教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「不登校特例校」が示すもの②

一市民が「不登校特例校」の内実を知ることは、ほとんど不可能です。

ここに、教育ジャーナリストの中曽根陽子さんが「不登校特例校」を現地取材されたレポートがあります。一部を抜粋して引用させていただきます。

 

不登校の生徒が登校率85%の奇跡」岐阜の"バーバパパのがっこう"に殺到する全国の教育委員会が驚愕の光景

中曽根 陽子 教育ジャーナリスト
2022/10/30 11:00

 

開校1年半で100件の視察が殺到する岐阜の小さな学校
2021年4月に東海地方初の公立の不登校特例校として、岐阜市立草潤(そうじゅん)中学校(全校生徒40人程度、教職員27人)が開校しました。これまでの学校という枠の中で自分の才能を生かせなくて学校に行けなかった生徒、不登校を経験した生徒のための学校です。

 

 

バーバパパのがっこう」生徒が自分で選べる公立中
アドバイザーのひとり、京都大学総合博物館の塩瀬隆之准教授は、「理想はバーバパパのがっこう」と言い、子供が学校に合わせるのではなく、子供主体の学校にしていく学校らしくない学校というコンセプトでした。

 

例えば、担任も生徒が選ぶ、個別担任制を採用。生徒の希望を聞きながら、担当の先生を決めていき、2カ月に1回見直しもできます。

環境も、生徒の居心地の良さを重視。塗装や備品は“学校らしくない”デザインや明るくカラフルなものを選びました。常時解放されているマネジメントオフィスという名前の校長室には、ビビッドなオレンジのソファが置かれ、くつろぎにくる生徒の姿もあるそうです。

カーペット敷きの図書室には、キャンプに使うテントやハンモック、横になれるソファなど、学校らしからぬ備品がいろいろ置かれています。一人でも、友達と一緒でも、思い思いにくつろぎながら過ごすことができる場所が校内にいくつもあるのが印象的でした

海外の学校を視察に行くと、いつもそのカラフルさが印象に残り、日本の学校の建物の無機質な環境をなんとかできないのかと思っていたのですが、既存の学校でも、やろうと思えば、ここまで工夫ができるのだと感心しました。

開校当初の計画ではトイレ改修はありませんでしたが、開校前の不登校経験者のヒアリングでも最も要望が高く、「古く汚いトイレでは生徒が学校に来ない」と全体予算の3分の1強に当たる1100万円かけてきれいにしました。1階と3階のトイレは未改修のままなので、多くの生徒は2階のトイレを使うそうです。

 

 

遅刻や欠席という言葉がない学校
この学校のもうひとつの特徴が、遅刻や欠席という言葉がないということ。代わりにあるのが、「ゆっくり登校」「自宅」という表現。授業は全て生配信され、学校に来て学ぶか、自宅で学ぶかを生徒が選ぶことができます。自宅から参加する生徒は、授業中にやりとりができるか、放課後に個別担任とオンラインで面談などができれば、出席扱いとなります。

 

 

大人の関わり方が変わることで、生徒が短期間に変化

草潤中では、初年度は3学年生徒40人でスタート。その他に、在籍校に籍を置いたまま週1回50分個別学習支援を行う通級支援25人と、オンラインで指導を週2回1回20分学習支援するオンライン支援25人を受け入れました。1年半経って、生徒たちはどんな様子なのでしょうか。

初年度の卒業生は全員が高校に進学。登校率は、1年目が出席および出席扱い合わせて85.4%になりました。こう書くと登校を目指しているようですが、決してそうではなく、結果こうなったということです。

通級指導を担当する教員は、生徒の変化について次のように話してくれました。

「これまで人と関わる経験が少なかった子供たちが、この学校に来て、ひとつずつ経験を重ねる中で、変わっていく様子を目の当たりにしてきました。学校に行けなかった子供も、本音のところで人とつながりたいと思っています。ダメ出しをするのではなく、いいところを見つけて励ましてあげるうちに、子供たちは短期間で成長していきました」

実際、生徒たちの発案で全校行事を企画し、自分たちで旅行社と交渉して実施したり、新入生歓迎音楽会を開催したり、それ以前は、学校に来ることが困難だった生徒たちの変化に教員も驚かされたそうです。

 

中曽根陽子さんのレポートの全文は下のリンクから閲覧できます。

president.jp

 

記事を読む限り、草潤中学校はいわゆる「成功例」の一つだと思います。

そして、そこにはいくつもの「ヒント」があります。

 

2022年4月現在、公立の不登校特例校は12校しかありません。

なぜでしょう。解は明白、お金が掛かるからです。

逆説的に言えば、お金を掛ければ不登校の子どもたちの学びが保障される可能性が高いということです。

ここ1、2年の間にある程度の校数は増えそうです。しかし、対象となるのは24万人のうちのほんの一握りの子たちです。

 

草潤中学校の学校規模を見ます。

2021年4月に東海地方初の公立の不登校特例校として、岐阜市立草潤(そうじゅん)中学校(全校生徒40人程度、教職員27人)が開校しました。

初年度は3学年生徒40人でスタート。その他に、在籍校に籍を置いたまま週1回50分個別学習支援を行う通級支援25人と、オンラインで指導を週2回1回20分学習支援するオンライン支援25人を受け入れました。

草潤中学校の在籍生徒40人に対して教職員27人です。

私が知っている同規模の中学校の場合、管理職2人と養護教員を含めて9人です。小学校では、6人です。

草潤中の在籍生徒40人に通級支援25人とオンライン支援25人を加えると、90人になります。私が知っている同規模の中学校の教員は11人です。

つまり、草潤中の場合は「特例」によって教員定数の枠が外され、通常の公立校とは比較にならない数の教員が配置されています。

教育内容や教育方法を抜きに語るのは乱暴ですが、あえて言います。

草潤中の「成功」は、この規模の教員配置によって支えられています。換言すれば、不登校の子どもたちの学びの保障は、圧倒的な数の教員配置が前提でなければならないということです。

 

 

ある小規模校の話です。

コロナ禍で登校できない子どもにオンラインで授業を配信するようになりました。

教室での授業を進めつつ、画面の向こうにいる子にも目配りをします。「教える」という過程の後に「練習問題を解く」という個別学習の時間があります。

教室で問題プリントを配る場合は、オンラインでファイルを送付します。

プリントの答え合わせは、オンラインの子の場合はファイルを送り返してもらって行います。

GIGAスクール構想で一人1台のタブレットが配布されてから、日本中の学校で同じようなことが行われているのだと思います。

いまここで紹介しているのは、小規模校の1クラス10人にも満たないような教室の話です。そのクラスの教員が、オンライン対応をするようになって、教室にいる気になる子に関われる時間がとれなくなったというのです。

ましてや30人を超える教室では……。

 

不登校対策として、普通学校の教員にもカウンセリングの能力を付けて云々といった議論もあるようです。

何をか言わんや。

 

 

次回は、教育の中身に触れます。