教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「障害者権利条約」と「インクルーシブ教育」③

「事前質問」と「事前質問への回答」

 

2016年5月の日本政府の「政府報告」を受けて、国連の障害者権利委員会による締約国審査(「建設的対話」)が行われます。そのための準備として、「事前質問」と「質問への回答」があります。

2019年10月29日、国連から「第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問」が示されます。

コロナ禍により審査が先延ばしされ、2022年8月22、23日に行われることになりました。それに合わせて、5月31日に「第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問への回答」が提出されています。

 

2019.10.29 第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問
教育(第24条)
24. 以下についての情報を提供願いたい。
(a) ろう児童及び盲ろう児並びに知的又は精神障害のある児童を含め,障害のある全ての者のために,分離された学校における教育から障害者を包容する(インクルーシブ)教育に向け移行するための,立法及び政策上の措置並びに人的,技術的及び財政的リソース配分
(b) 個別化された支援を提供するためにとられた措置。全てのレベルにおける一般の(mainstream)教育において障害者に対する合理的配慮の拒否を防ぐためにとられた措置。また,質の高い障害者を包容する(インクルーシブ)教育についての教職員に対する制度的な研修を確保するための措置。
(c) 全てのレベルの教育(第三次教育及び高等教育を含む)における,性別,年齢,障害で他の生徒と比較し分類した障害のある生徒の退学率。

 

2022.5.31 第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問への回答
教育(第24条)
質問事項24 (a) に対する回答
109. 我が国では、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応えられるよう、通常の学級、通級による指導(多くは週1~2時間)、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の整備を行っている。同時に、学習指導要領の改訂等を通して障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が共に学ぶ機会である「交流及び共同学習」を拡充している。また、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する支援や通常の学級に在籍するための権利保障を進める観点から、立法上、政策上、財政上の措置を講じた(詳細は以下の回答を参照)。
110. 立法措置としては、以下の措置を講じた。
1) 障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという就学先決定の仕組みから、本人及び保護者の意向を可能な限り尊重する仕組みへの改正
2) 学習指導要領の改訂による特別支援学校とその他の学校の教育課程の連続性の強化
3) 通常の学級において学習活動上のサポート等を行う特別支援教育支援員や医療的ケア看護職員の省令への位置付けによる配置促進
4) 高等学校における通級による指導の制度化
5) 公立小中学校等施設に対するバリアフリーの義務化
6) 国及び地方公共団体への医療的ケア児が在籍する学校への支援等を義務付け等
111. 政策上の措置としては、以下の措置を講じた。
1) 交流及び共同学習に関する各自治体の好事例を取りまとめた「交流及び共同学習ガイド」の改訂
2) 授業で活用可能な「心のバリアフリーノート」の作成
3) 通常の学校の教師に対し、特別支援教育科目の履修を必修化するといった、全ての教員を目指す学生が特別支援教育を学ぶ機会の確保
4) 教員への様々な研修の機会の提供等
112. 財政措置としては、教員配置や外部人材の配置を拡充するため、以下の措置を講じた。
1) 特別支援教育支援員や医療的ケア看護職員の配置に係る財政支援の充実
2) 小中学校の通級による指導の教員定数の基礎定数化
3) 高校の通級による指導に関する加配措置の充実

質問事項 24 (b) に対する回答
113. 個別化された支援を提供するため、以下の措置を講じた。
1) 2017年以降の小学校学習指導要領等の改訂において、通級による指導を受ける児童生徒について個別の指導計画と個別の教育支援計画の作成を義務づけ
2) 特別支援教育支援員の配置促進
3) 一人一人に応じた入出力支援装置の整備支援やICT活用にかかる調査研究等、個々の障害の状態等に応じた学びの充実に資する予算の確保
4) 2021年に「障害のある子供の教育支援の手引」を改訂し、学校や教育委員会に各障害種別に教育的対応を明示
114. 合理的配慮については、以下の措置を講じた。
1) 2021年の障害者差別解消法の一部改正により、合理的配慮提供義務を私立学校にも拡大
2) 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における合理的配慮提供事例の提供
3) 学校関係者を対象とした合理的配慮推進セミナーの開催等を実施
115. 教職員に対する研修については、以下の措置を講じた。
1) 通常の学級の教員も含めた全ての教職員の特別支援教育に関する理解促進のため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所や独立行政法人日本学生支援機構都道府県等において研修を実施
2) また、通常の学校の教師に対し、特別支援教育科目の履修を必修化する等、教員が特別支援教育を学ぶ機会の確保を制度化

 

日本政府が提出した「政府報告」に対して、「障害者権利委員会」からはインクルーシブ教育という大前提部分のズレについての「事前質問」が寄せられました。

 

分離された学校における教育から障害者を包容する(インクルーシブ)教育に向け移行するための,立法及び政策上の措置並びに人的,技術的及び財政的リソース配分」、つまり、分ける教育をやめて分けない教育に移行するための法的、政策的、人的、財政的リソース(資源)についての情報を求めています。

 

それに対する日本政府の「回答」はこうです。

我が国では、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応えられるよう、通常の学級、通級による指導(多くは週1~2時間)、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の整備を行っている。同時に、…「交流及び共同学習」を拡充している。

 

質問と回答が全く噛み合っていません。国会答弁と同じ構造です。

日本政府の主張は、つまるところ、今もこれからも分ける教育を続けるということです。少なくとも、質問した側にはそう読み取られるでしょう。

 

分ける教育を通して分けない教育を実現する。ーー論理破綻したあり得ない主張ですが、それをもって審査(建設的対話)に臨むことになります。

 

                              (つづく)