勝海舟、そして幕末マニア
何ごとによらず、好きになるということは全ての始まりになります。
私の坂本龍馬好きは、龍馬が師と仰いだ勝海舟への関心へと向かいました。
私が読んだのは、子母沢寛(しもざわ かん)さんの一連の著作でした。
1941年12月から1946年12月まで、「中外商業」(のちに「日本産業経済」「日本経済新聞」)に連載。
『父子鷹(おやこだか)』(全2巻 新潮文庫 1964年)
1960年5月19日から1961年8月13日まで、「読売新聞」(夕刊)に連載。
『おとこ鷹』(全2巻 新潮文庫 1964年)
1960年6月から1961年10月まで、「読売新聞」に連載。
これらの歴史小説を通して勝海舟ファンになるとともに、海舟の父である勝小吉にも興味を持ちました。
そこから小説のもとになっている歴史書に向かいました。もちろん、いずれも活字に整理されたもので、1次史料ではありません。それでも歴史に向き合う出発点になったことは相違ありません。
『氷川清話』(勝海舟 勝部真長編 角川文庫 1972年)
明治になってから海舟が語ったことをまとめた本です。記憶には曖昧な部分もありますし、海舟にはいささか大きく語る癖もあったようで、他の史料で裏づける必要があります。勝部真長(かつべ みたけ)さんは、両著で解説を行っている海舟研究の第一人者です。
『夢酔独言 他』(勝小吉著 勝部真長編 平凡社 1969年)
海舟の父・小吉(こきち)の自伝です。「夢酔(むすい)」は、小吉が37歳で隠居して家督を麟太郎(海舟)に譲った後に名乗った号です。
ちょいワル旗本ぶりが、まるで小説のような自伝です。NHKのBSドラマ『小吉の女房』のモチーフにもなっており、破天荒な小吉を演じた古田新太さんはイメージ通りのキャスティングでした。
海舟への興味は、若き日の長崎海軍伝習所のことや確執のあった主君徳川慶喜のことにも及びました。
『長崎海軍伝習所の日々』(カッテンディーケ 永田信利訳 平凡社 1964年)
カッテンディーケは長崎海軍伝習所に派遣された教育班長です。本の内容は滞日日記抄です。カッテンディーケの海舟評価を見たくて読みました。
『昔夢会筆記 徳川慶喜公回顧談』(校訂著・大久保利謙 平凡社 1966年)
そこからは、『幕末の長州』(田中彰 中公新書 1965年)、『幕末の薩摩』(原口虎雄 中公新書 1966年)、『幕末の志士』(高木俊輔 中公新書 1976年)などへと「守備範囲」が広がり、いわゆる幕末マニアの道を進むことになります。
近年、『勝海舟と西郷隆盛』(松浦玲 岩波新書 2011年)や『それからの海舟』(半藤一利 ちくま文庫 2008年)を読んでいると、旧知の友に会ったような懐かしさを覚えました。海舟のことを「勝っつぁん」と呼ぶ半藤さんの海舟贔屓は相当なもので、私にとっては心地よいシンパシーを抱いた次第です。
まあ、どうってことのない読書遍歴ですが、司馬遼太郎さんの描く「坂本竜馬」との偶然の出会いが、歴史の専門領域の扉を開けるきっかけになったわけです。
今どきの子どもたちで言えば、ゲームやアニメのなかでの偶然が、何か専門の道に進んでいくきっかけになるかもしれません。