教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

生活を綴る④

■計画的な綴り方(作文)指導■

 

 「計画的な指導」とは、本来的には、国語科の年間指導計画に位置づけて行う作文指導のことである。

 

 私は、『現代つづりかたの伝統と創造』(国分一太郎 1982年)と『日記指導と生活綴方』(橋本誠一 1979年)から多くのことを学んだ。

 国分さんは1911年生まれで、先の著書が出版された3年後に亡くなられている。私にとっての国分さんは、理論的支柱だ。一方の橋本さんは青森の人で1930年生まれ。私は、19800年に岡山県で氏の実践を聞いた。50歳とは思えないエネルギッシュな人で、確か学級開きの日のくだりだったと思うが、「『大』という字は、なぜこう書くか知ってるか。」と言うなり、机の上に両手・両足を広げて立ち上がられたのを今も鮮明に覚えている。それは、子どもたちを学びの世界の引き込む、鮮やかな技だった。後の政治的発言では幻滅したが…。それはともかく、私にとっての2冊のバイブルは今や絶版となってしまっている。

 

 以前の教科書は、不十分ながらも系統的な作文指導をめざしていた。だから、年間指導計画を修正すれば、作文指導に充てる時間を確保できた。しかし、今般の教科書ではそれは難しい。(この文章は2014年3月ごろに書いたものですので、現状は一層厳しいと言えます。)

 したがって、年間計画の中に指導の時間をつくるか、「常日ごろの指導」に「計画的な指導」の要素を持たせるか、何らかの工夫をしなければならない。--というのが客観的な状況である。

 当面の目標としては、すべての教室で「しっかりと思い出して展開的過去形で綴る」力を育てることをめざしたい。

 


 次に、「計画的な指導」における記述指導を意識しつつ、「常日ごろの指導」の日記指導を行った5年生1学期の記録(学級通信の一部)を紹介します。

 

「日記を書こう」シリーズ① 2003.4.21


アンテナを張って生活しよう


 1週間日記の宿題が続いた。ある人が、書くことがなくて困っているという日記を書いていた。習い事や買い物などに行ったことと、遊んだことが、「題材」の多くをしめている。そうしたことのなかった日は、「書くことがない」となってしまう。ところが、日記のネタというのはどこにでもあって、しっかりとアンテナを張って生活していると、実にたくさんの「書くこと」に出合っているのだ。紹介しよう。

 

「家のくらし」編

 

四月十七日 わらび UM
 今日、おばあちゃんとわらびをつみに行きました。森みたいな所に入ったりしました。半ズボンだったので少しかゆいし、いたいでした。
 わらびは、大きいものも小さいものも中くらいのものもありました。三十センチぐらいのから十センチぐらいまでありました。
 とてもたくさんとりました。たくさんとったらとてもおもたかったです。でも、たのしかったです。

 

四月十六日 料理 KY
 今日、お母さんのお手伝いをしました。そのお手伝いとは、料理を手伝いました。私が何をしたかというと、最初はハンバーグを焼きました。ひっくり返すのがむずかしかったです。ハンバーグをフライパンに入れるのは、こわかったです。
 次に、サラダの味つけをしました。まず最初に、さとうを入れます。そして次に、すを入れます。最後に、マヨネーズをたっぷり入れます。最後に、なっとうにたれを入れたり、なっとうを皿に入れたりしました。最初はなっとうを入れただけでまぜました。まぜにくいでした。たれを入れてもう一度まぜました。そしたらかん単にまぜられました。また、料理を作ったりしたいです。

 

後略

 

家族と一緒に働いたこと、お手伝いしたこと、そしてテレビの番組や読書した本のことなども、みんな日記のネタになるんだ。いつもいつものことだけど、いつもよりちょっと心を動かされたことを、しっかりと書きとめよう。

 

 

「日記を書こう」シリーズ② 2003.4.21


アンテナを張って生活しよう②


 きみたちは、1日のかなりの時間を学校で過ごしている。登下校の時間を合わせると、3分の1以上になる。友だちと過ごす時間や授業の中で、実にたくさんの「書くこと」に出会っている。登下校の途中でだって、やっぱり出会っている。ある人は、「やっと、桜が咲いてきた」と季節の移り変わりを書きとめていた。これも大事な日記のネタだ。今回は「学校生活」にしぼって紹介しよう。


「学校生活」編

 

四月十七日 集会の練習 OH
 今日、体育館で集会の練習がありました。きんちょうしました。私は、「はじめにグループごとにあつまって、グループの名前を決めてもらいます。」という言葉でした。
 三年生の時も集会に入ったけど、もう二年たっていたので、少しはずかしかったです。本番になって私はドキドキしていました。その時は順番に言うことになっていて、私は四番目でした。
 そして、私の番になりました。「はじめにグループごとにあつまって、グループの名前を決めてもらいます。」と言いました。練習の時はすこしくらかったけど、本番の時はましになりました。その時はほっとしました。これからもがんばっていきたいです。  

 

四月十七日 理科の勉強 KH
 今日、五・六時間目理科がありました。米のことについて勉強しました。初めて知ったことは、ビーカーに塩を入れて米を入れると、うくやつはすてて、しずんだやつはつかうという方法でした。もっとすごかったのは、おふろに米を入れて芽を出させる方法でした。はやく芽をだしてほしいです。

 

後略

 

 5年生になってわずかの間に、何とたくさんの学びとの出会いがあったのだろう。その出会いをきちっと書きとめている人がいる。すてきだ。振り返り書きとめることで、確かな自分の知識になる。

 

 

以後、「日記を書こう」シリーズは1学期中に⑦まで発行しています。「題材」指導と友だち理解がねらいです。