「戦後80年」に紡ぎ継ぐ その３・被爆体験を記録する④から紹介しています講演の続きです。
反戦・反核・反差別
21世紀につなぐヒロシマからのメッセージ
下 原 隆 資 さ ん(元・被爆教職員の会)
■育ったところの言葉で話す
■原爆の死者の数
■自分でしたことは言えなかった
■私には話す責任がある(1)
「戦後80年」に紡ぎ継ぐ その３・被爆体験を記録する⑥
■私には話す責任がある(2)
■私のこと、８月５日
■私のこと、８月６日
「戦後80年」に紡ぎ継ぐ その３・被爆体験を記録する⑧
■私のこと、島へ帰る
「戦後80年」に紡ぎ継ぐ その３・被爆体験を記録する⑧
■戦争と差別
話をとばすようになりますが、実は大切な話が残っておるんです。一番ひどい目に遭ったのは朝鮮の人だ言いました。何でかということを生徒にいつも考えてもらうんですよ。阪神大震災で神戸が大変な目に遭いました。あそこには外国の人が多いんです。私はちょうど１週間目に行ったんです。ところが「おまえら外国人じゃけえあっち行け」言う人はいない。みんな一緒に助け合っとったです。その何十倍もの人を、原爆のときには「おまえ朝鮮人やけ、治療してやらん」言うて追い出したんですよ。そこの違いですね。私はそれが戦争だと思います。
戦争というのはとにかく差別がなかったらできません。相手の国の人も同じ人間です言うたら戦争にならないんです。相手の国の人をやっと殺したらりっぱだと思われるんでしょう。そのためには、相手の国の方が劣っとる、悪い奴や、殺せ殺せとなるわけですね。
実は戦時中にそういう教育を私は受けております。一つの例として、私が３年生の時に、中国の南京でたくさんの人を斬った将校が帰って来て、私の学校に来て全校の生徒を集めて講演してくれたんですよ。題があります。「南京の百人斬り」と言うんです。簡単に言うたら、友だちの将校と100人斬る競争をした言うんです。南京を占領して、問うてみたらお互いに100人以上斬っとるんです。「これじゃ勝負にならんわ、引き分けよう」、「いやおもしろうない、もういっぺんやろう」、「よし、それなら150人斬りしよう」。占領した後ですよ。やったんです。３枚写真を見せてくれました。そのうちの１枚がパネルにした大きい写真です。記念写真ですから本人も写っとんですよ。上に台があって、今でも目に浮かびます。首が並んどんです。わしが斬ったと言うていばっとるんです。だからこれをもらったんだ言うて見せてくれたのが、勲章なんですよ。勲章をもろとんです。新聞の写真です。何と書いてあるかというと、「百人斬り超記録」「向井106、野田105」斬った数と将校の名前です。手柄立てたら名前出ますよ。次にですね、「両少尉さらに延長戦」150人斬りです。手柄として新聞に出とんです。これが戦争なんです。
■原爆と部落差別
戦争というのは差別を強化します。差別がなかったら戦争はできんというのは、私が体験から言うわけです。ですから朝鮮の人がひどい目に遭いましたが、実は部落の人もひどい目に遭っとるんです。部落差別を受けておりますからね。そういう様なことを授業でやっとるんですよ。時間がないんで詳しい事は言えませんが、広島には２カ所の大きな被差別部落があります。そのうちの１カ所は1.7kmから2.5kmの所に、西日本で一番大きいと言われている部落があるんです。私が教員になってから、そこの事が心配でなかまといっしょに市役所へ行って資料をもらって来ました。資料を分析してびっくりしたんですね。
資料をもらうときにまず１つびっくりしました。1.7kmから2.5kmの所に6037人の人が、部落の人が原爆にあっとるんですよ。そしたら市役所の職員が「ちょっと多いんですよ」と言うたんで、「どういう意味ですか」言うたら、空襲になったらいけんから疎開しなさい言われてたんですよ。だからどの町の人も減っとったんですよ。田舎の知った家があったり、みんな行っとったんですね。ところがここだけは疎開してないんだそうです。本当だったら5000人ぐらいに減っとらにゃいけないんですが、実は差別があってどこも引き受けてくれんから疎開してないんですよ。だから1000人ほど余分に原爆にあっているんです。差別がなかったら1000人減っとるんです。
次に即死者は600人と出とんです。それから行方不明が300ないし400と。急性原爆症の死亡者３カ月以内で1000人と。最初はああそうかと思うて見たんです。ところが広島では0.5kmずつで死んだ割合を出しとるんです。それと比べてびっくりしたんです。0.5kmずつですから1.7kmいうのはありません。しかたがないから1.5kmいうたら近い方でしょう。1.5kmから2.5kmと、こっちは1.7kmから2.5kmじゃから、1.7kmいうたら遠いから死んだ割合は少ないと思うたんですよ。ところが即死者の率というのは、1.5kmから2.5kmまでの即死者の割合は５％なんです。ここは6000人で600人死んどるんですよ。10％ですよ。おかしいでしょう。原爆は差別しませんよ。距離で違うだけです。
何でや言うて調べてみたら、小学校の３年以上は学童疎開で逃げておったんです。ここの子だけは連れて行ってもらってないんですよ。これはそこの行っとる学校の先生、やっと２人ほど捜し出して聞きました。「あんたら何でおいて行ったんや」言うたら、「行こう思うて連絡したら、あんたらの学校の部落の子は連れて来るな言われてから、置いて行ったんです」。言わなかった箇所が２カ所あるんです。そこには連れて行ってもろて、30人ほど疎開しとるんです。後は全部、300人置かれて、全滅しとるんですね。普通だったら連れて行ってもろて助かっとるんですよ。
それから急性原爆症で1000人死んどります。ところがよその地域では、２km以上離れとったら急性原爆症になったものは０なんです。これはアメリカ軍が調べとります。ところがここは２km以上離れとるのに死んどるんですよ。おかしいなあ思うてさらに調べてみたら、原爆が落ちて焼けた後、ほとんどの人は郊外に避難をしました。ところがここでは、51.79％の人が逃げてないんですよ。おかしいでしょう。焼けたのに逃げてないんですよ。さらに聞いて回ってびっくりしたのは、逃げようとしたんですよ。そこに軍隊が来とるんです。こんなのは逃がしたら何するか分からない。逃がすな。ちょうど川の中洲ですよ。その橋があるところに軍隊が駐屯したんですよ。一個中隊。逃げられませんよ。だから51.79％の人が避難をようしなかった。避難させてもらえなかった。30％足らずの人が逃げておったんですが、実はこの人たちも20％の人は次の日までに引き返しとんです。理由は自分の出身を言うたらどこも置いてくれないんです。部落の人間は行くところがないからみな帰るんです。帰った人たちは残留放射能をみな浴びますね。すごい量を浴びて急性原爆症になって死んだんです。
ただ長くおらしてもろた人が6.9％おります。これ全部聞き取りしたんですよ。どういうところへ行ったの思ったんですが、これがまた全部いっしょ。みなウソを言うた人です。自分ところを聞かれるんです。私よりみな10ほど年が多いんですよ。ものすごい差別の体験があるんですね。言うちゃおれんいうのがわかっとるんです。あんたどっから来たんや言うたら隣の町を言うんですね。わしゃ天満町から来たんや。なんぼでもおらしてくれるんですね。
そういうことで、すごい差別があったんです。だから同じ距離の全体と比べて２倍半死んどります。1.5kmから2.5kmのところの死亡率は13.8％なんです。0.5km位内だったら100％ですよ。ところがここは6000人おって2000人死んどります。ということは33％ですね。1300人が死ななくてもいい人が死んどるんです。これは原爆の中の差別なんです。このことは知っていただきたい思います。（つづく）
