教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

総合的な学習の時間とアクティブ・ラーニング

「総合的な学習の時間」(以下「総合」と略記)がスタートした2002年4月、私は10年ぶりに教室に戻りました。

 

1998年改訂 学習指導要領

第3 総合的な学習の時間の取扱い

1 総合的な学習の時間においては、各学校は、地域や学校、児童の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。

2 総合的な学習の時間においては、次のようなねらいをもって指導を行うものとする。
(1)自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2)学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすること。

3 各学校においては、2に示すねらいを踏まえ、例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。

4 各学校における総合的な学習の時間の名称については、各学校において適切に定めるものとする。

5 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては、次の事項に配慮するものとする。
(1)自然体験やボランティア活動などの社会体験、観察・実験、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動など体験的な学習、問題解決的な学習を積極的に取り入れること。
(2)グループ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態、地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制、地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。
(3)国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは、学校の実態等に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。

 

「総合」の実践がしたくて現場復帰を果たしたと言っても過言ではない私です。その入れ込みようは、当時の学級通信に残っています。

 

学級通信「きらきら」(2002.4.22)

■ おうちの方へ ■
          きらきら輝いて生きてほしいから…
 2002年4月--後年、歴史を振り返ったとき、2002年4月は日本の学校教育におけるターニングポイントだったと言われるかもしれません。明治の学制スタート以来、最大のものと言われる今次教育改革は、「新しい学力観」「生きる力」という言葉でしばしば新聞等にも登場しています。
 従来の「学力」は、どれだけたくさんの知識を蓄えたかを基準にしてきました。対して「新しい学力観」「生きる力」は、自ら課題を解決していこうとする力、自己学習力を大事にします。知識や知恵は、課題解決の道具ということになります。
 先生が黒板の前に立って教え、子どもたちは先生の方を向いてそれを聞く--学制以来の授業風景は、なくなることはありませんが、徐々に少なくなっていくでしょう。代わって、子どもたちが自分で見付けた課題に取り組み、先生は一人ひとりの学びを支援するという学習風景が、年々増えていくと思われます。
 「生きる力」というのは、自ら課題を選び解決していこうとする力と、それを支える基礎基本の力から成っています。3年生では、「選ぶ」ことを特に大事にしたいと考えています。「選ぶ」という行為は、そのことに対して自分が主体的に関わる出発点に立つことを意味します。そして、選んだ課題を解決するためにどうすればよいかを考え、努力することを大事にしたいと思います。一人ひとりが個性ある存在として、きらきら輝いて生きてほしいと願うからこそ、脳を鍛える学習(よく選び、しっかり考え、ねばり強く行動する)をすべての教科の中で行っていきます。
 体と脳に快い疲労を感じて1日の学校生活を終わらせたいと思います。家に帰った子どもを、とにかく褒めてください。昨日よりもできるようになったこと、その子なりに頑張ったことをとにかく褒めてください。誰とも比較せず、掛け値なしにとにかく褒めてください。小言は呑み込み、まず褒めてください。(これは甘やかしや溺愛ではありません。子どもをしっかり見て、的を外さない褒め言葉は、100%子どもの栄養になります。)--そうすると、家庭は疲れた体と脳を休め、やさしく包んでくれる「羽毛布団」になります。心地よい安心感が自信の源になり、明日のエネルギー源になります。
 学校と家庭の「連携」は一つきりのものではありませんが、まずは基本としての「トレーニングジム」と「ホーム」の関係づくりをお願いしたいと思います。

 


2002年度を迎える準備を進めてきた現場の空気は、私の期待とはちょっと違ったものでした。多くの学校がそうであったように、文科省が示した例示(例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題)が各学年に割り振られました。例示は子どもにつけたい力に迫るための「手段」に過ぎなかったはずなのに、その活動自体が「目的」になってしまっていました。
まさに手段の目的化です。


「総合」を合科学習として展開

私が勤めていた学校では、5年生は近くの休耕田を米作りをすることになっていました。米作りと言っても、実際には田植えと稲刈りのほかは農家の方にお任せでしたが。
こうした予め組まれている活動の扱いをどうするか、悩みどころです。この学校で2回5年生を担任しましたが、1回目はとことん取り込む道を選び、2回目は単なる体験の時間として流すことにしました。

田植え・稲刈り体験という既定路線をとことん取り込んだ2003年度の活動を紹介します。

 

 バケツ稲から広がる世界

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  ※調査活動について

   ・4月の課題づくり ○田んぼを借りている方の米作り

             ○米作りの道具、今と昔

             ○アイガモを使った米作り

             ○世界の米作り

             ○米の品種

             ○米を使った食べ物

             ○米を作っていない田んぼ

             ○米を外国から買っていること

   ・9月の課題設定 「はてな『生産調整』」

             ○食生活の変化

             ○農家から見た生産調整

             ○食糧支援

             ○米の輸入
 

 

-- 第5学年 総合的な学習の時間指導案 --

                  2003年11月12日(水) 第4校時

 

1 単元名 大単元「バケツ稲から広がる世界」小単元「収穫した米を使って…」

 

2 目標
 ○ 体験や調査活動をもとに、米の使い方を分かりやすく提案する。
 ○ 米を使っての活動を組み立て、なかまと協力しながら実践する。
 ○ 話し合いや活動を通して、食と農に対する考えを深めるとともに、自分たちの生活に生かそうとする実践的態度を育てる。

 

3 単元について
 ○ 「バケツ稲から広がる世界」は、バケツ稲の栽培活動を軸に、休耕田をお借りして行っている田植えや稲刈りの体験活動、米について調べる調査活動で構成されている。本小単元「収穫した米を使って…」は、大単元「バケツ稲から広がる世界」のまとめの単元として位置づけている。
     米作の問題は5年生社会科の重要な学習課題であり、校区の産業を考える上でも欠くことのできない課題である。しかし、周囲を田んぼに囲まれているという環境にあるものの、実際に米作をしている家庭は少数であり、田植えや稲刈りを体験したことのある子どもは数人にとどまる。子どもたちに米作を引き寄せるには、体験活動が欠かせない。それも、土作りから収穫までの全工程を自分の手でやり切らせたい。そんな思いから、バケツ稲栽培を活動の軸に据えた。
     WTO農業交渉での協議が重要な局面を迎え難航している。生産調整の問題も新たな段階を迎えた。米作を取り巻く環境は、生産農家にとってきわめて厳しい。調査活動では、農業を巡るこうした現実に子どもなりに向き合わせたい。
     本小単元は、栽培活動・体験活動と調査活動を統合し、自分が得たものを「米を使う」という行為で具現化しようとするものである。
 ○ 子どもたちは、栽培活動や体験活動には意欲的に取り組むことができた。一方、調査活動においては、グループ内の各個人の情報収集や情報処理能力に依るところが大きく、深まりに差が見られた。しかし、前小単元の最後に行った「生産調整に賛成か反対か」大討論会では、子どもたちの食と農に対する知的関心が格段に向上した。本小単元では、具体的な実践活動を実現するための話し合いという場の設定により、食と農の問題をいっそう子どもたちに引き寄せたいと思う。
 ○ 本校の研究主題「意欲的な子どもを育てる指導-『食』に関する体験的・問題解決的な学習を通して-」に触れておきたい。「意欲的な子どもを育てる」というのは研究の目的であり、「『食』に関する…」は目的に迫る手段・方法である。どういった学びの場を用意することが(換言すると、どんな仕掛けを作ることが)子どもの意欲につながるのかをポイントに小単元を組み立て、指導に当たりたい。

4 指導計画(全12時間)
 第1次 収穫した米の使い方を決めよう………4時間(本時は第3時)
 第2次 収穫した米を使って○○をしよう……6時間
 第3次 まとめをしよう…………………………2時間

5 本時案
 (1)ねらい
    ・米の使い方について、考えのもとになった根拠を示しながら、みんなに分かりやすく提案できる。
  ・他のグループの主張と自分の主張を調整しながら意見が言える。
 (2)展開   

   1 本時の学習課題をつかむ。

      収穫した25kgの米の使い方を決めよう

   2 米の使い方を提案する。            

     ・資料を適切に活用しながらプレゼンテーションできるように支援する。
     ・要点をメモしながら聞くようにさせる。

  3 25kgの米の使い方について話し合う。

     ・自他の共通点と相違点を整理して意見を言うようにさせる。
     ・話し合いを通して提案された活動の目的が明確になるように支援する。

  4 授業記録                                                          
   (T:指導者の発問・指示 C:児童の活動)

  
T:今日は、25kgのお米の使い方を決めます。6つの グループの提案に基づいて、決めていきます。まず、
提案を行います。提案する人たちは、自分たちの提案の中身がみんなによく伝わるように、聞く人たちは、提案のポイントは何かをメモしながら聞きます。提案が終わると、その後の話し合いをどう進めるか作戦タイムをとります。自分たちと他のグループのポイントはどこが同じでどこが違うのかを整理しながら、話し合いの進め方を考えます。そして討論をして、米の使い方を決定します。


T:最初に、おにぎり①の人たち、お願いします。 

C(おにぎり①):(提案)
提案のポイント 
◎全校生のみんなにおいしいおにぎりを食べてもらいたい  
◎炊いた米のおいしさを味わってもらいたい
キャッチコピー
★「はえぬき」の本当の味が出ておいしい★ 
○要求量12kg(調理用10kg、材料代2kg)  


C(おにぎり①):質問はありませんか。 
C:調理用10kgで全校生に配れるのですか。
C(おにぎり①):配れます。1人におにぎり1個で計算しました。
T:少し加えますと、お茶碗1杯分のお米を60gとして、1kgのお米で16個、10kgで160個という計算でしたね。

 

C(オムライス):(提案)
 提案のポイント
 ◎オムライスは、日本生まれの洋食料理
 ◎オムライスは、今の食事に合っている
 ◎学級のみんなで楽しく
 キャッチコピー
 ★学級で楽しく食べようオムライス★
 要求量6kg(調理用2kg、材料代4kg

 

C(アラカルト):(提案)
 提案のポイント
 ◎おやつや夜食におかしじゃなく低カロリーのご飯を
 ◎学級で楽しく仲良く米パーティー
 キャッチコピー
 ★おやつはやっぱりごはんだね★
 要求量6.5kg(調理用1.5kg、材料代5kg)


C(おにぎり②):(提案)
 提案のポイント
 ◎親に感謝
 ◎いっしょに味わう
 ◎親子で楽しく  ※参観日に実施
 キャッチコピー
 ★親子で食べよう、おいしいおにぎり★
 要求量9.5kg(調理用4.5kg、材料代5kg)


C(手巻き寿司):(提案)
 提案のポイント
 ◎オリジナルのすしを作れる
 ◎おいしく食べてもらいたい
 ◎食生活を和風化したらいい
 キャッチコピー
 ★好きなものを巻いて食べよう★
 要求量8kg(調理用2kg、材料代6kg)


C(食料支援):(提案)
 提案のポイント
 ◎毎年栄養不良で5才未満の子どもが600万人死亡
 ◎2億2600万人の子どもが栄養不良で十分成長できていない
 ◎子どもたちを助けるために米を売る
 キャッチコピー
 ★世界の子どもに食料を★
 要求量15kg


T:6つのグループの提案が終わりました。要求量は、全部で57kgになりました。実際のお米は25kgしかありません。それでは、自分たちの要求を通すために、この後の話し合いをどうするかという作戦タイムを5分間とります。


C:(各グループで相談)


T:作戦タイム終わり。では、これから米の使い方を巡る話し合いを始めます。意見のある人は手を挙げて発言してください。


C(おにぎり①U):私たちは海苔と塩だけで握るので、ハエヌキの本当のおいしさが分かります。具を入れると、新鮮なお米の本当の味が分からないのじゃないですか。

T:ご飯そのものの味が分かるのは、おにぎり①だけだということですね。他の人たち、どうでしょうか。

C(アラカルトM):それだけだったらつまらないじゃないですか。

C(おにぎり②T):具を入れて食べた方がおいしいと思います。
C(アラカルトM2):海苔と塩だけだったらしょっぱい。
C(食料支援O):塩を入れたらハエヌキの味もしないのじゃないですか。
C(おにぎり②O):具を入れて味わった方がおいしいと思います。
C(手巻き寿司N):具を何も入れなかったらさびしいです。
C(アラカルトM):本当に新鮮なんですか。
C:新鮮じゃないと思う。
C(食料支援O):塩を入れるとハエヌキの本当の味がしないのじゃないですか。


T:ちょっと待ってくださいね。交通整理をします。このお米が新鮮か新鮮でないかという話については、稲刈りをしたのが1ヶ月ほど前ですね。このお米を来年の秋まで食べるんですよね。今新鮮でないとすると、日本中に新鮮なお米などないですよ。問題は、塩を付けると味がどうかということだけども、みなさんがおにぎりを作る時に手に少し塩を付けるという程度のものですから、それでお米の味がしなくなるということ はないと思います。Uさんのところはハエヌキというお米のおいしさを味わうし、他のグループは味を付け て食べる。そこに違いのポイントがあると主張しているわけです。別のポイントありますか。


C(食料支援O):支援は他のところと違って食べるということじゃないから、そこが支援の特徴だと思います。
T:それについて言いたい人いますか。
C(  ):自分たちで作ったお米なんだから、自分たちで食べたらいいと思います。
C(おにぎり②F):作ったお米を売っても、お金は送るんだったら私たちは何も得しないで、損してるみたいだと思います。


T:今言っているのは、自分たちの作ったお米なんだから自分たちのために使ったらいいじゃないかということですね。「食べる」ということは、要するに「自分たちのために」ということです。ここが2つ目のポイントですか。

C(食料支援O):得するのは、人の命を助けるということだと思います。
T:討論は後にします。他の点で。
C(手巻き寿司K):オリジナルのものが作れるというのがぼくたちの特徴です。
C(オムライスS):食生活が洋風化しているので、それに合ったメニューだということです。
C(おにぎり②O):感謝の気持ちを込めていることです。
C(アラカルトO):3つの味が楽しめるということです。
T:今出されたことを論点にして、明日話し合いの続きをします。最終決定は明日です。

 

■ 授業を終えて
《討論の行方》
○翌日(11月13日)の討論会の論点
  ①食べる(自分たちのために使う)のか、支援する(人のために使う)のか
  ②お米のおいしさを味わうのか、味を付けて食べるのか
  ③食生活の変化に合わせて洋風化か、和風に戻して消費量アップか
  ④一つの味か、いくつもの味か
  ⑤オリジナルのものが作れるか、作れないか
  ⑥感謝の気持ちを込めるのか、自分たちだけか
○討論の行方 ~学年通信「蒲公英」より抜粋~
   翌13日の討論会は、前日設定した論点に沿って進行しました。まず、①については「食べる」と「支援」の両方に使うことになり、「食料支援」が何kgかをゲットする権利を得ました。次に論点②では、「味付け」のみが採用され、この段階で「おにぎり①」が脱落しました。続く論点③④では、ともに「オムライス」が対象となることから、論点を選択してもらい、④で争うことになりました。結果は「いくつもの味」だけが支持され、「オムライス」が脱落しました。さらに論点⑤では、「オリジナル」が支持を集め、「アラカルト」が脱落、「おにぎり②」と「手巻きずし」が採用されることになりました。
   いよいよ米の分配です。3グループの要求量は32.5kgで、まだ7.5kgオーバーしています。食料支援グループは、子どもたちの飢餓を問題にしたことがみんなの心を動かし、全量の半分に近い12kgを獲得しました。おにぎり②グループは、のり以外の具は各自持ち寄るということで5kg、手巻きずしグループは、すでにネタを落とす努力をしているということで8kg獲得しました。あとは、実現の時を待つのみです。


   討論が終わった後の感想です。
  □手巻きずしをやることになったのがおどろいた。好きな具を入れるオリジナルが役に立った。前の賛成か反対でやった話し合いよりもいっぱい発言できた。実行するのをがんばる。(手巻きずし・K)
  □討論会は2回目だから1回目に比べ今の方がいっぱい発言できた。私のグループが残ってうれしいでした。1回目の討論会も勝ちました。討論をやっていくうちにだんだんなれてきたから、2回目は1回目より発言できたんだと思います。3回目の討論会をするときは、もっと言えるようにがんばります。(おにぎり②・F)
  □この前の討論会は賛成か反対かを争う討論会だったけど、今のはいくつものグループに分かれての討論会だったので、前やったのよりむずかしかった。何を言えばいいのかよく分からなかった。2回目だったけど、意見もそんなに言えなかったし、きんちょうした。でも1回言ったらけっこうすっきりした。私たちのグループは7人だったけど、負けてしまったのがくやしかった。(おにぎり①・K)
  □10キロもとれないと思っていたけど、12キロとれてよかったです。今回は、1回も発言できませんでした。でもしっかり聞けたと思ったので、評価は2にしました。(食料支援・K)
  □今日、総合の時間に討論会をした。この前の大討論会では1回も手を挙げられなかったけど、今度の討論会では手を挙げられたのでよかった。(おにぎり②・T)
  □負けてくやしすぎる。意見まあまあ言えたのに。でも、支援についてはちょっと賛成かな。(アラカルト・M)
  □私たちが残れなくて残念だったけど、おにぎり②が残ってくれてよかったです。それに、前と同じで楽しかったです。(おにぎり①・H)
  □オムライスが負けたのはくやしかったけど、支援には賛成だったので勝ってくれたのはうれしい。もう一度やるときは、言うことをしっかり決めてからやりたい。(オムライス・S)
  □オムライスを作ることはできなかった。それに、自分の意見を言えなかった。生産調整の討論会の時よりむずかしかった。相手のチームは5つもあって反撃されたら何も言い返せなかった。(オムライス・I)
  □今回も負けてくやしかったけど、無事に決まってよかった。自分たちのアイデアではなかったけど、楽しく仲良く食べたいです。(アラカルト・Y)

《授業について》
○成果と課題
  □担任にとって一番の成果は、取り組みを通して学級集団が育ってきたことである。そのことは、討論が終わった後の子どもたちの感想によく表れている。そうした空気の中で、普段自分から挙手することのない「アラカルトM2」や「手巻き寿司N」が討論に参加できたことは、大きな喜びである。
  □本時のねらいのうち、「米の使い方について、考えのもとになった根拠を示しながら、みんなに分かりやすく提案できる」は、各グループともよく工夫して目標を達成できたと思う。「他のグループの主張と自分の主張を調整しながら意見が言える」については、課題が難しいという点を差し引いても、議論がうまく噛み合っているとは言えない。これは、「考えのもとになった根拠」が真に自分のものになっていないことに起因すると思われる。
  □研究主題の「意欲」については、活発に活動していたという表層的なレベルはともかく、個々の子どもについて詳細な分析はできていない。討論で発言がなかった子どもが、「しっかり聞けたと思ったので、評価は2」だと自己を肯定的に評価している場合もある。子どもの感想を見ると、次の活動につながる思いを書いたものが多い。「意欲的な子ども」に近付く一歩であったととらえたい。
○講師の先生からの助言
  □子どもたちの提案資料がすばらしかった。本に書いてあることなどを丸写しするのではなく、要点を簡潔に示しているのがいい。高学年になると身につけてほしい力が、育っている。
  □子どもたちの発表の仕方がすばらしかった。資料を読むのではなく、自分の言葉で書いた発表原稿を用意し、それを覚えて提案していた。内容が自分のものになっていないとできないことだ。
  □提案の後で討論の論点を子どもたちが出したのには驚いた。とても高度なことなので先生が整理してやればいいと思っていたが、子どもから出るのはすごいことだ。
  □子どもをその気にさせる環境設定や、話し合いにおける教師の助言のタイミングと内容が適切だった。子どもの育ちから見て、話し合いの司会を子どもに任せてもよかったのではないか。

 

 

さて、アクティブ•ラーニングです。

中教審での検討段階で「アクティブ・ラーニング」と表現されていたものは、学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」と置き換えられました。

 

小学校学習指導要領解説「総則編」

第3章 教育課程の編成及び実施

第3節 教育課程の実施と学習評価
1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
(1) 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善(第1章第3の1の(1))
(1) 第1の3の(1) から(3) までに示すことが偏りなく実現されるよう,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら,児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと。
  特に,各教科等において身に付けた知識及び技能を活用したり,思考力,判断力,表現力等や学びに向かう力,人間性等を発揮させたりして,学習の対象となる物事を捉え思考することにより,各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方(以下「見方・考え方」という。)が鍛えられていくことに留意し,児童が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実を図ること。
 本項は,各教科等の指導に当たって,(1) 知識及び技能が習得されるようにすること,(2) 思考力,判断力,表現力等を育成すること,(3) 学びに向かう力,人間性等を涵養することが偏りなく実現されるよう,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら,児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと,その際,各教科等の「見方・考え方」を働かせ,各教科等の学習の過程を重視して充実を図ることを示している。
 平成26年11月20日中央教育審議会への諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」において,具体的な審議事項として,育成すべき資質・能力を確実に育むための学習・指導方法はどうあるべきか,特に今後の「アクティブ・ラーニング」の具体的な在り方についてどのように考えるかを示した。これを受けて,中央教育審議会では,我が国の学校教育の様々な実践や各種の調査結果,学術的な研究成果等を踏まえて検討が行われ,児童に必要な資質・能力を育むための学びの質に着目し,授業改善の取組を活性化していく視点として「主体的・対話的で深い学び」を位置付けた。「主体的な学び」,「対話的な学び」,「深い学び」の視点は,各教科等における優れた授業改善等の取組に共通し,かつ普遍的な要素である。
 児童に求められる資質・能力を育成することを目指した授業改善の取組は,これまでも多くの実践が重ねられており,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うことが,そうした着実に取り組まれてきた実践を否定し,全く異なる指導方法を導入しなければならないことであると捉える必要はない。また,授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく,児童に求められる資質・能力を育むために,児童や学校の実態,指導の内容に応じ,「主体的な学び」,「対話的な学び」,「深い学び」の視点から授業改善を図ることが重要である。
 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の具体的な内容については,中央教育審議会答申において,以下の三つの視点に立った授業改善を行うことが示されている。教科等の特質を踏まえ,具体的な学習内容や児童の状況等に応じて,これらの視点の具体的な内容を手掛かりに,質の高い学びを実現し,学習内容を深く理解し,資質・能力を身に付け,生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにすることが求められている。
① 学ぶことに興味や関心を持ち,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら,見通しをもって粘り強く取り組み,自己の学習活動を振り返って次につなげる主体的な学び」が実現できているかという視点。
② 子供同士の協働,教職員や地域の人との対話,先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ,自己の考えを広げ深める対話的な学び」が実現できているかという視点。
③ 習得・活用・探究という学びの過程の中で,各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう深い学び」が実現できているかという視点。
 また,主体的・対話的で深い学びは,必ずしも1単位時間の授業の中で全てが実現されるものではなく,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して,例えば,主体的に学習に取り組めるよう学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりして自身の学びや変容を自覚できる場面をどこに設定するか,対話によって自分の考えなどを広げたり深めたりする場面をどこに設定するか,学びの深まりをつくりだすために,児童が考える場面と教師が教える場面をどのように組み立てるか,といった観点で授業改善を進めることが重要となる。すなわち,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を考えることは単元や題材など内容や時間のまとまりをどのように構成するかというデザインを考えること他ならない。
 主体的・対話的で深い学びの実現を目指して授業改善を進めるに当たり,特に「深い学び」の視点に関して,各教科等の学びの深まりの鍵となるのが「見方・考え方」である。各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方である「見方・考え方」は,新しい知識及び技能を既にもっている知識及び技能と結び付けながら社会の中で生きて働くものとして習得したり,思考力,判断力,表現力等を豊かなものとしたり,社会や世界にどのように関わるかの視座を形成したりするために重要なものであり,習得・活用・探究という学びの過程の中で働かせることを通じて,より質の高い深い学びにつなげることが重要である。
 なお,各教科等の解説において示している各教科等の特質に応じた「見方・考え方」は,当該教科等における主要なものであり,「深い学び」の視点からは,それらの「見方・考え方」を踏まえながら,学習内容等に応じて柔軟に考えることが重要である。
 また,思考・判断・表現の過程には,
・ 物事の中から問題を見いだし,その問題を定義し解決の方向性を決定し,解決方法を探して計画を立て,結果を予測しながら実行し,振り返って次の問題発見・解決につなげていく過程
・ 精査した情報を基に自分の考えを形成し表現したり,目的や状況等に応じて互いの考えを伝え合い,多様な考えを理解したり,集団としての考えを形成したりしていく過程
・ 思いや考えを基に構想し,意味や価値を創造していく過程の大きく三つがあると考えられる。
 各教科等の特質に応じて,こうした学習の過程を重視して,具体的な学習内容,単元や題材の構成や学習の場面等に応じた方法について研究を重ね,ふさわしい方法を選択しながら,工夫して実践できるようにすることが重要である。
 このため,今回の改訂においては,各教科等の指導計画の作成上の配慮事項として,当該教科等の特質に応じた主体的・対話的で深い学びを実現するための授業改善について示している。具体的には,各教科等の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」の指導計画の作成に当たっての配慮事項として,共通に「単元(題材)など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の育成に向けて,児童の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること」とした上で,当該教科等の特質に応じてどのような学習活動等の充実を図るよう配慮することが求められるかを示している。

 

・  「児童や学校,地域の実態等に応じて,児童が探究的な見方・考え方を働かせ,教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習を行うなど創意工夫を生かした教育活動の充実を図ること」(総合的な学習の時間)

 

 こうした学習は,これまでも各教科等における授業改善の取組の中で充実が図られてきたものであり,今回の改訂においてはそうした蓄積を踏まえ,各教科等において行われる学習活動の質を更に改善・充実させていくための視点として示している。
 前述のように,このような学びの質を高めるための授業改善の取組については,既に多くの実践が積み重ねられてきており,具体的な授業の在り方は,児童の発達の段階や学習課題等により様々である。単元や題材など内容や時間のまとまりを見通した学習を行うに当たり基礎となるような,基礎的・基本的な知識及び技能の習得に課題が見られる場合には,それを身に付けさせるために,児童の学びを深めたり主体性を引き出したりといった工夫を重ねながら,確実な習得を図ることが求められる。児童の実際の状況を踏まえながら,資質・能力を育成するために多様な学習活動を組み合わせて授業を組み立てていくことが重要であり,例えば高度な社会課題の解決だけを目指したり,そのための討論や対話といった学習活動を行ったりすることのみが主体的・対話的で深い学びではない点に留意が必要である。

 

 

中教審 初等中等教育分科会

資料1 教育課程企画特別部会 論点整理

 

4.学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策

 

 (1)「カリキュラム・マネジメント」の重要性

  • 教育課程とは、学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を子供の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画であり、その編成主体は各学校である。各学校には、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて、各学校が設定する教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づきどのような教育課程を編成し、どのようにそれを実施・評価し改善していくのかという「カリキュラム・マネジメント」の確立が求められる。
  • 特に、今回の改訂が目指す理念を実現するためには、教育課程全体を通した取組を通じて、教科横断的な視点から教育活動の改善を行っていくことや、学校全体としての取組を通じて、教科等や学年を越えた組織運営の改善を行っていくことが求められており、各学校が編成する教育課程を核に、どのように教育活動や組織運営などの学校の全体的な在り方を改善していくのかが重要な鍵となる。

 

三つの側面

・こうした「カリキュラム・マネジメント」については、これまで、教育課程の在り方を不断に見直すという下記2.の側面から重視されてきているところであるが、「社会に開かれた教育課程」の実現を通じて子供たちに必要な資質・能力を育成するという新しい学習指導要領等の理念を踏まえ、これからの「カリキュラム・マネジメント」については、以下の三つの側面から捉えられる。

    1. 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと
    2. 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
    3. 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること

 

教育課程全体を通しての取組

・これからの時代に求められる資質・能力を育むためには、各教科等の学習とともに、教科横断的な視点で学習を成り立たせていくことが課題となる。そのため、各教科等における学習の充実はもとより、教科等間のつながりを捉えた学習を進める観点から、教科等間の内容事項について、相互の関連付けや横断を図る手立てや体制を整える必要がある。

・このため、「カリキュラム・マネジメント」を通じて、各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、必要な教育内容を組織的に配列し、更に必要な資源を投入する営みが重要となる。個々の教育活動を教育課程に位置付け、教育活動相互の関係を捉え、教育課程全体と各教科等の内容を往還させる営みが、「カリキュラム・マネジメント」を支えることになる

・特に、特別活動や総合的な学習の時間の実施に当たっては、カリキュラム・マネジメントを通じて、子供たちにどのような資質・能力を育むかを明確にすることが不可欠である。

 

学校全体としての取組

・「カリキュラム・マネジメント」については、校長又は園長を中心としつつ、教科等の縦割りや学年を越えて、学校全体で取り組んでいくことができるよう、学校の組織及び運営についても見直しを図る必要がある。そのためには、管理職のみならず全ての教職員がその必要性を理解し、日々の授業等についても、教育課程全体の中での位置付けを意識しながら取り組む必要がある。また、学習指導要領等を豊かに読み取りながら、各学校の子供たちの姿や地域の実情等と指導内容を照らし合わせ、効果的な年間指導計画等の在り方や、授業時間や週時程の在り方等について、校内研修等を通じて研究を重ねていくことも考えられる。

・こうした「カリキュラム・マネジメント」については、管理職のみならず、全ての教職員が責任を持ち、そのために必要な力を、下記(2)に示す支援方策等を通じて、教員一人一人が身に付けられるようにしていくことが必要である。また、「社会に開かれた教育課程」の観点からは、学校内だけではなく、保護者や地域の人々等を巻き込んだ「カリキュラム・マネジメント」を確立していくことも重要である。

 

「アクティブ・ラーニング」の視点と連動させた学校運営の展開

・なお、2.(3)2.に示した「アクティブ・ラーニング」は、形式的に対話型を取り入れた授業や特定の指導の型を目指した技術の改善に留(とど)まるものではなく、子供たちの質の高い深い学びを引き出すことを意図するものであり、さらに、それを通してどのような資質・能力を育むかという観点から、学習の在り方そのものの問い直しを目指すものである。また、「カリキュラム・マネジメント」は、学校の組織力を高める観点から、学校の組織及び運営について見直しを迫るものである。

・その意味において、次期改訂に向けて提起された「アクティブ・ラーニング」と「カリキュラム・マネジメント」は、授業改善や組織運営の改善など、学校の全体的な改善を行うための鍵となる二つの重要な概念として位置付けられるものであり、相互の連動を図り、機能させることが大切である。教育課程を核に、授業改善及び組織運営の改善に一体的・全体的に迫ることのできる組織文化の形成を図り、「アクティブ・ラーニング」と「カリキュラム・マネジメント」を連動させた学校経営の展開が、それぞれの学校や地域の実態を基に展開されることが求められる。

 

「アクティブ・ラーニング」と「カリキュラム・マネジメント」、なじみの薄い言葉が並んでいますが、合科学習スタイルの総合的な学習の時間と重なるところが多いようです。

スタートは子どもにつけたい力にあり、その目的に迫る組み立てが「カリキュラム・マネジメント」であり、手段・方法としての活動が「アクティブ・ラーニング」ということです。「総合」と「アクティブ・ラーニング」、両者は酷似しているというよりむしろ理念・手法において同じだと言えます。

カギとなるのは教師の「カリキュラム・マネジメント」です。「総合」の理念・手法を発展させていけば道は拓けるはずです。