教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「不登校特例校」が示すもの④(余録)

今回は、「不登校」の問題から離れます。

2月3日、朝日新聞の「声」欄に元教員の方の「発達障害 教育現場で必要なもの」と題する投書が載りました。それを紹介します。

 

投書は1月6日の「社説」をもとに書かれています。

 

朝日新聞 2023.1.6
(社説)発達障害」の子 学校と専門家 力集めて

 35人のクラスなら発達障害の可能性がある子が3人いるのに、支援が行き届いていない。公立小中学校のそんな実情が、文部科学省の調査でわかった。

 調査は、抽出された児童・生徒について、学習障害や注意欠如・多動症の診断項目などを参考に作った質問に当てはまるか、担任教員らが回答。医師の診断を受けたものではないが、教育的な支援が必要な子どもの実態や、支援状況を把握しようと10年ぶりに実施された。

 全国の公立小中学校の通常学級で学ぶ児童生徒のうち8・8%が、「学習面または行動面で著しい困難」を示し、発達障害の可能性があるとされた。また、こうした子のうち4割強は、授業中に席の移動といった配慮を受けていなかった。

 著しい困難を示す子については、文科省が小中高などに設置を求めている校内委員会で、支援内容などを決める必要がある。だが、校長らが参加する校内委が「特別な教育的支援が必要」と判断したのは3割弱。通常学級に在籍して一部を別教室で学ぶ「通級指導」を受けていた子は、1割程度だった。

 この結果について文科省は、校内委が十分に機能していない学校が多いとみる。成長した後に苦しむ子が出ないよう、早急に改善しなければならない。

 重要なのは、一人ひとりにどんな支援をすべきか、判断できる教員を増やすことだ。そして学校も、校内委の適切な運用とともに、校外の専門家らの力も集め、組織的に支援する体制を整えることが求められる。

 国連の障害者権利委員会は昨年、障害がある子を分離する教育は問題だと日本政府に勧告した。ただ、少人数指導を求める保護者は多く、特別支援教育をすぐにやめるのは難しい。

 だが、支援のあり方を、立ち止まって考える良い機会だ。まずは分離せずに授業の進め方などの工夫で対応し、難しければ個別対応に切り替える。そんな柔軟な進め方を試してもいい。

 その実現には、教員の間に特別支援の知識が行き渡ることが必要だ。文科省は、教員免許を取得する際、特別支援の授業で1単位以上取ることを義務づけた。そして若手教員に特別支援学級・学校を2年以上経験させるよう、教委に求めている。

 こうした教員の層が厚くなるには時間がかかる。そこで一層、専門家との連携がカギになる。政府は、子どもの心をケアするスクールカウンセラーや、家庭や専門機関と連携して支援するスクールソーシャルワーカーらの配置を増やすべきだ。学校も、困った時に助けを求めやすいよう、普段から外部の組織と関係を築いておいてほしい。

 

 

2023.2.3 朝日新聞「声」

発達障害 教育現場で必要なもの
                   無職 長谷川 敏之

                     (北海道 65)


 文部科学省の調査で、全国の公立小中学校の通常学級に通う児童生徒の8・8%に発達障害の可能性があり、うち4割は授業中に個別の配慮支援を受けていなかったという。このことを1月6日の社説が取り上げ、校内の組織が十分に機能していない学校が多いとする文科省の見方を紹介。教員に特別支援の知識が行き渡ることが必要と指摘した。
 元教員として考えを述べたい。特別支援教育に関する文科省からの通知を受け、10年以上にわたり、学校では支援が必要な児童生徒への指導の工夫や検討を進め、学びの支援者の導入も広がる。だが教員や施設が圧倒的に足りない。教育センターなど外部組織との連携も、対応を得られるまで数カ月待つこともある。教員や学校の努力で対応しているが、それが学校職場の「ブラック化」につながる面もあるのではないか。
 同日4面の記事に、2017年のGDPに対する、子ども・子育て支援に関わる日本の公的支出の割合はOECD平均を下回る、とある。話題の防衛費よりも未来を担う子どもの教育にこそ力を入れるべきだ。まずは、教員の定数増を中心とする予算投入が急務だと思う。

 

不登校」と「発達障害」。

その現れ方に違いはありますが、学校が抱える大きな教育課題であるという共通点があります。

発達障害」の子の支援において、朝日新聞は教員の「資質向上」を主張します。「左」寄りだと烙印を押されることの多い朝日新聞の主張が、文部科学省の施策と同軸上にあります。

投書氏の文脈は、それへの異議申し立てです。

投書するしないは別として、教員や元教員ならおよそ同様に感じているでしょう。

そう、教員や施設が圧倒的に足りないのです。

 

教員の資質は大事なのですが、それは、課題に対応するための教員を増やすとともに現職教員の資質も向上させるというものでなければなりません。

教員は増やさずに(お金を掛けずに)行う「資質向上」は、「資質向上」に名を借りた「職務追加」でしかありません。

投書は、「それが学校職場の『ブラック化』につながる面もあるのではないか」と憂いています。それは教員志望者減を招き、結果として教員の資質低下につながります。

 

お金を掛けずに学校現場の努力で教育課題を克服する--これまで繰り返してきた文部科学省の常套手段です。

さて、「不登校」問題での対応はどうでしょうか。