教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「教職員『精神疾患で休職』最多」を考える

2023年12月22日、文部科学省は令和4年度に精神疾患を理由に病気休職した教職員数が全体の0.71%に当たる6539人で過去最多となったと公表しました。

 

このことに関して、「東洋経済education × ICT」に次のような記事が掲載されていました。引用して紹介します。

教職員「精神疾患で休職」最多、学校と企業の決定的な違い 「心を病んでいる人」はもっと多い可能性も

東洋経済education × ICT

1/7(日) 8:02配信

 

「1カ月以上の病気休暇取得者」の中にも精神疾患
ここ数年、年間5000人台で推移していた教職員の精神疾患による休職者数が、ついに6000人を超えた。学校現場の休職者数が高止まりしたまま、なかなか改善に至らないのはなぜなのか。そして教職員のメンタル対策には何が必要なのか。企業向けのメンタルヘルス対策支援で成長し、教職員向けの支援もスタートさせたメンタルヘルステクノロジーズ社長の刀禰真之介氏に話を聞いた。

文部科学省が2023年12月22日に公表した「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によれば、精神疾患を理由に病気休職した教職員数は全体の0.71%に当たる6539人で過去最多となった。

ここ数年、教職員の精神疾患による休職者数は年間5000人台と高止まりしていたが、ついに6000人を超えた。もちろん、教職員に限らず、社会全体で精神疾患を抱える人が増えていることも背景にあるが、実際に心を病んでいる教職員は、もっと多くいる可能性があるという。

文科省の調査では、精神疾患による休職とは別に『1カ月以上の病気休暇取得者』も集計していますが、その原因に精神疾患の場合があるとみるべきではないでしょうか。そうなれば、実際にはもっと多くの教職員が精神を病んでいると見ることもできます。教育委員会も、現場の精神疾患の患者数を正確に把握しているとは言えないでしょう」

こう話すのは、メンタルヘルス対策支援を手がけるメンタルヘルステクノロジー代表取締役社長の刀禰真之介氏だ。

メンタルヘルステクノロジーズは2011年に設立され、現在は東証グロース市場に上場している。企業向けに従業員の健康をフィジカル、メンタル面で支援する事業が主力で、専門医や産業医・産業保健師の紹介、マッチング、カウンセリングのほか、クラウド型の健康管理サービスなどを提供している。

今回の調査では、「病気休職者及び1カ月以上の病気休暇取得者」は2万376人(全体の2.22%)、このうち1万2192人(全体の1.33%)が精神疾患者としているが、それは「確定」できているものにすぎないという指摘だ。2万376人の中には、教育委員会が把握できていない精神疾患者がまだ含まれるのではないか。そうなれば、その数はさらに増えることになる。


メンタルヘルス対策に本腰を入れて取り組む企業も実は少ない
(略)

メンタルヘルス対策の成果を見るには、休職率を下げることが1つの目安になる。厚生労働省「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタル不調で連続1カ月以上休業した労働者の割合は1000人以上の事業所で1%、退職した人も含めれば1.2%だ。だが、中には2~3%休職者がいる企業も少なくない。

「社員数が1万人いれば、200~300人の社員が病んでいることになります。とくにIT業界では経営の筆頭課題がメンタルヘルスとなるなど、ホワイトカラーでは最もメンタル的に厳しい業界となっています。どんな企業であれ休職者が発生するのは避けられませんが、1%未満で安定させなければ組織は疲弊してしまいます。休職者を減らしていくためにも、教育研修と相談体制の構築、休職・復職の仕組みの設計・運用という3つの機能をカバーするセーフティーネットを構築する必要があります」

こう刀禰氏が話すように、メンタルヘルス対策としてよく知られる3つの予防策がある。

自身の体質を知るセルフケア、管理職が従業員の健康を管理するラインケアなどによって不調を未然に防止する「1次予防」、上司や産業保健スタッフとの相談体制を構築して不調を早期に発見して対応する「2次予防」、メンタルヘルス不調が悪化、再発しない仕組みをつくる「3次予防」だ。これらをしっかり機能させることで休職率を下げる、あるいは安定させることが可能になるという。


ステークホルダーの多い教職員は大変
メンタルヘルステクノロジーズは、2019年から総務省の外郭団体、地方公務員安全衛生推進協会から委託を受け、地方公務員向けメンタルヘルス研修、教育委員会や学校に教職員・メンタルヘルス実態調査のためのヒアリングなども行ってきた。

その経験から、刀禰氏は公務員のメンタルヘルス対策について「基本的にはうまくいっていない。形式的な対応か、そもそも対応してない場合がほとんど」だと話す。それはここ数年、教職員の精神疾患による休職者が高止まりとなっていることにも共通するという。

うつ病適応障害といった精神疾患が起こる要因は、環境変化と仕事の量と質、職場の人間関係が大半です。例えば、環境変化が非常に速くて、毎月400時間も働かなくてはならないほど仕事が多く、職場の人間関係も最悪ならば、精神を病んでしまうのは当たり前です。今はどこも環境変化が激しく、すべての仕事をミスなく、スピーディに対応することが求められ、ちょっとしたミスでも怒られる。そこに人間関係の悪さが加われば、誰でも病んでしまう時代になっています」

企業の一般的な社員のステークホルダーは顧客と上司・同僚くらいだが、とりわけ教職員の場合は上司・同僚、児童生徒、保護者、地域社会とステークホルダーが多い。たとえ優秀な人であっても、教職員のほうが構造上、難しい環境に置かれているという。

「そもそも学校はIT化で世の中から後れをとっており、生産性が高いとは言えません。紙文化で1人1アカウント配布されていないにもかかわらず、デジタル前提で設計がなされている学校もある。ITが得意な人、苦手な人の差も激しく、それを改善できるほどの研修も企業ほど充実していません。そのうえ、長時間労働が当たり前となれば、生産性が上がりません。精神疾患は複合的に要因が重なって発症するものです。学校は構造上、病みやすい環境にあると認識したうえで、まずはセルフケア、つまり自分自身を守る術を身に付けなければなりません」

(略)
                                                                                           (文:國貞文隆)

 

私がとりわけ注目するのは、「ステークホルダー」に関する部分です。

ステークホルダー」という語は、「利害関係者」と訳されます。

私は以前より、教員が労働者として置かれている共通性と、教員ゆえの特殊性について考えてきました。そして、保護者や地域など対外的な関係における個人責任の重さを、「特殊性」の第一に挙げていました。

紹介記事における「ステークホルダー」のくだりは、そのことと重なります。

 

教員の働き方改革が、学校のIT化に重心を置きすぎる感があります。それ自体は他産業・他企業の流れと同様に進めなければなりません。

しかし、それにも増して注力すべきは、教員ゆえの特殊性への手当てです。

紹介した記事は、「保護者、地域社会」については「企業の一般的な社員のステークホルダー」よりも多い部分と指摘しています。そして、この部分への対応が教員の大きな精神的重荷になっていると私は感じています。

最近耳にした1つに、教育委員会に「保護者、地域社会」対応の係を常設しようと準備している市の話がありました。「特効薬」などないでしょうが、考えられる限りの具体的方策を模索してほしいです。そして、教員が授業の質を上げられる環境を整えていくことが、結果的に子どもを守ることになるのですから。