教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

難解、文科語。たとえば「生きる力」⑤

「生きる力」の変節の背景

 

1998「生きる力」2008「生きる力」の間に、なにがあったのでしょう。

 

時系列で見ていきます。

 

1999年6月1日、『分数ができない大学生―21世紀の日本が危ない』という本が出版されます。話題になった本です。「生きる力」「ゆとり」教育は、船出前から批判にさらされていました。

 

「確かな学力の向上のための2002アピール-学びのすすめ 」(2002「学びのすすめ」)

2002年1月17日、遠山敦子文部科学大臣が、「確かな学力の向上のための2002アピール-学びのすすめ 」を発表します。

その中で、(1)少人数授業、習熟度別指導等による基礎基本や自ら学び考える力の育成、(2)個性等に応じた発展的学習の推進、(3)総合的学習等による学習意欲の向上、(4)朝読書や補習・家庭学習の充実による学ぶ習慣の育成、(5)学力向上フロンティア事業等による特色ある学校づくりの推進、を柱とする学力向上のための諸施策を示し、教育委員会と学校にそのための諸方策の実施を求めました。

遠山大臣(2001年4月26日、小泉内閣発足時に民間から登用)は元文部官僚ですが、こんな文章を一人で書くはずがありません。間違いなく文科官僚の作文です。

そして2002「学びのすすめ」を主導した文科官僚は、1996中教審答申や1998学習指導要領を主導した文部官僚とは明らかに別「グループ」の人たちです。仮に1998を「ゆとり」グループ、2002を「学力」グループとします。

2002「学びのすすめ」は、学力低下論争、2002年4月からの完全学校五日制と新学習指導要領の実施に対する批判に対応したものです。内容的には「ゆとり教育」との決別です。

「生きる力」「ゆとり」教育(98学習指導要領)は、4月からのスタートを前に、担当大臣からハシゴを外されました。

人間性」を疑いたくなると言いたいところですが、文科省にはもともと「人格」などありません。「匿名」で仕事をし、「省名」で公表します。私は、官僚の主導権争いになど興味のかけらもありませんが、現場はいい迷惑です。現場は、「実名」で子どもと向き合い、個々の子どもの学びに責任を負っているのです。

 

PISAOECD生徒の学習到達度調査)2003年調査」(PISA2003)

2004年12月7日、「PISAOECD生徒の学習到達度調査)2003年調査」(PISA2003)の結果が公表されます。

2000年の調査では、日本は数学1位、科学2位、読解力8位でしたが、2003年には数学が10位、科学が6位、読解力が15位と急落しました。これが「PISAショック」と呼ばれるものです。

これを受けて、文科行政の主導権は完全に「学力」グループが握ります。

 

教育基本法改正

2006年12月15日、 教育基本法が改正されます。(2006年9月26日に第1次安倍内閣が発足)

 

学校教育法改正「学力の3要素」

2007年6月27日、学校教育法が改正されます。

「学力」が法的に定義されました。

「第三十条 ② 前項の場合においては、生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。」

一般に「学力の3要素」(①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)と呼ばれています。

 

2008中教審答申

2008年1月17日、中教審から「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」答申が出されます。

2008年3月28日、2008学習指導要領が公示されます。

つまり、学習指導要領は中教審答申を受けて編まれたのではなく、答申時にはほぼ完成していたということになりそうです。しかしそこに書かれていることは間違いなく学習指導要領の背景ですので、長くなりますが該当箇所を引用します。

幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)

 

2.現行学習指導要領の理念


(現行学習指導要領の理念の重要性)


現行学習指導要領は、平成8年7月の中央教育審議会答申(「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」)を踏まえ、変化の激しい社会を担う子どもたちに必要な力は、基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性たくましく生きるための健康や体力などの「生きる力」であるとの理念に立脚している。この「生きる力」は、自己の人格を磨き、豊かな人生を送る上でも不可欠である。

引用を中断します。

平成8年7月の中央教育審議会答申(「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」)の原文はこうです。

「我々はこれからの子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称することとし、これらをバランスよくはぐくんでいくことが重要であると考えた。」

基礎・基本を確実に身に付け」の文言は答申にはありません。

1998学習指導要領には、「生きる力をはぐくむことを目指し、…、自ら学び自ら考える力の育成を図るとともに、基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り個性を生かす教育の充実に努めなければならない。」とあります。

2つをミックスして、恣意的に取り上げる順番を変えています。

 

○ この点について今回改めて検討を行ったが、平成8年の答申以降、1990年代半ばから現在にかけて顕著になった、「知識基盤社会」の時代などと言われる社会の構造的な変化の中で、「生きる力」をはぐくむという理念はますます重要になっていると考えられる。


(「知識基盤社会」の時代と「生きる力」)


○ すなわち、平成17年の中央教育審議会答申(「我が国の高等教育の将来像」)が指摘するとおり、21世紀は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」(knowledge-based society)の時代であると言われている。
「知識基盤社会」の特質としては、例えば、①知識には国境がなく、グローバル化
一層進む、②知識は日進月歩であり、競争と技術革新が絶え間なく生まれる、③知識の進展は旧来のパラダイムの転換を伴うことが多く、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく判断が一層重要になる、④性別や年齢を問わず参画することが促進される、などを挙げることができる。


○ このような知識基盤社会化やグローバル化は、アイディアなどの知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させるとともに、異なる文化・文明との共存や国際協力の必要性を増大させている。
「競争」の観点からは、事前規制社会から事後チェック社会への転換が行われており、金融の自由化、労働法制の弾力化など社会経済の各分野での規制緩和や司法制度改革などの制度改革が進んでいる。このような社会において、自己責任を果たし、他者と切磋琢磨しつつ一定の役割を果たすためには、基礎的・基本的な知識・技能の習得やそれらを活用して課題を見いだし、解決するための思考力・判断力・表現力等が必要である。
しかも、知識・技能は、陳腐化しないよう常に更新する必要がある。生涯にわたって学ぶことが求められており、学校教育はそのための重要な基盤である。
他方、同時に、「共存・協力」も必要である。国や社会の間を情報や人材が行き交い、相互に密接・複雑に関連する中で、世界や我が国社会が持続可能な発展を遂げるためには、環境問題や少子・高齢化といった課題に協力しながら積極的に対応することが求められる。このような社会では、自己との対話を重ねつつ、他者や社会、自然や環境と共に生きる、積極的な「開かれた個」であることが求められる。
また、グローバル化の中で、自分とは異なる文化や歴史に立脚する人々と共存してい
くためには、自らの国や地域の伝統や文化についての理解を深め、尊重する態度を身に付けることが重要になっている。


○ もちろん、知識基盤社会化やグローバル化の時代だからこそ、身近な地域社会の課題の解決にその一員として主体的に参画し、地域社会の発展に貢献しようとする意識や態度をはぐくむこともますます必要となっている。


○ このように個人は他者や社会などとのかかわりの中で生きるものであるが、一人一人の個人には興味や関心、持ち味に違いがある。さらに、変化の激しい社会の中では、困難に直面することも少なくないことや高齢化社会での長い生涯を見通した時、他者や社会の中で切磋琢磨しつつも、他方で、読書などを通して自己と対話しながら、自分自身を深めることも大切である。


○ これまで述べてきたとおり、社会の構造的な変化の中で大人自身が変化に対応する能力を求められている。そのことを前提に、次代を担う子どもたちに必要な力を一言で示すとすれば、まさに平成8年(1996年)の中央教育審議会答申で提唱された「生きる力」にほかならない。


○ このような認識は、国際的にも共有されている。経済協力開発機構OECD)は、1997年から2003年にかけて、多くの国々の認知科学や評価の専門家、教育関係者などの協力を得て、「知識基盤社会」の時代を担う子どもたちに必要な能力を、「主要能力(キーコンピテンシー)」として定義付け、国際的に比較する調査を開始している。このような動きを受け、各国においては、学校の教育課程の国際的な通用性がこれまで以上に強く意識されるようになっているが、「生きる力」は、その内容のみならず、社会において子どもたちに必要となる力をまず明確にし、そこから教育の在り方を改善するという考え方において、この主要能力(キーコンピテンシー)という考え方を先取りしていたと言ってもよい。
また、内閣府人間力戦略研究会の「人間力戦略研究会報告書」(平成15年4月)を
もとにした「人間力」という考え方なども同様である。


(改正教育基本法等と「生きる力」)


○ 平成18年12月に約60年ぶりに改正された教育基本法において新たに教育の目標等が規定された。同法第2条は、知・徳・体の調和のとれた発達(第1号)を基本としつつ、個人の自立(第2号)、他者や社会との関係(第3号)、自然や環境との関係(第4号)、日本の伝統や文化を基盤として国際社会を生きる日本人(第5号)、という観点から具体的な教育の目標を定めた。


○ また、平成19年6月に公布された学校教育法の一部改正により、教育基本法の改正を踏まえて、義務教育の目標が具体的に示されるとともに、小・中・高等学校等においては、「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と定められた(第30条第2項、第49条、第62条等)。


○ これらの規定は、その定義が常に議論されてきた学力の重要な要素は、
① 基礎的・基本的な知識・技能の習得
② 知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等
③ 学習意欲
であることを明確に示すものである。


○ このように、改正教育基本法及び学校教育法の一部改正によって明確に示された教育の基本理念は、現行学習指導要領が重視している「生きる力」の育成にほかならない。

再び引用を中断します。

1998学習指導要領(上記引用中の現行学習指導要領)には、「生きる力をはぐくむことを目指し、…、自ら学び自ら考える力の育成を図るとともに、基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り個性を生かす教育の充実に努めなければならない。」とあります。

これと「学力の3要素」が同じだというのですが、明らかな言い換えです。

知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等」と「自ら学び自ら考える力」は、課題設定の立ち位置も意味内容も違います。

 

5.学習指導要領改訂の基本的な考え方


(1) 改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂


○ 次に、改正教育基本法や学校教育法の一部改正は、「生きる力」を支える「確かな学力」、「豊かな心」、「健やかな体」の調和を重視するとともに、学力の重要な要素は、①基礎的・基本的な知識・技能の習得、②知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等、③学習意欲、であることを示した。そこで示された教育の基本理念は、現行学習指導要領が重視している「生きる力」の育成にほかならない。

またしても引用を中断します。

「生きる力」=「確かな学力」、「豊かな心」、「健やかな体」ですか。

1998中教審答申は、「生きる力」=「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」、「豊かな人間性」、「健康や体力」です。

1998学習指導要領は、「生きる力」=「自ら学び自ら考える力」、「基礎的・基本的な内容の確実な定着」、「個性を生かす教育の充実」です。

改正教育基本法や学校教育法の一部改正で示された教育の基本理念は、現行学習指導要領が重視している「生きる力」の育成にほかならない。」などと、どんな日本語の読解力があれば言えるのでしょう。1998「生きる力」のキモ部分(「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」=「自ら学び自ら考える力)を削除して引用し、同じだと断言する。恐るべき言語能力です。

 

○ このため、今回の学習指導要領改訂では、改正教育基本法等で示された教育の基本理念を踏まえるとともに、現在の子どもたちの課題への対応の視点から、
① 「生きる力」という理念の共有
② 基礎的・基本的な知識・技能の習得
③ 思考力・判断力・表現力等の育成
④ 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保
⑤ 学習意欲の向上や学習習慣の確立
⑥ 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実
がポイントであり、その中でも、特に、②を基盤とした③、⑤及び⑥が重要と考えた。


(2) 「生きる力」という理念の共有


○ どんな組織でも構成するメンバーで理念や目標が共有されていなければ、それを実
現・達成することはできない。4.(2)の第一にあるとおり、何よりも教師や保護者を含む大人自身が「知識基盤社会」の時代の中にあって変化への対応を日々求められていることを前提に、子どもたちの「生きる力」をはぐくむことの必要性や「生きる力」の内容を教育関係者や保護者、社会が自ら考え、理解の上共有することは、今回の学習指導要領改訂に際してまず行わなければならないことである。


○ 「生きる力」という目標を関係者で共有するに当たっては、特に、次の3点を重視したい。
第一は、変化が激しく、新しい未知の課題に試行錯誤しながらも対応することが求め
られる複雑で難しい時代を担う子どもたちにとって、将来の職業や生活を見通して、社会において自立的に生きるために必要とされる力が「生きる力」であるということである。これからの学校は、進学や就職について子どもたちの希望を成就させるだけではその責任を果たしたことにはならない。
第二は、このような変化の激しい社会で自立的に生きる上で重要な能力であるものの、我が国の子どもたちにとって課題となっている思考力・判断力・表現力等をはぐくむためには、各教科において、基礎的・基本的な知識・技能をしっかりと習得させるとともに観察・実験やレポートの作成、論述といった知識・技能を活用する学習活動を行う必要があることである。
したがって、特に、教科担任制の中・高等学校の教師には、レポートの作成・推敲や
論述といった学習活動を行うのはすべてが国語科の役割だと考えるのではなく、必要に応じ国語科の教師と連携して、これらの学習活動を自らが担当する教科において行うことを求めたい。このような活動を行うことは、学校の教育活動全体で子どもたちの思考力・判断力・表現力等をはぐくむとともに、その教科の知識・技能の確実な定着にも結び付くものである。
第三は、自分に自信がもてず、自らの将来や人間関係に不安を抱えているといった子
どもたちの現状を踏まえると、コミュニケーションや感性・情緒、知的活動の基盤である国語をはじめとした言語の能力の重視や体験活動の充実を図ることにより、子どもたちに、他者、社会、自然・環境とのかかわりの中で、これらと共に生きる自分への自信をもたせる必要があることである*1。

*1 教育課程部会では、このような観点から、「生きる力」をはぐくむに当たって重要な要素の例として次の内容を整理した。
・ 自己に関すること (例) 自己理解(自尊・自己肯定)・自己責任(自律・自制)、健康増進、意思決定、将来設計
・ 自己と他者との関係(例) 協調性・責任感、感性・表現、人間関係形成
・ 自己と自然などとの関係 (例) 生命尊重、自然・環境理解
・ 個人と社会との関係 (例) 責任・権利・勤労、社会・文化理解、言語・情報活用、知識・技術活用、課題発見・解決

文部科学省教育委員会等が学習指導要領の具体的な規定や学習指導要領改訂の趣旨や内容についての教育関係者等への説明に当たっては、このような「生きる力」という理念の共有を最も重視する必要がある。
また、教育関係者だけではなく、保護者をはじめ広く国民に学校教育の目指している
方向性への理解を求めることも極めて重要であり、積極的な情報発信が必要である。


(3) 基礎的・基本的な知識・技能の習得


○ 4.(2)の第二にあるとおり、「自ら学び自ら考える力の育成」といった「生きる力」の理念は、基礎的・基本的な知識・技能の習得を重視した上で、思考力・判断力・表現力等をはぐくむことを目標としている

 


(5) 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保


○ 4.(2)の第四にあるとおり、現行学習指導要領は、自ら学び自ら考える力の育成の観点から、総合的な学習の時間の創設や中学校における選択教科の授業時数を充実し、必修教科の授業時数を削減した。
しかし、子どもたちの思考力・判断力・表現力等をはぐくむため、教科において、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、観察・実験やレポートの作成、論述といった知識・技能を活用する学習活動を行うためには、現在の小・中学校の必修教科の授業時数は十分ではない。


○ このため、各教科において、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、それぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を充実することができるよう、特定の必修教科の授業時数を確保することが必要である。授業時数の確保に当たっては、これらの学習活動を各教科で行うことを前提に、教科等を横断した課題解決的な学習や探究活動を行うという総合的な学習の時間と各教科との円滑な接続を図る観点から、総合的な学習の時間や中学校の選択教科の授業時数の在り方を見直す必要がある。また、学校の実態等を踏まえ年間授業時数を増加する必要がある。

 

とにもかくにも、「確かな学力」(基礎的・基本的な知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力) が大事だという結論ありきです。

「自ら学び自ら考える力の育成」といった「生きる力」の理念は、基礎的・基本的な知識・技能の習得を重視した上で、思考力・判断力・表現力等をはぐくむことを目標としている

1998中教審答申では、「生きる力」という理念を構成する資質・能力の1つが「自ら学び自ら考える力」でした。いつの間にか、「自ら学び自ら考える力」は「『生きる力』の理念」になってしまっています。

理念をめざす具体的目標が、「基礎的・基本的な知識・技能の習得を重視した上で、思考力・判断力・表現力等をはぐくむこと」だというわけです。唖然とします。

それはまるで、都合の悪い社長を権限を持たない名誉職に祭り上げる人事のようです。

 

文科省用語辞典」を作るとします。

「生きる力」の項です。

2つの案が浮かびます。

(1案)

「生きる力」①1998「生きる力」の説明②2008「生きる力」の説明

(2案)

「1998生きる力」対義語「2008生きる力」

さて、どうしたものでしょうか。

 

私は、教育のあり方が時代とともに変化することを否定するものではありません。

初出である「1998生きる力」を、金科玉条のごとく扱えと言っているのでもありません。

基礎的・基本的な知識・技能の習得を重視した上で、思考力・判断力・表現力等をはぐくむこと」に反対しているわけでもありません。

しかし、「」を「=」として構築される教育には賛同できません。

難解文科省用語「生きる力」のかげで、現場は脱力感に陥り、失望し、疲弊していっているのです。

 

2017年3月31日、次なる小学校学習指導要領(2021年時点における現行学習指導要領)が告示されます。