教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

説明文を読む(26)3年「ありの行列」①

3年「ありの行列」(光村図書)

 

「ありの行列」は、1974年版教科書に初出の教材です(2年生の「たんぽぽのちえ」はさらに3年古いです)。半世紀も続く教材には、それなりのワケがあります。

「ありの行列」は、「ザ説明文」と言っても過言ではありません。尾括型三段構成の説明文を学ぶのに、これほど適した教材はありません。

 

さて、いまの教科書では、「ありの行列」は「読んで感想をもち,つたえ合おう」という単元に配置された教材です。

 

学習指導要領で本単元の位置を確認します。

〔知識,技能〕

(1)カ 指示する語句と接続する語句の役割,段落の役割について理解することができる。

〔思考力,判断力,表現力等〕

C⑴ア 段落相互の関係に着目しながら,考えとそれを支える理由や事例との関係などについて,叙述を基に捉えることができる。

C⑴オ 文章を読んで理解したことに基づいて,感想や考えをもつことができる。

C⑴カ 文章を読んで感じたことや考えたことを共有し,一人一人の感じ方などに違いがあることに気づくことができる。

 

本単元は、「読んで感想をもち,つたえ合」うことがメインになります。

感想を持つ前提として、「文章を読んで理解」する営みがあります。その際、「指示する語句」「接続する語句」「段落の役割」「段落相互の関係」「考えとそれを支える理由や事例との関係」が主要な指導事項になります。

 

光村図書のHPにある資料より、単元の指導例を引用します。


全7時間の指導時間のうち、「読み」に与えられた時間は第2時から第5時の4時間です。

2 論理の展開に着目して,教材文を読む。

・文章を「初め」「中」「終わり」に分け,「問い」「答え」がどの段落にどのように書かれているかを探す。

・P102下段「つながりを考えるとき」を参考に,接続語や指示語を手がかりとして,「問い」から「答え」までの論の進め方を確かめる。

ウイルソンの研究の進め方,ありが行列を作る仕組みについて,書かれていることを要約する。

・文末などに着目して,「調べたこと」と「考えたこと」を読み分ける。

 

「国語科『ありの行列』で授業のUD化を考える」に2012年の授業記録を掲載しています。ここではそれを再掲して紹介します。

2012年、この教材を使って、4年生の学級で連続自主公開授業を行いました。授業の流れは、およそ次のとおりです。(この学校では東京書籍の教科書が使われていました。したがって3年時に「ありの行列」を学習していません。)


■公開1■1/5時
 □日時   6月13日(水) 5校時
 □内容   ・文章構成をつかむ。(全体を3つの大きなまとまりに分ける)
       ・問いと答えを見つける。(序論と結論の読み)
 □ポイント ・3段構成の見つけ方
       ・中心文の見つけ方
       ・要点のまとめ方
       ・みんなが「わかる・できる」授業をめざす工夫と配慮

■公開2■2/5時
 □日時   6月14日(木) 2校時
 □内容   ・本論の読みⅠ(ワークシートを使わないで③段落を読み取る)
 □ポイント ・接続語の読み取り方
       ・事実と意見の見分け方
       ・みんなが「わかる・できる」授業をめざす工夫と配慮

■公開3■3/5時
 □日時   6月15日(金) 1校時
 □内容   ・本論の読みⅡ(ワークシートを使って④段落を読み取る)
 □ポイント ・ワークシートの与え方
       ・みんなが「わかる・できる」授業をめざす工夫と配慮

■非公開■4/5時
 □日時   6月15日(金) 2校時
 □内容   ・本論の読みⅢ(⑥~⑧段落を読み取る)

 

■公開4■5/5時
 □日時   6月18日(月) 6校時

 □内容   ・要約
 □ポイント ・要約の仕方
       ・みんなが「わかる・できる」授業をめざす工夫と配慮

5時間扱いにしています。光村指導案は4時間扱いです。両者の関係を整理します。

光村 ・文章を「初め」「中」「終わり」に分け,「問い」「答え」がどの段落にどのように書かれているかを探す。

yosh-k 1/5時 ・文章構成をつかむ。

         ・問いと答えを見つける。

 

光村 ・接続語や指示語を手がかりとして,「問い」から「答え」までの論の進め方を確かめる。

   ・文末などに着目して,「調べたこと」と「考えたこと」を読み分ける。   

yosh-k 2/5時 ・本論の読みⅠ

    3/5時 ・本論の読みⅡ

    4/5時 ・本論の読みⅢ

           ・接続語の読み取り方

           ・事実と意見の見分け方

 

光村 ウイルソンの研究の進め方,ありが行列を作る仕組みについて,書かれていることを要約する。

yosh-k 5/5時 ・要約

 

 

今回は、

光村 ・文章を「初め」「中」「終わり」に分け,「問い」「答え」がどの段落にどのように書かれているかを探す。

yosh-k 1/5時 ・文章構成をつかむ。

         ・問いと答えを見つける。

を紹介します。

 

(1)第1時-文章構成をつかむ 序論と結論の読み

 

教材全体の学習課題は、説明的な文章の要約です。

子どもには、「『ありの行列』を読んで、家族に紹介しよう」と提示しました。学習課題の設定は、「焦点化(補1)の問題です。これは、学習指導要領などを参考に設定します。

  (補1)  「焦点化」するというのは、授業のねらいをしぼるということです。つまり、1時間の授業であれもこれもやろうとしないということです。学習課題をシンプルにすることで、授業が分かり易くなります。教師には絞り込む力が求められます。

 

題名から文章の内容を予想する「題名読み」のあと、全文音読をしました。音読は、ペア (補2)での段落交代読みをしました。

 (補2)   授業のさまざまな場面で、ペア活動を取り入れます。ペア活動により全ての子どもが主体的に授業に参加するようになり、また苦手意識を持つ子の垣根を低くしてやることもできます。

 

初発の感想については次のようにしました。

まず、全員を起立させて、「へえーと思ったこと(初めて知ったこと)」「なんでと思ったこと(疑問に思ったこと)」「すごいと思ったこと(驚いたこと)」を1つ思いついたら座るように指示しました。〔A〕

これによって全ての子の活動スイッチがオンになります。

座ったら、思いついた1つをノートに書かせました。〔B〕

そして、書いたことをペアの相手に話させました。〔C〕

最後に、挙手で全体発表させました。〔D〕 (補3)

全体発表までの一連の手順によって、自信をもてない子どもが生き生きと活動できるようになります。

 (補3) 〔A〕~〔D〕の一連の流れは、子どもを書かざるを得ない、話さざるを得ない状況に追い込む(=全ての子の活動スイッチがオンになる)手法として、自分の授業スキルに加えてほしいです。有効性は私が保証します。

 

続いて、説明文の三段構成図を示し、教材文が「はじめ」「中」「終わり」という組み立てになっていることをおさえました。(補4)(補5)

 

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(補4) 小学校の説明文教材は、基本的に三段構成であり、「答え(主張)」が「終わり」のまとまりに書かれている「尾括型」の文章です。したがって、ここに示した授業のノウハウは、基本的に3年生以上の他教材に適用することができるものです。
    教科書会社によっては、説明文を4つ、5つの大きなまとまりに分けることを求めている場合があります。じつは、これが子どもの理解を妨げ、学習を分かりにくいものにしているのです。教材は基本的に三段構成なのだから、大きなまとまりは「はじめ」「中」「終わり」の3つでよいです。教材によっては、「中」部分がさらに2つ、3つに細分されることがあります。上の図で「事例Ⅰ」「事例Ⅱ」としている部分がそうです。こうした場合も、文章構成図を示してやることですっきり整理されます。


(補5) 「ユニバーサルデザイン化で授業力を磨く」の稿において、授業デザインの部分で「視覚化」ということを書いています。

「視覚化」は「見える化」とも言い、学習課題や学習過程を子どもに見えるようにすることです。

私は、説明文教材を扱う時はまず三段構成を思い起こさせるために上のようなパネルを提示しました。これによって、子どもはこれから取り組むべき課題を理解し、いま取り組んでいる課題の位置づけを確認できます。

私の経験上、「見える化」によって子どもたちの学習理解は格段に深まり、進みます。「見える化」は、あらゆる学習活動において教師が意識して取り組むべき課題であるといえます。

このことは、「論理的な読み」と深く関わります。「ありの行列」という教材を通して、説明文の読み取り方を教えるのです。次に出会う説明文の読みに応用されなかったら、それは論理的な読みの力をつけたことにはなりません。(補6)(補7)

(補6)  「論理」を目標にするというのは、「ありの行列」が読み取れるということではありません。「ありの行列」の読み取りを通して、何に注目して、どういう手順で読んでいけば説明文が読めるかという「論理的な読みの力」を育てることが目標です。そのためには、まず教師が説明文の読み取り方(読みのスキルと言ってもいい)を会得していて、それを「ありの行列」という教材に落とし込む力を持っていなければなりません。


(補7) 「ユニバーサルデザイン化で授業力を磨く」の稿で書いたのはこの部分です。こと国語科においては、これまで教師の意識が希薄だったと率直に反省します。
「論理を目標にする」というのは、算数科に当てはめてみると容易に理解されると思います。たとえば、かけ算の筆算を初めて指導する場面。「34×56」という教科書問題を指導して、筆算を「教えた」と考える教師はいないでしょう。その問題を解くことを通して習得したスキルが他の問題に活かされて初めて、「教えた」ことになります。算数ではそれは自明のことです。国語科だって然り。そのほかの教科だって然りです。

 

文章構成図をもとに、「問い」を見つけさせました。

まず、「問い」は3つのまとまりのどこにあるかを問い、「はじめ」のまとまりであることを確認しました。

そして、「問い」の段落と文を次のようにして見つけさせました


㋐一人読みをして、問いの文にサイドラインを引かせます。


㋑見つかっていないペア相手に見つけ方(文末表現に注目すればよいということ)を教えるように指示しました。思考過程の共有化を図ろうとしています。


㋒ペアで確かめさせます。全員がサイドラインを引いたあと、挙手発表。「挙手-指名」方式を「作業-確認-指名」方式にすることで、全員が表現せざるを得ない状況を作れます。


㋓「なぜ」「でしょうか」を丸で囲ませました。問いの文の見つけ方を確認させるためです。「問いの文の見つけ方」という論理的な読みの力の定着をめざしています。


㋔できるだけ短くまとめてノートに書かせました。文末を「だろうか」と常態にすることを確認しました。


㋕「はじめ」のまとまりでは、「問い」の文が中心文であり、①段落の要点になることをおさえました。(補8)(補9)

(補8)  ㋐から㋕までの指導の流れを、授業展開の基本パターンの1つとして、是非マスターしてほしいです。次の場面も同じ展開になっていますが、これはさまざまな場面に応用できます。


(補9) 3つのまとまりに分けるときは、まず「問い」の文を見つけて「はじめ」がどの段落までかを決めます。

つぎに、「問い」に対する「答え」を見つけて「終わり」がどの段落からかを決めます。

「はじめ」と「終わり」が決まると、その間が「中」になります。

「問い」の文の見つけ方は、「なぜ」「どうして」「……か(?)」といった語に注目して疑問文を見つけます。「問い」の文を含む段落までが、「はじめ」のまとまりになります。

 

次に、「問い」に対する「答え」を見つけさせました。手順は以下の通りです。


㋐「答え」が「終わり」のまとまりにあることを確認します。


㋑一人読みをして、答えの文にサイドラインを引かせます。


㋒見つかっていないペア相手に見つけ方(これから「答え」や「まとめ」を書くぞという言葉を見つければよいということ)を教えるように指示しました。


㋓ペアで確かめさせます。全員がサイドラインを引いたあと、挙手発表。


㋔「このように」を丸で囲ませました。

(補10) 「答え」の文を見つけ方は、「これから『答え』や『まとめ』を書くぞという言葉を見つければよい」という微妙なヒントを与えています。これは、「このように」「以上のように」等の言い回しを指しています。また、「……である。」「……ということができる。」などのように文末が断定調(言い切りの形)になっているのも「答え」文の特徴点です。


㋕要点にまとめます。ここで、要点のまとめ方の指導をした。


 ❶述語を見つけます。(できるというわけだ→できる)


 ❷述語を修飾している語句を見つけます。(においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので)


 ❸主語を見つけます。(ありの行列が)
     

 「ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」

(補11) 「要点」のまとめ方を整理しておきましょう。

なぜ、「主語」ではなく「述語」から見つけるのかと言うと、中心文として選んだ文に主語がないことがあるからです(述語がないことはありません)。その場合、周辺の文から主語を特定することになります。
また、上の例では主語はあるのですが、「においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので、ありの行列ができる。」ではまとめ文としてすっきりしません。かといって、「ありの行列が」から始めると、あとの文が続かないのです。「述語」「修飾語」からその「主体」が「あり」であることが分かります。そこから、「ありは、においをたどって行ったり帰ったりするので、行列ができる。」という要点にたどり着くのです。

 文のまとめ方について。
○文末表現を常態にする。
○できるだけ短くする。修飾語や副詞などで可能な部分を省く。
○指示語はそれが指しているもとの語に置き換える。

 

㋖「終わり」のまとまりでは、「答え」の文が中心文であり、⑨段落の要点になることをおさえました。

 

次回は、本論の読みです。