教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

退職後を生きる(その3) 年金生活のいま① 

年金生活のいま①

 

退職後は、自分の時間を楽しみたいものです。

しかし、60歳であれ、65歳であれ、70歳であれ、仕事を辞めればやがては収入が途絶えます。

できるだけお金をかけず楽しむ努力が必要です。消費生活のある程度の縮小も必要です。それらは当然のこととしても、お金の心配が大きくなれば楽しむ心のゆとりがしぼみます。

 

65歳以上の高齢者世帯(子どもたちが独立して夫婦だけの世帯)の標準的な生活費は、総務省の家計調査によると1カ月25万円です。

65歳時の平均余命は、男性が約20年で女性が約25年です。つまり、「老後」は20年以上あるのです。

老後の生活費は、

25万円/月 × 12カ月 × 20年 = 6000万円

となります。

車の購入や家のリフォームなどの特別な支出を含めると、さらに多くの資金が必要です。

 

強い意志を持って貯蓄に励める人は、1億円を目標に貯めるというのもありでしょう。私には到底できませんでした(そんな努力をしようと思ったこともありませんでした)。

実際のところ、高齢者世帯の約半数は年金だけで生活しています。金額ベースで言えば、全高齢者世帯の総所得の6割以上が年金です。

 

現役世代の人たちは、年金を自分事として考えたことなどないでしょう。

でも、私もそうであるように、年金は老後の生活の大きな支えになっています。

 

というわけで、年金に関する情報を紹介してみようと思います。

 

公的年金の仕組みと特徴

 

公的年金制度は国の社会保障制度の一環

公的年金国民年金も厚生年金も)は、国の社会保障制度の一環です。個人年金が民業であるのに対して、公的年金は国営保険と言えます。(保険事務を取り扱う日本年金機構は国の機関ではなくなりましたが)

 

国の社会保障制度の柱の1つが「社会保険」です。

社会保険には、「年金保険」「医療保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」があります。「年金保険」が公的年金です。「医療保険」というのは健康保険のことで、健康保険証を持って行けば病院の窓口負担が3割になるというヤツです。

保険制度ですから、加入者は保険料を払うことによって保障を受ける権利を得ます。ちなみに「年金保険」の場合、国民年金については国が、厚生年金については雇用者が保険料と同額を拠出しています。(保険料の2倍の金額を積み立てているイメージです)

 

いきなりですが、結論的なことを2つ。

年金問題を考える際は、年金のことだけを論じていてはダメです。社会保険にかかる国の負担はすべて同じ財布から出ています。税金です。

ですから、年金が増えたとしても一方で医療費の窓口負担が引き上げられたら、素直に喜べる話ではありません。社会保険が充実する一方で、原資となる税金で消費税大幅アップとなればこれも問題です。

要するに、税と社会保障の収支バランス、社会保障費の使途バランスをトータルに論じないと意味がないのです。

 

若い人たちの間で、自分たちは保険料を払っても将来年金をもらえないのではと案じる声があります。

よほど事態が悪化しても、個人が支払った保険料掛け金の2倍が積み立てられているのですから、掛け損をするということは国家としての日本が「倒産」しない限りないと思います。金額の問題は後の回に具体的な数字を使って検討します。

 

世代間扶養の年金方式で貨幣価値変動リスクを回避

公的年金制度の最大の特徴は、「世代間扶養」という仕組みにあります。

「世代間扶養」とは、世代と世代の支え合いのことを言います。

現役世代が納める保険料は、いま現在の年金受給者の年金として使われます。やがて現在の現役世代が年金受給者になったら、その時の現役世代(子や孫世代になります)が納める保険料を年金として受給することになります。

これを「貯蓄方式」と区別して「年金方式」と呼んでいます。

 

「年金方式」のメリットは、貨幣価値変動リスクに強いことです。

年金は、20歳から40年間(厚生年金は50年に及ぶことも)保険料を払い続けます。受給となると、20歳からだと早くて45年後です。90歳での年金受給は70年後のことです。

半世紀も先の経済状況など神のみぞ知る世界です。しかし、過去の歴史からすると、半世紀後の物価は今より上がっていることは確かでしょう。物価が上がれば、それに反比例して貨幣価値が下がります。

つまり、今の時点での100万円の貯蓄は、半世紀後には間違いなく目減りします。

年金の支給額については後の回で触れますが、ある計算式によるその時点の数値で決まっています。「年金方式」では、半世紀後の支給額はその時点での数値で決まることになります。継続するのは計算式で、式に代入する数値はその時の貨幣価値です。貨幣価値変動による目減りリスクがありません。

 

保険料2分の1負担で生涯保障

先に書いたように、年金保険料と同じ金額を国(国民年金)と雇用主(厚生年金)が負担しています。これは1個人の立場から見ると、本来の保険料の2分の1を負担している状態です。これも公的年金の大きな特徴です。

 

年金受給に関しても公的年金の大きな特徴があります。

老齢年金(老齢基礎年金=国民年金、老齢厚生年金)の受給は、1度開始されると生涯続きます。貯蓄のように底をつくということなく、生涯保障です。

 

 

こうしてみてくると、公的年金の仕組み(理念)は結構優れものだと感じます。問題は、その運用にあります。

それは、次回に。