教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

日本語探訪(徒然なるままに) 「侵攻」と「侵略」

日本語探訪(徒然なるままに) 「侵攻」と「侵略」

 

ロシアの対ウクライナ軍事行動に関する報道で、「侵攻」という語と「侵略」という語が混在しているのが気になり調べてみました。

 

広辞苑」を引きます。

 

侵攻

他国または他の領土を攻めおかすこと。侵犯。

 

侵略

他国に侵入してその領土や財物を奪いとること。

 

辞書的には、他国に攻め入ると侵攻で、その結果として領土や財物を奪いとると侵略ということになります。

しかし、領土や財物を奪いとることを目的としない侵攻などあるのかと、素朴な疑問が沸いてきます。

 

深掘りするしかありません。

 

ロシアの対ウクライナ軍事行動は、「侵攻」であることは間違いありません。

問題は、それが「侵略」であるか否かです。

 

1974年12月14日、第29回国連総会で「侵略の定義に関する決議」が採択されています。

第1条(侵略の定義)
侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使であって、この定義に述べられているものをいう。

第2条(武力の最初の使用)
国家による国際連合憲章に違反する武力の最初の使用は、侵略行為の一応の証拠を構成する。ただし、安全保障理事会は、国際連合憲章に従い、侵略行為が行われたとの決定が他の関連状況(当該行為又はその結果が十分な重大性を有するものではないという事実を含む。)に照らして正当に評価されないとの結論を下すことができる。

第3条(侵略行為)
次に掲げる行為は、いずれも宣戦布告の有無に関わりなく、二条の規定に従うことを条件として、侵略行為とされる。
(a) 一国の軍隊による他国の領域に対する侵入若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使による他国の全部若しくは一部の併合
(b) 一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用
(c) 一国の軍隊による他国の港又は沿岸の封鎖
(d) 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍若しくは空軍又は船隊若しくは航空隊に関する攻撃
(e) 受入国との合意にもとづきその国の領域内にある軍隊の当該合意において定められている条件に反する使用、又は、当該合意の終了後のかかる領域内における当該軍隊の駐留の継続
(f) 他国の使用に供した領域を、当該他国が第三国に対する侵略行為を行うために使用することを許容する国家の行為
(g) 上記の諸行為に相当する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する武装した集団、団体、不正規兵又は傭兵の国家による若しくは国家のための派遣、又はかかる行為に対する国家の実質的関与

 

ということは、ロシアのやっていることは当然「侵略」でしょってことになるのですが、侵略がどうかを判断するのは国連安全保障理事会なのです。

そして、そこでは自決権の表れであれば侵略ではないということになっています。ここがミソです。

自決権の表れとは、独立国の独立の維持、自衛を言います。
今回のロシアによるウクライナ侵攻の場合、
ウクライナ東部の2州が親ロシア的な勢力により独立を宣言したとすることで、親ロシア勢力の自決権が行使された。
②ロシアは、その独立した勢力とその勢力圏を国として承認することで、独立国に認められる独立維持の権利を擁護する理由ができた。
③独立維持という自衛権を支援するためにロシア軍が援護した、ベラルーシはその手助けをした(ロシア軍のウクライナ攻撃を見逃して無害通行させた)けど、独立維持の権利を守るためなので責任はない。侵略ではない。
という論法で侵攻を正当化しようとしています。(このくだりは、「Yahoo!知恵袋」の記事をもとにしています)

つまり、「自決権の表れ」という状況を装いさえすれば、侵略ではないと主張できるわけです。

加えて、ロシアは国連安全保障理事会常任理事国でもあります。

欧米や日本は「侵略」という語を用いるに至っていますが、それで安保理が一致することなどあり得ません。

 

広辞苑」の語義は正しくても、世界は辞書どおりにはならないものです。なんだか空しいですが……。