教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「こども基本法」を考える③

「こども基本法」を考える③

「子どもコミッショナー」をめぐって

 

「こども家庭庁」「こども基本法」をめぐる国会審議において、もっとも強く反対の立場を取ったのは日本共産党でした。

塩川鉄也議員が衆院本会議で行った反対討論(5月17日)の要旨です。

 貧困、虐待、いじめ、不登校、自殺など、子どもの権利侵害は極めて深刻で、この事態を放置してきた政府の責任は重大です。子どもの権利条約批准から約30年、自民党政権は、条約が掲げた「子どもの最善の利益」「生命、生存及び発達に対する権利」「意見表明権」「差別の禁止」の4原則を軽視し、現行法体制を変える必要はないとの立場を一貫して取り続け、国連子どもの権利委員会は度重なる勧告を行っています。今、必要なのは、子どもを権利の主体として明確に位置付け、憲法基本的人権と権利条約の4原則を保障する政治への転換です。そのために、子どもが自由に意見を表明し反映される権利を保証する仕組みが必要不可欠で、独立した立場で政府を監視・評価するとともに、子どもの意見表明を代弁し、個別事案の相談・救済に対応する子どもコミッショナーは欠かせません。しかし設置法案には、「子どもの権利条約」の文言すらなく、子どもコミッショナーの設置もありません。これでどうして深刻な子どもの権利侵害を克服できるのですか。

 同時にあまりに少なすぎる子ども予算を抜本的に増額し、子どもに関わりケアをする専門職員を大幅に増やすことが必要ですが、法案には予算と人を増やす担保がありません。

 次に、設置法案と一体で提出された自公のこども基本法案は、「閣法と相まって子どもに関する取り組みの共通基盤」だとする基本理念に、子どもの「養育は家庭が基本」と明記したことは重大です。「養育は家庭が基本」は、歴代自民党政権児童扶養手当生活保護の改悪など子育て支援の後退を合理化する理由として強調してきたものです。虐待や貧困、ヤングケアラーなど、家庭の中で苦しむ子どもたちや保護者をさらに追い詰め、一層孤立させるもので到底看過できません。

 もう一つは、教育の問題です。国連からも繰り返し勧告されている過度な競争・管理教育、いじめ、不登校、理不尽な校則など、学校教育における権利侵害は重大です。意見表明権をはじめ、権利条約の4原則の実現が急務にもかかわらず、過度な競争・管理教育、教育への国家介入、愛国心などを押し付ける改悪教育基本法への反省もなく、学校教育における深刻な子どもの権利侵害を放置することは容認できません。

 さらに、子どものデータ連携を推進する規定は、生まれた時から子どもの個人情報が集積され、本人の不利益な情報がデジタルタトゥー(ネット上に消せずに残る負の情報)として将来にわたり影響を及ぼしかねないものです。

 政府は個人情報を民間企業のもうけの種として利活用する政策を推進している下、プライバシー権の侵害やプロファイリング(人物像の推定)、スコアリング(点数化)などによる権利侵害が生じる恐れを高めるものです。

 

子どもコミッショナーの設置については、野党各党がその必要性に言及しています。

立憲民主党が国会に提出した「子ども総合基本法案(正式名称:子どもの最善の利益が図られるための子ども施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案)」には次のようにあります。

子どもの最善の利益が図られるための
子ども施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案 概要


第一 総則
一 目的
 この法律は、子どもの最善の利益が図られ、その人権が保障され、及び社会全体で子どもの成長を支援する社会を実現するため、児童の権利に関する条約の理念にのっとり、子ども施策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、子ども施策基本計画等の策定、子ども施策の基本となる事項、子どもの権利擁護委員会及び都道府県等における合議制の機関等並びに子ども省の設置についての法制上の措置等に関する事項について定めることにより、子ども施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とすること。


二 定義
 この法律において「子ども施策」とは、子育て、教育、福祉、保健、医療、雇用、少子化対策その他の分野における子どもに関する施策をいい、当該施策の性質上子どものほか若者を対象とすることが適当である場合にあっては、若者に関する施策を含むものとすること。


三 基本理念
 子ども施策の推進は、次の事項を旨として行われなければならないこと。
 ① 全ての子ども(子ども施策の対象となる若者を含む。三において同じ。)の最善の利益が図られ、その人権を保障すること。
 ② 全ての子どもについて、個人としての尊厳を重んじ、不当な差別的取扱いを受けることがないようにすること。
 ③ 全ての子どもについて、子どもの年齢及び発達の程度に応じて、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を保障し、その意見を十分に尊重すること。
 ④ 保護者の経済的な状況により子どもの成長が左右されることのないようにすること。
 ⑤ 希望する者が安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現を図るため、必要な支援が切れ目なく行われること。
 ⑥ 全ての子どもの命を守り、その生存と安全を保障すること。
 ⑦ 全ての子どもについて、その生まれ育った環境や家族の状況、障害の有無等にかかわらず教育を受ける権利を保障するとともに、その成長する環境を整えること。
 ⑧ 個人の権利利益が不当に害されることのないようにしつつ情報通信技術の活用等を行うとともに、子育て、教育、福祉等に係る関係者との連携の確保が図られなければならないこと。


四 国の責務
 国は、三の基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、子ども施策を策定し、及び実施する責務を有すること。


地方公共団体の責務
 地方公共団体は、基本理念にのっとり、その区域内における子ども施策を策定し、及び実施する責務を有すること。


六 国民の責務等
 1 国民は、子どもの最善の利益が図られ、その人権が保障され、及び社会全体で子どもの成長を支援する社会の実現に寄与するよう努めなければならないこと。
 2 学校、地域その他の場において子どもに関係する者は、その職務と責任に応じて、これらの場における子どもに影響を及ぼす事項について、子どもの年齢及び発達の程度に応じて、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を設け、その意見が当該事項に反映されるよう努めなければならないこと。


七 法制上の措置等
 政府は、子ども施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置そ
の他の必要な措置を講ずるものとすること。


第二 子ども施策基本計画等
1 政府は、基本理念にのっとり、子ども施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、子ども施策基本計画を定めなければならないこと。
都道府県は、子ども施策基本計画を勘案して、都道府県子ども施策基本計画を定めなければならないこと。


第三 子ども施策の基本となる事項
一 総則
 1 子ども施策のための予算の確保
 2 子どもの意見の反映
 3 子ども施策の実施状況に関する評価等


二 子どもの生活を経済的に安定させるための施策
 1 児童手当の拡充等
 2 低所得者世帯の子育ての支援(児童扶養手当の拡充)
 3 子どもの貧困対策
 4 養育に必要な費用の支払の確保等


三 希望する者が安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現のための施策
 1 妊娠、出産、育児及び子どもの成長に関する切れ目のない支援
 2 不妊治療に係る支援
 3 待機児童に関する問題の解消等
 4 仕事と子育ての両立が可能な環境の整備


四 子どもの生存と安全を保障するための施策
 1 虐待の防止等
 2 社会的養護の拡充・ケアリーバーに対する支援
 3 子どもが性犯罪及び性暴力の当事者とならないための取組
 4 子どもの死亡の原因の調査(チャイルド・デス・レビュー)


五 教育を受ける権利等を保障するための施策
 1 小学校就学前の子どもに対する教育及び保育の充実
 2 学校教育に係る支援等
 3 いじめの防止
 4 子どもの居場所の確保


六 特別の支援を必要とする子どもに関する施策
 1 特別の支援を必要とする子どもが学び、成長するための支援及び環境の整備等
 2 ヤングケアラーの負担の軽減
 3 修学及び就業のいずれもしていない子ども、若者等の支援


補則
 1 子育て等の分野における情報通信技術の活用等
 2 子育て、教育、福祉等の関係者との連携


第四 子どもの権利擁護委員会及び都道府県等における合議制の機関等
子どもの権利擁護委員会(「子どもコミッショナー」)
 内閣府の外局として、子どもの権利擁護委員会(以下「委員会」という。)を設置し、その任務、所掌事務、組織等について定めるとともに、委員会による関係行政機関の長等に対する資料提出その他の協力の要求、子どもの権利侵害が疑われる場合の調査等及び関係行政機関の長等に対する勧告について定めること。


都道府県等における合議制の機関
 都道府県(指定都市を含む。)に子どもの権利侵害に関する救済の申立てを受けてその解決を図ること等を所掌事務とする合議制の機関を置くとともに、市町村(指定都市を除く。)にこれと同様の合議制の機関を置くことができることとすること。


補則

 委員会と都道府県等における合議制の機関との連携及び協力、都道府県等における合議制の機関に要する費用の国の補助等について定めること。


第五 子ども省の設置についての法制上の措置等
1 政府は、子ども施策の総合的な推進を図るため、子ども省の設置について、必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとすること。
2 子ども省がその事務を行うに当たっては、子ども施策の総合的かつ一体的な推進を図るため、文部科学省その他の関係行政機関との緊密な連携を図るものとすること。
3 1の措置を講ずるに当たっては、2の緊密な連携が図られるよう、配慮がなされなければならないこと。


第六 罰則
 委員会の委員等の秘密保持義務違反並びに委員会の調査に対する虚偽報告及び検査忌避等に対して所要の罰則を設けること。


第七 施行期日等
1 この法律は、公布の日から施行すること。ただし、第三の一3、第四及び第六は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行すること。
2 その他所要の規定を設けるとともに、この法律の施行に伴う関係法律の整備については、別に法律で定めるものとすること。

 

「こどもコミッショナー」の問題は、「こどもの意見表明権」と深く関わっています。

今回は問題の所在を記すのみにとどめ、後々の稿で掘り下げることとします。