教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「学びの共同体」と「授業のユニバーサルデザイン化」で授業改革を⑦

「授業のユニバーサルデザイン化」③

 

 

今回も、「授業のユニバーサルデザイン化」をすすめるための具体的な手立てを紹介します。

 

教科は国語、領域は「文学」です。

 

テキスト(参考文献)には、『国語授業のユニバーサルデザイン』(桂聖著、東洋館出版社、2011.2。1870円)を使っています。

 

文学の教材研究の方法

 

 この文章は、2012年10月、4年生の文学教材「ごんぎつね」の授業に際してまとめたものです。

 

文学の授業  4年「ごんぎつね」

 

【ステップ1】および【ステップ3】【ステップ4】【ステップ5】については、

説明文の教材研究の方法(「学びの共同体」と「授業のユニバーサルデザイン化」で授業改革を⑥)を参照してください。


【ステップ2】 文学の5つの読み方


 桂さんは、文学を論理的に読むために5つの読み方を提唱している。


○作品の設定をとらえて読む…「いつ(時)」「どこで(場所)」「誰が(中心人物)」「何をした(事件)」をとらえて読むことである。
 「ごんぎつね」では、「いつ(秋に、二、三日雨がふり続いて、その雨が上がった時)」「どこで(村の小川の川下で)」「誰が(ごんが)」「何をした(兵十が捕った魚やうなぎにいたずらをした)」となる。

 

○視点をとらえて読む…文学作品のほとんどは、語り手が、登場人物の誰かの目と心から語っている。視点をとらえて読むと、人物の心情や作者の巧妙な工夫を深く味わうことができる。
 「ごんぎつね」は、ごんの視点で書かれている。ただし、六場面では兵十の視点に変わる。(視点の転換)

 

○表現技法をとらえて読む…擬声語、擬態語、色彩語、会話文、心内語、行動描写、情景描写、倒置法、擬人法、類比、対比、リズム、額縁構造、文体、呼称表現などの表現技法をとらえて読むことで、その作品世界を深く味わうことができる。
 「ごんぎつね」の「空はからっと晴れていて、もずの声がきんきんひびいていました。」からは、風景の様子が読み取れるだけではない。この情景描写(情景とは、心情が表れている風景)からは、2、3日じっとしていた穴から抜け出した「ごんのすっきりした気持ち」も読み取れる。

 

○中心人物の変化をとらえて読む…物語文指導のキーは、中心人物の変化である。低学年では、中心人物の気持ちが変わることを教える。中学年では、「はじめ→きっかけ→終わり」を考えながら、中心人物の変化をとらえることを教える。高学年では、中心人物の変化をもとに主題をとらえることができるようにする。
 「ごんぎつね」では、「〈はじめ〉ひとりぼっちの寂しさからいたずらばかりしていたごんが、〈きっかけ〉兵十が自分と同じひとりぼっちになったのを知ったことで、〈終わり〉兵十への償いを繰り返すがなかなか思いが通じず、ついには兵十に撃たれ、死を前にしてやっと心が通い合った話。」ということになるだろうか。

 

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○主題をとらえて読む…主題とは、作者が作品を通して一番伝えたいことである。それは作品には明示されていないので、中心人物の変化をとらえた上で考えることが有効である。
 「ごんぎつね」では、分かり合うことの難しさとそれ故の喜びと悲しみということになるだろう。南吉がこの作品を書いたのは、18歳の時である。鈴木三重吉の手がどの程度入ったのかは不明だが、わずか18歳で人生の深淵を見つめられる才には驚くしかない。

 

 

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