に入(い)り、三峡(さんきょう)の中(うち)に至(いた)る。
部伍(ぶご)の中(なか)に猿子(えんし)を得(う)る者(もの)有(あ)り。
其(そ)の母(はは)岸(きし)に縁(よ)りて哀号(あいごう)し、行(ゆ)くこと百余里(ひゃくより)にして去(さ)らず。
遂(つい)に跳(おど)りて船(ふね)に上(のぼ)り、至(いた)れば便即(すなわ)ち絶(た)ゆ。
破(やぶ)りて其(その)腹(はら)の中(なか)を視(み)れば、腸(はらわた)皆(み)な寸寸(すんすん)に断(た)えたり。
公(こう)之(これ)を聞(き)きて怒(いか)り、命(めい)じて其(そ)の人(ひと)を黜(しりぞ)けしむ。

【現代語訳】

桓公が蜀に攻め入り、三峡の中にやって来た。
部隊の中に子猿を捕まえた者がいた。
その母猿が岸に沿って悲しげに泣き叫ぶ、(部隊が)百里余り進んでも(後を追って来て)立ち去らない。
とうとう(日後は遊んで船に乗り込み、(子点のもとにやって来るとすぐに息絶えた。
その母猿の)腹の中を裂いてよく見ると、腸がすべてずたずたに断ち切れていた。
桓公はこの話を聞いて怒り、命令してその子猿を捕まえた)人を降格させた。

 

「断腸の思い」の蘊蓄

中国は国も大きいですが、言葉の表現もまた大きい

「断腸」以外の言葉を2つ紹介します。

 

白髪三千丈(はくはつさんぜんじょう)

心配や悲しみが非常に深いことのたとえ。また、極端な誇張表現のたとえ。

三千丈は約9キロメートルです。

 

「白髪三千丈」の出典は、李白の「秋浦歌(しゅうほのうた)」です。

 

秋浦歌   李白

白髪三千丈
縁愁似箇長
不知明鏡裏
何処得秋霜

【読み下し文】
秋浦の歌   李白

白髪(はくはつ)三千丈(さんぜんじょう)
愁(うれひ)に縁(よ)りて箇(かく)の似(ごと)く長し
知らず明鏡(めいきょう)の裏(うち)
何(いづれ)の処よりか秋霜(しゅうそう)を得たる

【現代語訳】
(私のこの)白髪は三千丈(の長さ)もあるであろうか。
(長い年月の)思い悩みが原因で(そのあげくに)
このようにも白く長く伸びたのであろう。
(それにしてもいったい)こうして鏡にうつっている私を見ていると、
どこからこの霜(とも見える白髪)を身にうけたのであろうか
(と不思議に思われることだ)。

 

怒髪、天を衝く(どはつ、てんをつく)
激しい怒りで髪が逆立っている様子から、激怒しているようすのたとえ。

 

「怒髪、天を衝く」の出典は、『史記』「藺相如(りんしょうじょ)伝」です。


相如因持璧、卻立倚柱、怒髮上衝冠

【読み下し文】
相如(しょうじょ)、因(よ)りて璧(へき)を持(も)ち、却立(きゃくりつ)して柱(はしら)に倚(よ)り、怒髪(どはつ)上(のぼ)りて冠(かんむり)を衝(つ)く。

※「怒髪、天を衝く」場面の詳細は、日本語探訪(その105)故事成語「完璧」をご覧ください。