「生きる力」のさらなる変節
2017年3月31日、小学校学習指導要領が告示されます。
小学校学習指導要領(平成 29 年告示)
平成 29 年 3 月 告示
第1章 総則
第1 小学校教育の基本と教育課程の役割2 学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,第3の1に示す主
体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で,次の⑴から⑶までに掲げる事項の実現を図り,児童に生きる力を育むことを目指すものとする。
⑴ 基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力等を育むとともに,主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かし多様な人々との協働を促す教育の充実に努めること。
⑵ 道徳教育や体験活動,多様な表現や鑑賞の活動等を通して,豊かな心や創造性の涵養を目指した教育の充実に努めること。
学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,……。
⑶ 学校における体育・健康に関する指導を,児童の発達の段階を考慮して,学校の教育活動全体を通じて適切に行うことにより,健康で安全な生活と豊かなスポーツライフの実現を目指した教育の充実に努めること。
2017学習指導要領においても、「生きる力」は健在です。
健在というより、該当箇所の文章が以前のものよりボリュームアップしています。
ここで、歴代「生きる力」を比較します。
1998「生きる力」
「自ら学び自ら考える力の育成」
「基礎的・基本的な内容の確実な定着」
「個性を生かす教育の充実」
2008「生きる力」
「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得」
「思考力,判断力,表現力その他の能力」
「主体的に学習に取り組む態度」
「個性を生かす教育の充実」
2017「生きる力」
主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して
「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得」
「思考力,判断力,表現力等」
「主体的に学習に取り組む態度」
「個性を生かし多様な人々との協働を促す教育」
「道徳教育(道徳科)」
「体育・健康」
2017「生きる力」の最大の特徴は、「生きる力」をはぐくむ教育活動の大前提として「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して」という文言が加わったことです。
1996中教審[生きる力]は、次の3つの柱で構成されていました。
・自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力
・豊かな人間性
・たくましく生きるための健康や体力
1998・2008学習指導要領は、「豊かな人間性」「たくましく生きるための健康や体力」については「生きる力」ではなく別の段落で取り上げていました。
2017学習指導要領は、「豊かな人間性」=「道徳教育(道徳科)」、「たくましく生きるための健康や体力」=「体育・健康」として、「生きる力」の文脈の中で取り上げています。
2017「生きる力」は、2016年12月21日に出された中教審の「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(2016中教審答申)を反映しています。
2016中教審答申では、アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)がクローズアップされました。この「どのような学ぶか」という命題が、「生きる力」にも被せられたわけです。