教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

アクティブ・ラーニングに至る道④ 暗転・確かな学力

2002年に産声を上げた「総合的な学習の時間」は、学校の現場では歓迎されませんでした。「大嫌い」という人が、私の周りには何人もいました。

歓迎されなかった理由は明白です。

教科書のない授業で何をしていいか分からない、活動の準備に時間がかかる…。

 

何とか歩き始めた「総合」に、さらなる不幸が襲いかかります。

 

2003年の「PISAショック」です。

PISAショックとは、OECDが15歳児を対象に行っている国際学力調査(PISA調査)において2003年調査の結果が2000年調査の結果より落ちたことを受けて関係各所に広まったショックのことを指します。

具体的には、2000年調査における「数学的リテラシー」の順位は、参加32ヵ国中1位だったのですが、2003年調査では、参加41ヵ国中6位でした。

 

98年指導要領は「総合的な学習の時間」を切り口として「ゆとりの中での特色のある教育によって生きる力をはぐくむ」という「新学力観」実現のために、教育内容を3割削減しました。文科官僚と周縁の学者にはそれを支持するグループと、学力低下を懸念して反対するグループがありました。

 

PISAショックは「新学力観」反対の人たちを元気づけました。マスコミの宣伝もあいまって、「新学力観」はPISA順位低下の犯人にされてしまいました。

少し冷静に考えれば、2003年の高校1年生は、中2までを1つ前の学習指導要領で学んでいたのですが…。

 

「新学力観」のめざす方向性を基本的に支持していた私には、ヒステリックな喧伝に思えました。が、何としたことか文科省は2005年に学習指導要領の一部を改正するにいたりました。通常10年前後で改訂されるものを、僅か3年余で改正即実施です。

 

改正のキーワードは、「確かな学力」です。

「確かな学力」というのは、知識や技能はもちろんのこと、これに加えて、学ぶ意欲や自分で課題を見付け、自ら学び、主体的に判断し、行動し、よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたものを指します。

 

具体的には、指導要領の総則にその方向性を見ることができます。

 

第2 内容等の取扱いに関する共通的事項

 第2章以下に示す各教科,道徳及び特別活動の内容に関する事項は,特に示す場合を除き,いずれの学校においても取り扱わなければならない。

 学校において特に必要がある場合には,第2章以下に示していない内容を加えて指導することができる。また、第2章以下に示す内容の取扱いのうち内容の範囲や程度等を示す事項は,すべての児童に対して指導するものとする内容の範囲や程度等を示したものであり,学校において特に必要がある場合には,この事項にかかわらず指導することができる。ただし,これらの場合には,第2章以下に示す各教科,道徳,特別活動及び各学年の目標や内容の趣旨を逸脱したり,児童の負担過重となったりすることのないようにしなければならない。

 

わかりやすく言うと、98年指導要領が削減した内容を「発展的な学習」として指導してもいいということです。

 

さて、それでは2005年改正で「総合」や「生きる力」はどうなったでしょうか。

 

指導要領においては変更なしです。

つまり、1998年指導要領を基本的に生かしつつ、授業時数はそのままで教育内容を量的に増やそうというわけです。

 

学校現場の反応は別でした。

もともと歓迎されていなかった「総合」は一層疎まれ、教科指導にカジを切っていきます。

教師一人ひとりのエネルギーは限られています。「総合」の費やされていたエネルギーの多くが、「確かな学力」にシフトしていったのです。