教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

尾木ママに学んだ学級崩壊④

尾木ママに学んだ学級崩壊③》の続編です。
2009年8月にまとめた「『学級崩壊』をスタートラインとして ~何がこのクラスの課題なのか~」がベースになっています。
本稿では、学級崩壊を超えるために行った「自立支援」の取り組みから、「家庭の教育力」に関する部分を紹介します。

 

 

 

5 学級崩壊を超える2 ~自立支援~

 

 (4) 家庭の教育力を回復する

 

  ① 子どもや学級の変化を共有することで学校への信頼を回復する


 学級通信では、子どもや学級の変化が感じられる日記を積極的に紹介した。子ども向けに発行しているものだが、保護者の目にも触れるだろう。それをきっかけに、子どもが学校でのことを生き生きと語るようになれば、保護者の心も和らぐに違いない。

№2(4月8日)「出会いはハッピー!!」、

№4(4月15日)「いいぞ、その調子!!」、

№6(4月27日)「今年はじめての参観日」、

№7(5月8日)「GWかく過ごせり」、

№8(4月13日)「くわしく書くということ」、

№9(5月26日)「5月22日の風景点描」、

№10(6月2日)「遠足でちょっとお兄ちゃんになった」、

№11(6月2日)「雨にも負けず、みんなで遊べばハッピー」、

№12(6月8日)「クラス平均80点突破!!」、

№13(6月22日)「先生たちに授業を見てもらいました」と続き、

次に紹介する№14(6月22日)「子どもたちの今」に至る。

 

おうちの方へ特集号 子どもたちの今


 最初の2ヶ月が勝負と決めていた2ヶ月が過ぎました。子どもたちの「今」を報告したいと思います。


空気が変わった


 金曜日の参観日に来ていただいて、教室の空気が変わったと感じられませんでしたか。子どもたちの顔が明るく、優しい表情になってきたと感じられませんでしたか。今がクラスにとって潮目の時期だと、私はとらえています。


 参観でブロック遊びを見ていただいたのには、わけがあります。競争だけれど勝敗にこだわらない姿や、友だちと協力して(もちろん、男女を問わず)一つの物を作り上げる姿を見ていただきたかったのです。そして、それを「楽しい」と感じている子どもの表情を見ていただきたかったのです。さらには、クラスのみんなが一つの課題に向き合っている、学びの姿勢を見ていただきたかったのです。


 課題は山ほどあります。しかし、最初の2ヶ月でと考えていた目標は、おおむね達成したと考えています。次は、「ステップ」段階です。


学びをつくる


 教室の空気の問題は、AAAの2つ目のA、つまり、「あたたかいハートで生きよう」という目標と深く関わっています。


 算数で班学習を行うようになって、子どもたちに変化が現れました。学習に主体的に取り組むようになったのです。宿題はキライなのに、班で決めた課題は一生懸命やってくるのです。教え合うことで、教える子と教えられる子双方の学力アップも見られました。ただ、なかなか歯車が噛み合わない班もありました。


 「人間コピー」というゲームを3回行いました。子どもには大好評で、毎回、ものすごい盛り上がりようでした。3回目は、算数の学習班でしました。教室の後ろに貼ってあったのをご覧になった方もおられるでしょうか。その感想でKRくんは、「みんなで協力してやっていると、班の団結が強くなると思った」と書いていました。私がゲームを通して子どもたちに付けたいと思っていたことと、子どもの受け止めが重なり合ってきました。


 18日の木曜日、先生方に国語の授業を見ていただきました。その様子は、№13の子どもの日記である程度分かっていただけるかと思います。SaAさんは、「この5分はなんだか速く過ぎていったなと今も思う。この時、国語が楽しいなとひさしぶりに思った。」と書いています。ちょっと難しい課題に真剣に取り組んで、時間が早く過ぎたと感じた。そのことで、国語が楽しいと思ったというのです。SiAさんは、指名されたとき答えられなくて残念だったんだけど、友だちの発言に「なるほど」と思い、そんな授業がとても楽しかったというのです。KHくんは、「みんなでやったので、けっこうできてよかった」と書いています。くんは、答えがあっていたことがうれしく、楽しかったといいます。ここに出てくる「楽しさ」は、子どもたちが大好きなボール遊びの「楽しさ」とは少し違います。それはまだほんの1コマかもしれませんが、学びに向き合う楽しさです。それも、仲間たちの中で学び取る楽しさです。


 全授業時間、私が教室にいる状況は続いています。これからもまだまだ紆余曲折があるでしょう。今回は紹介できませんでしたが、多くの子どもたちが、ものすごい緊張感の中で18日の授業を迎えたようです。敢えてこの時期に研究授業というのは、私も相応の覚悟を決めて臨んだのですが、子どもたちも同じ思いを持っていたのでしょう。振り返った時、「きっとあそこがターニングポイントだったんだね。」と言える日になると思います。学級集団、学習集団への歩みが、今始まります。

 


  ② 子どもの生活の立て直しに協力を求める


 「協働」というのは、複数の主体が、何らかの目標を共有し、ともに力を合わせて活動するというスタイルを言う。子育て全般においても、学級崩壊からの脱出という課題に限っても、学校と家庭の「協働」は欠かせない。信頼関係に比例して、パイプの太さが決まる。


 教室の営みを知らせつつ、繰り返し協力をお願いするしかない。押し付けはしたくないが、「子育て講座」の必要性を感じるような実態もある。学級通信№5(4月20日)では、次のように呼びかけた。

おうちの方へ特集号


キーワードは「7時、朝ご飯、2時間」


 山口県のある市で、全ての小中学校が参加して「生活改善・学力向上プロジェクト」の取り組みが展開されました。昨年9月末、その成果が『学力は1年で伸びる!』という著書で公表されました。結論から言えば、全学校の全クラスの学力が1年で伸びています。全学校の全クラスという点に大きな意義があります。


 学校での取り組みの特徴は、脳と心を鍛えるモジュール授業にあります。週3回、1時間目の授業を3つのモジュールに分けます。朝1番の「音読」で脳を活性化させます。続く「百マス計算」では集中力とスピードで脳を活性化させます。3つ目の枠は各クラス多様に展開されています。こうして脳のウォーミングアップをしておいて、2時間目以降の授業の効果を高めようというのです。脳を活性化させること(=脳の前頭前野を鍛えること)の有効性は最近の脳科学が実証していますが、その要素が寺子屋の「読み・書き・計算」にあったとは…。昨年の6年生のクラスでも2学期後半から採り入れてみましたが、生き生きと次の授業を迎えることができたと思います。今年の取り組みについては、通信の№3をご覧ください。


 先のプロジェクトは、生活習慣が学力とどう関係しているかを明らかにし、具体的な生活改善を提案しています。起床時間を例にとれば、何時に起きている子の国語と算数の学力は何点というようにクロス集計を行い、そこから7時以降に起きる子の学力が明らかに低いという関係性を見つけていきます。


【提言1】7時までに起きよう
 起床時間が1日の生活のリズムを決めます。できれば6時半までに起きることが望ましいです。


【提言2】毎日必ず朝ご飯を食べよう
 朝ご飯を食べない子どもの知能・学力は極端に低くなっています。授業に集中できず、落ち着きがなくなることが原因です。


【提言3】低学年は9時までに、高学年は10時までに寝よう
 10時以降、就寝時間が遅いほど学力が下がっていきます。「寝る子は育つ」と昔から言いますね。


【提言4】テレビ・ゲーム・ネットは、高学年では2時間が目安
 短ければ短いほど学力は高くなっています。


【提言5】毎日勉強しよう 勉強時間は20分×学年が目安
 毎日、2~3時間勉強している子の学力が最も高くなっています。4時間以上は逆に低くなっています。短時間集中がいいようです。


【提言6】いろいろな本をどんどん読もう
 読書量が多くなるほど知能・学力が高くなっています。

 

 6つの提言は、互いにつながりあって1日の生活リズムを作っています。まずお願いしたいことは、「7時までに起床」「朝ご飯」「テレビとゲームは2時間まで」の徹底です。テレビを消すことで、勉強時間と読書時間が生まれます。勉強=宿題ではありません。予習や復習、宿題プリントの間違い直しなど、自分で課題を見つけて取り組む習慣を付けたいものです。勉強時間の終わりに翌日の準備をすれば、忘れ物もなくなるはずです。子どもの生活を一緒に作ってください。


 崩れてしまった生活と学力を立て直すには、家庭と学校の二人三脚が不可欠です。子どもが持っている水色のファイルには、数種類の点検表が綴じられています。遊びと習い事を軸にしたこれまでの生活を、学校での学びを軸にした本来の生活に戻すためのカードです。自分を見つめさせ、気付かせ、めあてを持たせるためのカードです。どうか、時々でいいですから目を通し、子どものやる気を励ましてやってください。学級での取り組みへのご理解と、ご家庭でのご協力を心よりお願いします。

 

 さらに、学級通信№12(6月8日)では、子どもたちの頑張りを知らせるとともに、再び協力を呼びかけた。家庭の事情も分かるのだが、親にもビジョンがなけれど徒労感が募る。

クラス平均80点突破!!


2ヶ月の成果


 5年生のスタートから2ヶ月で、最初の目標をクリアした。

 次の表を見てほしい。これは、3年生と4年生の計算問題から、かけ算5問とわり算7問を取り出して100点満点に直したものだ。(略)
 4月7日の平均点は、約65点だった。それが6月5日の再テストでは、約81点になった。わずか2ヶ月で16点も上がったことになる。これはびっくりするほどすごいことだ。


 5年生がスタートしたころと今と、どこがどう変わったのだろう。一人ひとりの変化、成長をふり返ってほしい。中には、点数が60点、50点アップした人もいる。この人たちは、授業への集中度がちがってきている。しかし、80点の合格ラインに達していない人も●人いる。クラスの3分の1だ。その人たちも4月と比べると20点近くアップしたが、合格ラインまではさらに20点以上が必要だ。次の目標は、2学期に勉強する小数のかけ算・わり算までにわり算の平均点を80点以上にすること、合格者を80%以上にすることだ。
 再々テストは、「100日計算」終了後の9月はじめを予定している。継続は力なり、がんばろう。


おうちの方へ テレビを消しましょう


 先日、全学年で生活調べのアンケートをしました。結果は後日お知らせすることになると思いますが、5年生の調査用紙を見ていて気がかりなことがありました。
 平日(月~金曜日)、テレビやゲームに費やしている時間が4時間以上の子どもが、10人を超えています。この数の多さには目を疑うばかりです。就寝時刻は10時前後に集中していますので、夕方以降、テレビ漬け状態になっていることになります。これで果たして高学年の家庭学習が可能でしょうか。学習の用意も含めて、明日も頑張ろうという心の準備はできるのでしょうか。


 通信の№5で、「7時までに起床」「朝ご飯」「テレビとゲームは2時間まで」の徹底をお願いしました。繰り返しになりますが、子どもの学力アップはテレビを消すことから始まります。子どもの頑張りを後押しするためにも、是非ともご協力ください。


 かけ算・わり算のチェックテストの結果と子どもの生活に、通信№5で紹介したのと同様の相関関係が浮かんできました。


 まず、起床時刻が7時以降の子がいました。7時以降に起きる子の学力が明らかに低いという関係性が、歴然とあらわれました。また、望ましいとされる「6時半までに」起床の子は、合格ラインに達しない子にはほとんどいませんでした。さらに、朝食を食べない子の点数が極端に低くなるという傾向が、今回の結果に顕著にあらわれていました。つまり、朝の生活リズムをしっかり確立させることが、子どもの学力には絶対に必要なのです。


 これも先の繰り返しになりますが、崩れてしまった生活と学力を立て直すには、家庭と学校の二人三脚が不可欠です。学校での子どもたちは、まだまだ十分なレベルではありませんが、少しずつ生活の落ち着きと学力を取り戻しつつあります。集合体としてのクラスの機能も回復しつつあります。タイミングを逃せば、停滞が始まります。今こそ、子どもの生活を立て直してください。ご協力を心よりお願いします。

 

年度末の人事異動で、私は近隣の学校に転勤しました。

子どもたちが6年生になって1カ月ほど経ったころのことでした。放課後、多くの子どもたちが数台の保護者の車に分乗して、転勤先の学校へ来てくれました。寄せ書きの色紙を持って… 。

色紙には「ぼくたちをまともにしてくれた」という文字がありました。不十分なままでの異動で子どもには申し訳なかったのですが、1年間を好意的に受け止めてもらえたことにいくらか安堵しました。