教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

生活を綴る③

■常日ごろの綴り方(日記)指導■

 

 「綴る」という学習は、「常日ごろの指導」と「計画的な指導」に分かれる。このうち、「常日ごろの指導」は、日記指導と学級通信(一枚文集)をセットにして取り組むのが一般的である。

 

日記指導をこのように  (1988.4)

 

■なぜ日記を書かせるのか


 私たちが日記というとき、それは生活を綴るということを意味する。私たちは、生活者としての子どもが自らの生活台に立って、自分の生活を切り拓いていくことを願っている。生活綴り方はその重要な手段である。子どもたちにひとまとまりの文章を書く力をつけていくための日常的な耕しの場として日記がある。

 日常的な耕しとは、文章表現力をつけるということと、それ以上に重要な要素として、ものの見方・感じ方・考え方を育てるということである。

 つまり、一言で言うならば、子どものものの見方・感じ方・考え方を耕し、生きる力を育てていくために日記を書かせる(一般的にそういう表現をするのでそれにならっているが、個人的には書かせるという言い方には抵抗がある。)ということになる。

 

■何を書かせるのか


 生活を綴るということは、単に生活を記録するということではない。よりねうちあるものへと生き方を高めていくねらいをもっているのだから、それに目を向けさせていかなくてはならない。具体的には…


①自分自身……自分を抜きにしたところでの日記など存在しない。何に取材しようとも、それと自分との関わりあいにおいて書かなくてはならない。その大前提の上に立って、自分がしたこと・見たこと・聞いたこと等の中からいつもと違うことを書く。


②ともだち(学級)……友だちのことで感心させられたことやみんなで考えたいと思うようなことがらを大事にする。


③家族……消費生活ではなく、労働やそれにつながる家庭での会話をこそ大事にする。自分が体を動かして働いたことも大事にしていきたい。


④自然……四季の移り変わりや、それと人間の生活との関わりを書く。


⑤社会……身近な問題や、高学年になってくれば世の中の動きについて、それと自分との関わりあいを大事にしながら目を向けさせていく。

 

■具体的な指導プラン


 ここでは、低学年を意識しながら具体的な展開を提案してみたいと思います。


(1) 一つのことに絞って書くことの指導


 最初ですから、取材はもっぱら自分自身ということになると思います。そこで、次のような投げかけをします。

 

日記には、一日の中で 一番おもしろかったこと 一番おどろいたこと 一番悲しかったこと 一番頑張ったこと 一番楽しかったこと 一番くやしかったこと 一番忘れられないこと 一番困っていること を書きましょう

 

 できれば参考になりそうな作品(その学級のものであればいうことなし。なければ以前自分の学級で書かれたものでもよい。それもなければ他人さまのものを拝借する。)をいくつか紹介してやると子どもにもわかりやすいと思います。そして、それからしばらくの間、赤ペンによる個人指導を続けながら子どもを励ましていきます。取材の広がりについてもちょっと赤ペンを。

 

(2) 順序よく書くことの指導


 一つのことに絞って書く(国分一太郎さんは“えらばせる”という言葉でそのことを言っている。)ことが一定できるようになってきたら、展開的過去形で書くことを指導したいと思います。


 日記でも作文でもいいですから、そのクラスの共通体験(○年生になった日のこと、視力検査の時のこと、みんなで花を摘みに行ったこと、休み時間にあったこと、など)に取材したものを題材にして授業を組みます。


 一人の子どもの作品をプリントして配ります(模造紙に書くのもよい)。まず、書き出しをどうするか決めます(場面の切り取り)。そして、その時のことを作者を中心にしながら順序よく思い出して書き足していきます。もちろん作者が思い出せないときは周りの子が援助すればいいのです。順序よく思い出して書くということが具体的にりかいできたところで、個々の作品の書き足しをします。


 1時間の授業の後は、日常における個別の指導の繰り返しと、併せて時々共通課題の文章(日記でもよい)を書かせてみて紹介してやればいいと思います。


(補足)展開的過去形で書く指導……「したことをしたとおりに、見たことを見たとおりに、聞いたことを聞いたとおりに、時間の順序に従ってよく思い出して、過ぎ去りの形(過去形、でした・ました)で書く。」

 

 


入門期の文章表現指導講座 (1988.5)


 「入門期」というのは1年生と同義語ではありません。確かに、主として1年生の文章を書き始める時期の指導が中心になりますが、「やり直し入門期」の指導も含めて、ここでは「入門期」という言葉を使います。


 「やり直し入門期」という言葉について少し触れておきます。いわゆる入門期の指導をしても、それがすべての子どもに定着していないことがあります。あるいはまた、時には入門期の指導がきちんとなされていないことだってあります。そうした子どもたちに対して、たとえ何年生になっていようとも、再度入門期の指導をしなくてはなりません。その中身についてはこれから徐々に触れていくとして、ともかくもそれを「やり直し入門期」というわけです。


 入門期の目標は、すべての子どもに展開的過去形の文章が書ける力をつけることです。したがってまた、やり直し入門期のめざすところもここにあります。


 えらばせるということを大事にしなければなりません。よりねうちのあるものをえらばせるという中身については、ここではおいておきます。


 ことばには内言語と外言語とがあります。内言語というのは、頭の中での思考の際に使われていることばをいいます。それに対して外言語というのは、表現として外に出てくることばや書きことば(文字)をいいます。そして、内言語が翻訳されて外言語になるのですが、この翻訳が子どもにとっては大人が思っている以上に困難な作業なのです。なぜなら翻訳に使える辞書もないわけで、それはたくさん読んだりたくさん書いたりという経験によって自分のものになっていくものだからです。ですから、子どもに思ったとおりに書けというのはたいへんな暴言なのです。ところが実際にはこれがとても多いですよね。まず、子どもには事実をよく思い出して書くことを求めることから始めるのがいいのだということになるわけです。

 

 

■先達の実践に学ぶ


(1) 絵日記から始める
 ある先生は、1年生の4月8日に日記帳を渡されるということである。これはマス目も罫線もない白いノートだそうで、ここに子どもたちは絵で日記を書いてくるのだそうだ。ぼくは、絵日記というのは上に絵を描いて下に文を書くものと思い込んでいたのだが、なるほど絵だけでも立派な日記になるわけだ。そして、1日に何人かの子どもの絵から聞き取ったことを文字にして入れてやるのだそうだ。何日か続ける中で絵の変化を大事に聞いてやって、それを文字にしてやるということもするらしい。


(2) 展開的過去形で書く

 展開的過去形で書く力をすべての子どもに…(省略)


(3) 会話文を入れる
 展開的過去形の文章を書かせる中で、会話文を入れる指導をしていく。まず、2人でごっこ遊びをして(例えば、一人がお店屋さんになって、もう一人がお客さんになる)、双方のやりとりを「   」に入れて書き取っていく。それができるようになると、次には3人で同様のことをする。つまり、2人の会話を第三者的に聞き取って、“○○が「……」と言いました。”という形の会話文に書く練習をするのだそうだ。


(4) 題名を付けさせる
 1年生の3学期ごろになると、日記にも題名を付けさせる指導をするそうだ。これは、場面を切り取るということで、文章の書き出しとかかわって大事なことらしい。


(5) その他
 この先生は年に4回ほど版画に取り組まれている。日記から場面を選び、版画文集を作られている。5月には最初の文集ができるというからすごい。


※以降省略


 以上のように、「常日ごろの指導」においては、文章表現力とともに価値観(ものの見方、考え方)を育てることを大事にする。