教育逍遙 -小学校教育の小径をそぞろ歩き-

小学校教員として歩んできた小径が、若い仲間のみなさんの道標になることを願って…。

「旭川女子中学生いじめ凍死事件」を対岸の火事にしない②

「いじめ」とは何か

 

旭川女子中学生いじめ凍死事件」について、「Wikipedia」の記事をもとに検証します。

 

Wikipedia

当該女子中学生は2019年4月に北海道旭川市旭川市立北星中学校に入学して間もなく、数人の中学生男女らにいじめられるようになった。

その中の他校の男子中学生に「裸の動画送って」「写真でもいい」「お願いお願い」といったLINEメッセージによる脅迫を受けた。被害者は恐怖を感じて自身のわいせつ画像を当該男子に送り、その画像が中学生のLINEグループなどに拡散され、後日呼び出されて自慰行為を強要されるなどいじめが激化した。

その後、被害者はいじめグループ10人近くに囲まれ、2019年6月22日にウッペツ川へ飛び込み、警察が出動した。

 

2019年6月22日に廣瀬爽彩さん(被害者)がウッペツ川へ飛び込んだことで、問題が表面化します。

 

いじめへの対応は教育の営みとして必要です。加えて、2013(平成25)年6月28日に公布された「いじめ防止対策推進法」によって、法に基づく義務行為として取り組みが求められています。

 

いじめ防止対策推進法

(いじめの早期発見のための措置)
第十六条 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを早期に発見するため、当該学校に在籍する児童等に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、いじめに関する通報及び相談を受け付けるための体制の整備に必要な施策を講ずるものとする。
3 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員がいじめに係る相談を行うことができる体制(次項において「相談体制」という。)を整備するものとする。
4 学校の設置者及びその設置する学校は、相談体制を整備するに当たっては、家庭、地域社会等との連携の下、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利その他の権利利益が擁護されるよう配慮するものとする。

 

(学校におけるいじめの防止等の対策のための組織)
第二十二条 学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする。

学校は、「学校いじめ防止基本方針」を策定するとともに、「学校いじめ対策組織」を設置することになっています。

そして、「学校いじめ対策組織」を中心に、いじめの早期発見のために定期的な調査を実施しなければなりません。

 

当該学校(旭川市立北星中学校)の実態はどうだったのでしょうか。

一応組織はあったとします。アンケート調査も実施されていたようですが、当該生徒からも周りの生徒からも、声を拾い上げるに至っていません。

ここがまず第1の問題点です。

もしも「学校いじめ対策組織」が生徒に近い組織であり、アンケート調査が機能していたら、その後に起こる問題はなかったのです。

それは、「組織」や「調査」の問題ではなく、学校という存在(あるいは個々の教師のありよう)が生徒に近いものであったのかどうかが問われているのです。

対岸の火事にしない検証ポイントです。

 

Wikipedia

証言
・被害者の親族によれば、2019年4月から6月にかけて合計4回にわたり母親が2019年当時の担任教師へいじめの調査を依頼したが「本当に仲のいい友達です」などと返答された。また被害者が担任教師へいじめの相談をした際、加害者には言わないよう願い出たにも関わらず、その日中に加害者に知れ渡り不信を抱かせた。

 

いじめ防止対策推進法

 

(いじめに対する措置)
第二十三条 学校の教職員地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする。

2 学校は、前項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。

3 学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする。

4 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。

5 学校は、当該学校の教職員が第三項の規定による支援又は指導若しくは助言を行うに当たっては、いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう、いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。

6 学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。

 

「2019年4月から6月にかけて合計4回にわたり母親が2019年当時の担任教師へいじめの調査を依頼した」「被害者が担任教師へいじめの相談をした」というのは、法23条の「児童等からいじめに係る相談を受けた場合において」に該当します。

担任は、「児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置」をとらなければなりません。そうしないと法令違反になるのですが、問題は「いじめの事実があると思われるときは」という文言です。相談を受けた担任がいじめではないと判断すれば、その後の行為義務はなくなることになります。

そうでしょうか。

 

いじめ防止対策推進法

 

(定義)
第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう

「いじめ防止対策推進法」は、「いじめ」とは、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいうと規定しています。

加害者や教師や第三者が「認定」するものではないのです。はたからは「ささいなこと」に思えても、当人が心身の苦痛を感じているのであれば、それは「いじめ」なのです。ーー学校の対応のスタートラインがここにないものだから、その後の齟齬が生じるのです。

 

旭川の件で言えば、担任教師が当該生徒からの訴えがあった時点で、さらにはまた保護者からの相談があった時点で、「学校いじめ対策組織」に報告する義務があったはずです。

当人や保護者が「痛い」と訴えた時点で、少なくとも「いじめ」の存在を疑うべきです。個々の教師がそうした認識に立たない限り、法律も組織も絵に描いた餅に終わってしまいます。子どもの命を預かっている教師は、肝に銘じてほしいです。

旭川の件を対岸の火事にしないための最大のポイントは、ここにあります。

 

事象を受けた教育の営みはそこから始まるのです。

 

                             (つづく)