教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

生活を綴る⑥

■計画的な綴り方(作文)指導■③

 

「計画的な指導」における記述指導を意識しつつ、「常日ごろの指導」の日記指導を行った5年生1学期の記録(学級通信の一部)より、「『くわしく書く』ということ」の続きです。

 

 

「くわしく書く」ということ(その4) 2003.5.12

 

 「yosh-kマジック」の最終回。「マジック」のタネあかし、いやネタあかしをしまょう。


 今回の「yosh-kマジック」の正体は、「思い出し直し」といいます。

 最初の作文を書くときに、「しっかりと思い出して、順序よく書こう」と言いました。ところが、人間の記憶というのはあやふやなところが多く、大事なことでも忘れてしまっていることもあります。SYさんの作文を借りて勉強したのは、大事なことを書き忘れてないだろうか、時間の順序はあっているだろうかと思い出し直すことだったのです。先生とSUさんの話を聞きながら、みなさんは自分のしたことを思い出し直していたわけです。


 こうした作業を「推敲(すいこう)」といいます。推敲には、余分な表現をけずるという作業もあるのですが、これはまた今度やりましょう。


 OHさんの作文を紹介します。

 

   田植え OH
 いっかい手でさわってみた。田んぼの中は、にゅるにゅるで気持ち悪かった。
 そして足を入れたとき、私の思っていたとおりのかんしょくだった。だんだん足をふみ入れていくと、足のうらがこしょばかった。
 田んぼの中には、こん虫がいろいろうかんでたから、ふくらはぎにあたって少しとりはだがたった。と中でこけそうになったからびっくりして、心ぞうがばくばくしていた。
(植え終えてからの十二行省略)

 

書き出し部分に、「『めっちゃ入んのいややな。かまれたらめっちゃいややん。いたそぉ。』私は親友のSとしゃべっていた。はっきり言って入るのはいやだった。」という4行があります。あってもいいのですが、田んぼに入ってからの会話の方がもっと大事だと思います。みんなの作文には話し言葉が少なかったです。

 

  初めて体験した田植え OH
 いっかい田んぼの中を右手でさわってみた。すると、にゅるにゅるだった。
 Kさんになえをもらって左手で持ったまま、はだしになって、とうとう田んぼの中に入るときがきた。私は右足からずぼっと入った。下まで入ったら、次は左をゆっくりと入れた。田んぼの中はすねぐらいだと思ってたのに、ひざぐらいまできていた。私はなえをおとさないようにぎゅっとにぎりしめて、自分の列までふみ入れた。ようやくついて、私は左手に持っているなえを右手のひとさし指と親指で二、三本とった。そして、こしをまげ、足をひらいたしせいで、かるくなえを植えていった。
 田んぼの中はこん虫がいっぱいうかんでいたから、だんだん植えていったらふくらはぎにこん虫があたって、とりはだがたった。
 と中でこけそうになったからびっくりして、心ぞうがばくばくした。
 ちがう列にうつるとき、後ろにいる人が植えたなえをふんだり、人にかけたりしないように、ゆっくりと右足から後ろにさがった。
 自分の列が終わったときは、もうみんなは地面に上がっていた。私も上がろうとしたけど、Kさんがしんどそうになえを植えていたから、私も少し手つだった。私はたりないなえをわたしたり、あいているところになえを植えたりするのを手つだった。
 やっと手つだいが終わって、地面に上がった。上がったら、Kさんがきて、
「植えてる時と目つきがちがうな。」
と言われた。私は、「よかったぁ。」と思った。

 

 今回のシリーズでは、最初にKTくんが出たっきりで、男子が登場しませんでした。女子の方が作文が上手だということではありません。先生の言っていることに精一杯こたえようとしてくれた結果だと思います。男子の「一生懸命」に期待します。

 

 

「くわしく書く」ということ(その5) 2003.5.13


 会話文を入れる練習をしました。
 話し言葉を入れることによって、場面が生き生きとしてきました。今回は、よみがえった男子の作文を5つ紹介します。
 KYくんとOSくん、TKくんの作文は、田んぼに入って植えるまでの部分です。「ぼくはなえを右手に持って、田んぼに左足からゆっくり入りながら言った」などという表現は、とてもいいです。

 

KY

「T、先に田んぼ に入れ。」
と、ぼくが言った。
「Yが先に入れよ。」
と、Tも言った。
「ほんじゃあ、おれが 先に入る。」
と、ぼくが言った。それから、Kさんに苗をもらって、そおっと田んぼに足をつけた。土はにゅるっとしてやわらかかった。
「どんな感じ。」
と、Tが言った。
「きもちいいぜ。」
と、ぼくが言った。

  

OS
「ここから入れば。」
と、T君がなえを植えながらぼくに言った。
「うん、わかった。」
と、ぼくはなえを右手に持って、田んぼに左足からゆっくり入りながら言った。
「どんな感じ。」
と、K君が言った。
「へんな感じ。」
と、ぼくは答えた。
 一番右の方から、四角になるように左手でていねいに植えた。

 

TK
「なんかいやだなぁ。」
と、ぼくは言った。
「はやくはいろ。」
と、友だちのSがいった。
 ドローンとした田んぼに入った。にゅるとして、ぼくは、
「きもちわるい。」
といった。

 

KM
 早速植えた。苗はうまく立った。どんどん植えていくと、ぼくの前に植えた人の所に来た。
「後ろに行きすぎるなよ。」
と、苗を植えながら言った。
「うん。」
T君が言った。
「どこ植えようかな。」
と、ぼくが言った。
「そこに植えたら。」
と、Fさんが言った。

 

 

OT

「おっ、ここずいぶんあいてるな。」
と、Fさんが言った。ぼくは手をとめて、Fしさんを見て、
「そお。」
と言った。いねのあいだをちぢめて、
「これでいい。」
と言った。
「おう、それでいい。」
と、Fさんが言った。
「わかった。」
と、ぼくは言った。
 Hきくんが後ろにいるので、ぼくは、
「よう。」
と言った。
「おう。」
と、H君が言った。のこったいねをどうしようと思っていたので、
「いねののこりあげる。」
と、ぼくは言った。
「ありがとう。」
Hが言った。

 

 KMくんとOTくんの作文は、植えているときの部分です。「ぼくは手をとめて、Fさんを見て、『そお。』と言った。」という表現、いいですね。

 

思い出しなおしの結果、不必要なくわしい記述というのも出てきます。今回紹介している作文にもいくつもあります。指導の初期段階ではそれでも良しとします。書き慣れるうちに淘汰されていきます。